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18. 聖女の加護

「――どうか信用できる人の前でだけ、使うようにしてくださいね」


 レオナルドは極めて真面目な顔で頼み込むのでした。 



 小屋の外に出ると、真っ先に巨大な牛型の魔物が視界に入りました。

 串刺しになったまま、火に炙られるように見えます。

 下手するとレオナルド自身よりも大きいのではないでしょうか。


「え、えっと……レオナルド?」

「はい、ミリアお嬢様。

 足りなければ、おかわりもございます」


 指差した先には、更にひとまわりは大きい魔物の姿。

 そちらは血抜きのみを行い、いつでも調理できるよう下準備が施されています。

 几帳面なレオナルドの性格が出ているようです。



(……って、そうではなくて)


「え、えっと。これだけの魔物をレオナルドがひとりで倒したんですか?」

「はい! 採れたてを食べていただきたくて、気合を入れました!」


 当たり前のような顔で答えるレオナルド。

 慌てている私がおかしいのでしょうか。



「こんな強そうな魔物。

 ひとりで大丈夫だったんですか?」

「朝食前の軽い運動にはなりましたね」


 これほどの魔物を、朝食前の軽い運動と言い切りますか。

 あっけらかんと答えるレオナルドに呆れてしまいます。



「さすがレオナルドです」

「すべてミリアお嬢様の加護のおかげです」


 はて、加護とは何のことでしょうか?



「私の加護?」

「僕が毒で動けなくなったときに、かけて下さったじゃないですか?」



(ああ、花の魔物と戦ったときにかけたものですね)


 そんなに持続するとは驚きです。

 それは結界の作りを流用した、即席の回復魔法の亜種。

 加護などという大層な物ではなく、その場しのぎのつもりでした。



 聖女の加護。

 それは大切なものに捧げる神聖な術式。

 「加護を寄こせ」と要求してくる貴族に親しみを持てるはずもなく、国で加護の術式に成功したことは一度もありませんでした。


「体に羽が生えたみたいに軽いんです。

 ひとりでモモント牛を倒したなんて、騎士団で話したら夢でも見てるのかと笑われてしまいますよ」

「倒せたから良いものの――無理だけはしないで下さいね?」


 私が眠りこけている間に、そんな危険な魔物と戦ったんですね。

 思わず非難するような目を向けてしまいます。



「すいません、せっかくミリアお嬢様に加護を頂いたのです。

 ついつい試したくなってしまったんです」


 しょんぼりと肩を落とすレオナルド。

 そこまで喜んで貰っていると――本当のことを告げるのが、少し申し訳なくなりますね。



「ごめんなさい。

 それは加護なんかではなく、結界術を応用したオリジナルの回復魔法です。

 あんな中途半端な結界の効果が、まだ残っていたのですね」

「オ、オリジナルの魔法?

 回復魔法に、何故こんな効果があるのですか!?」

 

 そんなこと言われても……。


「そんな貴重なものを、僕だけのために使って下さったのですね!」


 悲しむどころか、レオナルドは勢いよく身を乗り出してきます。

 どうも逆に喜ばれてしまったようです。



「咄嗟のことで――なんの技巧も凝らされていない不格好な術式です。

 未熟な魔法で恥ずかしい限りです」

「そ、そんな馬鹿な……。

 謙遜しないで良いんですよ?

 加護でなく支援魔法、でもなく回復魔法? ……だとしても、その優秀さは国のお抱えの魔術師も目じゃないです!」


 お抱えの魔術師のレベルが、そんなに低いわけないじゃないですか?

 レオナルドもおかしな冗談を言います。



「私が納得いかないんです。

 結界を人間用に最適化できたら――またやり直させて下さい」


 元・聖女のプライドにかけて。

 あんな出来損ないの結界もどきを、大切な従者にいつまでも纏わせているわけにはいきません。



「それにいずれは、あなたに加護を授けたいです」

「ミリアお嬢様」


 聖女にとっては加護がどれだけ重要なものか、レオナルドは知っています。

 それは信頼の証。

 レオナルドに対してなら、成功させられる気がします。


 すべては私の大切な人のため。

 どんな外敵からでも守ってくれる、最高の加護を授けたいものです。



 その前にまずは――


「レオナルドのためだけの、特別な結界です。

 楽しみにしていて下さいね?」

「ありがとうございます。楽しみにしていますね」


 気合を入れる私を、レオナルドは微笑ましそうに見つめるのでした。



 結界の範囲は、服に合わせるのが良いでしょうか?

 それとも既存のアミュレットを補強する形で考えてみましょうか?


 強制的に力を使わされていた国では、決して味わえなかったでしょう。

 そして何より――



(それを「楽しみ」と、レオナルドが言ってくれてるんです)


 これ以上のやりがいはありません。

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