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19. パクリといって下さい

聖女の力を利用して権威を手にしていた組織の名前を「研究所」から「教会」としました。


「レオナルドのためだけの、特別な結界です。

 楽しみにしていて下さいね?」

「ありがとうございます。楽しみにしていますね」


 私のやることを楽しみと言ってくれるレオナルド。

 気合を入れる私を、彼は微笑ましそうに見つめるのでした。



 それからもレオナルドはじーっと私の方を見ていました。

 その様子は、まるで私の言葉を待っているようで――


「レオナルド、それでは頂きましょうか」


 用意されたモモント牛を見ながら、おずおずと提案。

 その言葉を聞いて嬉しそうにレオナルドは丸焼きにされたモンスターの元に向かうと、手にした剣で豪快にブツ切りにしていきました。



「凄いですね。

 モンスターを食べる日が来るなんて、想像したこともありませんでした」

「ミリアお嬢様とこうして外で食べられるなんて、僕も夢みたいですよ。

 騎士団の仲間と遠征先で食べた時も、ここにミリアお嬢様をお招きできればと――何回思ったことか」


(騎士団の仲間と、遠征先で食べた――?)


 どういうことでしょう?

 こてんと首を傾げた私に、レオナルドは困ったように曖昧な笑みを浮かべていましたが、



「ここまで来れば、さすがに宣誓魔法の効力も及びませんよね。

 教会に結ばされた契約魔法のせいで、話せませんでしたが実は――」


 国ではほとんど語ろうとしなかった、騎士団での職務。

 レオナルドは、ぽつりぽつりと話し始めました。



「僕たちみたいな貴族から疎まれた団員は、騎士団で冷遇されていました。

 命を落とす可能性が高い危険な依頼を、優先的に押しつけられてきました」

「……それも許しがたい話です」


 前にも聞かされた話ですが、何度聞いても憤りを抑えられません。

 自らの従者に対するあからさまな不当な待遇をフォード王子に訴えてみたものの、まるで相手にされませんでした。



(まだ国には、そういう人が残ってるんですね……)


「そういった危険な任務には――結界の外で遠征に向かうこと。

 危険な地域に結界技術を提供する、なんてものもありました」



 驚愕の事実でした。


「あの国は、結界の中に閉じこもっていた訳ではなかったのですね。

 レオナルド以外にも、結界の外側を知る人は多いのですか?」

「一緒に遠征に行った仲間もそうだし、僕をさらった奴隷商も知ってるね」


 レオナルドは肯定。


「結界の外にも普通に生活している人がいるし、モンスター相手でもその気になれば渡り合える。

 その事実は教会の存在意義を、大きく揺るがすものです。

 その依頼を受けさせられる者には――命を対価とする誓約魔法がかけられました」


 結界が無ければ、この国は滅んでしまう。

 だからこそ聖女の力を活用して、結界を維持する教会は国の発展のためには必要不可欠。

 その事実が国民に浸透していたからこそ、教会はあれほどの権威を持つことになったのです。



(そんなこと、もう関係ないですね)


 冷や水を浴びせられた気分です。

 国のことを思い出すと、どうにも心が冷え切って行きます。

 レオナルドと共に旅する今の生活は、とても楽しいものなのに。




「さあ、冷える前に頂きましょう!」


 レオナルドは、つとめて明るい声を出します。

 私も、目の前の食事に意識を戻すことにしました。


「レオナルド、これはどうやって食べるんですか?」


 手渡されたお皿の上には、ブロック状のお肉の塊が乗っていました。


 国では、まともな食べ物は与えられませんでした。

 私に対する嫌がらせなのか、「ここに居られる身分ではないのだぞ」と常に突き付けるためか。

 与えられたのはかび臭い黒パンや、腐りかけた残飯――それでも、こんな肉の塊をドーンと寄こされたことはありませんでした。


 おずおずとレオナルドに尋ねると、



「少しだけ塩をかけて――パクリといって下さい」

「ええ……?」


 困惑した私をよそに、レオナルドは本当にそのまま肉を手づかみ。

 そのままかぶりついてみせました。



「こんな感じです」


 そう笑いかけてきます。

 そう言われても――この塊にそのままかぶりつけというのは、少し勇気がいりますよ。



「……申し訳ありません。

 つい、遠征中の仲間と同じように勧めてしまいました。

 こんな粗雑な食べ方、とてもミリアお嬢様にはさせられません」

「いえ、少し驚いただけです」


 特別扱いしないで欲しい、と言いながらこの体たらく。

 遠征中の仲間と同じように扱ってくれているというのなら――



 私の手元には、ホカホカと温かい湯気を立てる焼き立てのお肉。

 香ばしく焼き上がっていて、とても良い匂いです。


(塩をかけてから――かぶりつく!)


 おそるおそると。

 慎重に、そして大胆に。



「ッ! あ、熱いです。

 水、水っ!」


 涙目になった私に、レオナルドが慌てて水を差し出しました。


 ガッツリと弾力のある、食べごたえのある肉。

 国で出される嫌がらせのような品とは、比較するのも馬鹿らしいぐらい美味しいです。

 まさか魔物の肉を食べよう日が来るとは思っていませんでしたが――



「ありがとうございます、レオナルド。

 とても美味しかったです」

「それなら良かったです」


 慣れない食べ方に悪戦苦闘する私。

 レオナルドは不安そうに見ていましたが、感想を聞いてようやく安心したように微笑みました。

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