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20. 保存食も結界で

「ありがとうございます、レオナルド。

 とても美味しかったです」

「それなら良かったです」


 慣れない食べ方に悪戦苦闘する私を、レオナルドは不安そうに見ていました。

 それでも感想を聞いて、ようやく安心したように微笑みました。



「ふう、ごちそうさまでした」


 新鮮なモンスターのお肉に加えて、簡易結界内に備蓄された保存食も貰いました。


 ここまでお腹いっぱい食べられたのは、いつぶりでしょう。

 食事の余韻に浸る私に――



「おかわりはいかがですか。

 まだまだ、用意してありますよ?」


 現実を直視させないで欲しい。

 私とレオナルドは――余ったモモント牛を、そっと押し付け合っていました。

 いくら新鮮で美味しくても、2人で食べきれる量には限界があります。

 

「私はもう、十分すぎるぐらいに頂きました。

 レオナルドこそ、私に遠慮する必要はないですよ?」

「ミリアお嬢様に、美味しいものを食べて欲しかったんです。

 ついつい、張り切ってしまいました」


「張り切りすぎです。

 とても、食べきれませんよ……」


 ジトーっとした目で、レオナルドを見てしまいます。

 むしろ2人だけで、よくぞあの巨大なモモント牛を1体丸ごと食べきったものです。

 


「もったいないですが、捨てるしかないですね」

「そういえば、簡易結界には薬品や食料品を残すのがマナーなんですよね?

 残しておけば喜ばれるのではありませんか?」


 あれほど美味しかったものを捨てるのも勿体ないです。

 レオナルドにおずおずと提案します。

 


「次に人が利用するのは、いつか分かりません。

 こんなところにモンスターの死体を置いておくと――」

「置いておくと?」


 レオナルドは、恐ろしいことを思い出したとように顔をしかめ



「……ひどいものでした。

 結界のせいか、他のモンスターの餌になることも無かったのでしょう。

 腐った臭いがあたりに漂って、変な色のウジが沸きたい放題。

 ――地獄のような光景でした」


 遠征の疲労でクタクタのときに立ち寄った簡易結界。

 ようやく休息を得られる、と喜び勇んで入った矢先のそんな光景。

 レオナルドは、心底いやそうな顔をしていました。 


「要するに腐らせずに、鮮度を保てれば良いんですね?」

「それはその通りですが……ミリアお嬢様、いったいなにを?」


 私は鎮座するモモント牛に歩み寄ります。

 役に立つチャンスです!



「そういうことは得意分野です。

 見ていてください!」


 ここでも結界の術式を応用します。


 ここには儀式をするための用意はありません。

 時を止めるような、高度な術式は使えないでしょう。

 それでも菌の繁殖を抑えて、食べられる状態を保つことぐらいなら十分に出来そうです。



「どれぐらい保てば良いですか?

 何の準備もしていないので、一か月ぐらいが限界かもしれません……」

「い、いっかげつ!?」


 レオナルドは、何故か驚いた表情を浮かべます。

 一か月では、問題外ということでしょうか?

 それなのに力になれる、と張り切っていたのが恥ずかしい。



「ご、ごめんなさい。

 人がいつ来るかも分からないのに、話になりませんよね。

 分かりました。すぐにでも儀式の準備をして――」


 そそくさと小屋の中に戻ろうとします。

 儀式衣装や錫杖はなくても、愛用している宝玉さえあれば付与する結界を強化できます。

 1年でも10年でも持たせて見せましょう。

 必要だというのなら支援効果だって――



「待ってください! 逆です、ミリアお嬢様。

 一週間もあれば、確実に誰かが立ち寄ります。

 そもそも魔法で食べものの鮮度を保とうとか、どんな発想をしていらっしゃるんですか……。

 使う魔力と効果の釣り合いが取れなくて、誰もやろうとしませんよ」


 呆れたように、レオナルドは言います。



「そうなんですか?

 国を覆う結界維持や毎朝の魔力奉納に比べたら、消費魔力は微々たるものだと思いますが……」

「明らかに比べるものが間違っていますよ」


 そう言われても、他に基準がないので分かりません。

 がくりと脱力するレオナルド。


 国を守る力なんていりません。

 これからはレオナルドとの旅を快適に過ごして、幸せになるために全力で力を使うと決めたんです。



 私は使い慣れた聖魔法の結界術を、モモント牛に付与していきます。

 最初は凶悪なモンスターに見えていましたが、こうやって見ているとつぶらな瞳をしていて可愛いです。

 誰かのお腹に入る時まで、どうか安らかに。

 願わくばここに立ち寄った誰かに、美味く食べて頂きますように。



「終わりました、これでばっちりです!」

「早!? 手際、良すぎませんか?」


 ぽかんとするレオナルドを見て、私は不思議に思います。

 小さなモンスター2体を対象とした、とても簡単な術式なのに。

 これぐらいは一瞬で終わらさないと、国にいた頃ならどやされてしまいます。




◇◆◇◆◇


「レオナルド、少しこっちに来てください」


 朝食を終え、簡易結界内の後始末もこれで大丈夫。

 出発の前に、私はどうしてもやっておきたい事がありました。



「ミリアお嬢様? どうされましたか?」

「約束どおり、さっそく結界を付与してみたいと思います。

 少しだけ動かないで下さいね」


 怪訝な顔をするレオナルドに向かって、私は手をかざします。


 練り上げるのは、レオナルドに合わせた結界の術式。

 昨日のような付け焼き刃で、不格好なものではありません。

 レオナルドに流れる魔力の流れに合わせて、それと相互に高めあうような――レオナルドに合わせた結界術です。

 そのはずでしたが……



「ふう、出来ました――が、やっぱり私は未熟ですね。

 まだまだ理想は遠いです」

「自信を持ってください。

 国にいるSランクの魔術師より、ミリアから頂いたお嬢様の結界の方が心強いです」


 落ち込む私に気を遣ってくれたのでしょうか?


 レオナルドは、いつものように私の結界術を褒めてくれました。

 たとえお世辞だとしても、それだけで私の心はポカポカと暖かい。

 これからも出来るだけ力になれるように。

 喜んで貰えるように力を磨き続けよう――私は、改めてそう決意するのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「自信を持ってください。  国にいるSランクの魔術師より、ミリアから頂いたお嬢様の結界の方が心強いです」 となっていますが、 ミリアお嬢様から頂いたの間違いですよね(^^;)
[一言] 早く続きを読みたいです(๑♡ᴗ♡๑)
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