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17. 子供っぽい願い

 私が欲しかったのはきっと――


 『よく頑張った』って。

 ただそれだけの言葉。


「ミリアお嬢様は頑張ってきました。

 本当に頑張ってきました」


 自分でもどうかと思う面倒くさい要求です。

 それでもレオナルドは、嫌な顔ひとつせず応えてくれます。

 その言葉はどこまでも暖かい。


 恐怖心が消えていきます。


(彼と一緒なら。

 国での嫌な記憶も忘れることができるのでしょうか?)



「ありがとうございます。もう大丈夫です」

「ミリアお嬢様。どうか自分の思うままに生きてください。

 望みを隠す必要なんて、まったくないんですから」


「どれだけ願っても、私の望みなんて叶わないと思ってました」


 恥ずかしさから、私はちょこんと椅子に腰掛けます。


「どんな願いでも遠慮なく言ってください。

 これからは、すべて僕が叶えてみせますから」


 力強く言いきるレオナルド。



(私の望み。幸せになることかな?)


 考えてみます。

 なにも思いつかませんでした。


 レオナルドに「頑張った」と言って貰えただけで、胸がポカポカしています。

 既に満足でした。

 これ以上の望みなんて、特に浮かびません。


「特に思いつきませんね」


 私はレオナルドを見上げて口にします。

 これまで心を殺そうとしてきた代償でしょうか。



「……ミリアお嬢様らしいです」


 レオナルドは、そう嘆息(たんそく)



「何でも良いんですよ?

 僕にして欲しいことでも、今したいことでも」


 そう言われても困ります。

 強いて挙げるなら――




「頑張ったと褒めながら、頭をなでてください」


 レオナルドの優しい手を見ながら。

 それは思わずこぼれ出た言葉でした。



(――って私は何を言ってるの!?)


 こんな子供っぽい願い。

 レオナルドだって、ぽかんとしてるではありませんか。

 わたわたと慌てる私を余所に、



「そんなことで良いんですか?」


 彼はやっぱりいつもの暖かな笑みを浮かべ、


「ここには、ミリアお嬢様の敵はいません」

 

 ぽんと私の頭の上に手を置きました。


 言い聞かせるように。

 幼子をあやすように。

 小さな壊れものにでも触れるように、優しく私の頭を撫でました。


 目を閉じてもレオナルドの温度を、暖かさを感じます。

 それがあれば、どんな強固な結界よりも安心で――

 私は気がついたら、目を閉じていました。


 そして――




「ッ!?」


 気がつくと簡易的なベッドで横になっていました。

 外からは日の光が差し込んで来ています。


(ウソ? 私、あのまま眠っちゃったの!?)


 どれだけ気が抜けているのか。

 

 一気に目が覚めました。

 まさかあのまま一晩寝こけてしまったというのか。

 それよりレオナルドはどこに?



「おはようございます、ミリアお嬢様」


 キョロキョロと辺りを見渡していると、小屋にレオナルドが戻ってきました。


「ご、ごめんなさい。

 まさかあのまま眠ってしまうなんて」

「無理もありません。

 歩き詰めでお疲れだったんですよ」


 何でもない事のように言うレオナルド。

 叩き起こしてもらっても、全然構わなかったのに。



「……おはようございます」

「ミリアお嬢様、喜んでください。

 イキの良いモモント牛が手に入りましたよ!」


「モモント牛?」

「保存食だけじゃ味気ないと思って、狩りに行ったんですよ!」


「ひ、ひとりで魔物を狩りに行ったんですか?」

「すいません。気持ち良さそうに眠っていたので……。

 この辺のモンスター相手なら、ミリアお嬢様の手を煩わせる必要もありませんよ」


 そう言いながらも、私の不満そうな表情を読み取ったのか


「わかりました。次からは起こします!」


 最後にはそう約束してくれました。



 改めてレオナルドの様子を観察します。

 朝から取れた新鮮な食材を楽しみにしているのか、ホクホク顔です。

 心なしか血色も良いように見えます。


(朝からお腹いっぱい食べられるなんて、いつぶりだろう)



「……私の結界は役に立ちましたか?」

「はい。おかげさまで、見張りの必要もなく良く眠れました。

 いつもより疲労の回復も早いような気がします」


 あれだけモンスターと戦ったのに、とレオナルドは不思議そうな声。


「結界に疲労回復の効果も入れてあります。

 効いたなら良かったです」

「そ、そんなことも出来るんですか?」


 レオナルドは驚きの表情を浮かべます。


「はい、長く持たせないで良いなら。

 死んでなければ、だいたいの怪我も治療できます」

「……どうして使い捨ての結界に、そんな凝ったことをしたんですか?」


「範囲も狭くて、魔力にも余裕があったので――つい」


 何かまずかったのでしょうか?

 あの時は、役に立てるということを示したくて必死だったんです。



「『つい』でそんなプレミアがつきそうな、トンデモ結界を張らないでくださいよ」

「トンデモ結界、ですか?」


 レオナルドから呆れたような視線が飛んできます。 


「ええ。旅の常識が完全に変わるようなヤバイ代物です」

「は、はあ……」


 国であれだけ欠陥品と言われ続けた私に、なんとも大げさな。

 私を励まそうと大げさに言ってるのかと思いましたが、レオナルドの表情は至って大真面目。


 どう言われていようと、聖女の力これまで国を守護してきた力。

 その力は個人が持つ力としては、あまりにも規格外なものだとレオナルドは言います。

 はあ、と間抜けな相槌をうつ私に、



「僕はミリアお嬢様に好きなように生きて欲しいです。

 なので……その力を使わないで下さいとは言いませんが――どうか信用できる人の前でだけ、使うようにしてくださいね」


 聖女の力を利用しようとする人は少なくないと思うから、とレオナルドは不安そうな表情に。

 極めて真面目な顔で頼み込むのでした。

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