黒-1.転生
うっうう。ちきしょう、目がかすんできやがった。さすがに俺もここまでみたいだな。
俺は今、椅子に縛り付けられ殴られている。何でそんなことになったのか。少し時間を遡って話そう。
黒井翼、それが俺の名前だ。俺は十六歳だが、普通の高校生という訳では無い。一際目付きの悪い俺は何かと絡まれる体質で町を歩くだけで喧嘩をふっかけられていた。本当、何もしてない無いのに理不尽だ。だが、俺も厄介なことにそんな奴等にイライラしてしまうしょうも無い性格で、売られた喧嘩は買い、そして勝ち続けてきた。気が付いたときには町一番の不良とか不名誉な称号がついてしまう始末。本当、ため息をつきたくなる。
さて、今の状況になったのは三時間前、下校中のことだ。寄り道もせず真っ直ぐ家に帰ろうとしていると、いつものように目付きが悪いと喧嘩をふっかけられる。やれやれと思い、俺はその喧嘩を勝ったのだが、それが間違いであった。
俺が相手にしてしまったのはこの町では有名な半グレ組織の下っ端。そいつの実力はたいしたことは無かった。だが、喧嘩の途中邪魔が入る。背後から俺は頭を棒状の何かで殴られたのだ。半グレの仲間がやって来たのか、その不意打ちに反応できなかった俺は意識を失い、気が付いたときには拘束され、リンチを受けていたという訳だ。
口答えするごとに、いや、口答えしなくても殴られ続け、もう痛みの感覚も麻痺している。
ああ、ロクな人生じゃ無かったな。普通に、ただ普通に生きたかった。父ちゃん、母ちゃん、ごめん。俺死ぬわ。俺はゆっくりと目を閉じた。
プツンと途切れる意識。その一秒後には体の感覚は何も無く、意識だけハッキリとしていた。
何だ?死ぬとこうなるのか?
「おいお前、我の声が聞こえるか?」
ん、お前って俺のことか?ん、ん、ダメだ。返事しようにも口が開けない。
「よい、お前の言葉は思っただけで我に聞こえる。」
思っただけで?それはすごい。俺は黒井翼って言うんだけどあんたは?
「我はゾルダート。魔神とも呼ばれておる。」
魔神?何だか物騒な感じだな。それで、その魔神様が何の用ですかい?
「我は神の仕事としてお前をある世界に転生させようと思っている。そこは人族と魔族の暮らす世界だ。その世界でお前を魔族に転生させる。」
魔族?何か悪者ってイメージがあるんですけど、人族に転生ってのはダメなんですか?
「魔族が悪と言う訳では無い。ただ人族と魔族は戦争をしているゆえ相対すれば敵とは見なされるだろうな。我はお前に魔族となりその戦争を止めてもらいたいと思うておる。」
戦争を止める…ですか?でも人間やってやれることと、やってやれないことがある訳でですね、これは後者だと思うんですけど。
「何心配はいらない。我の力でお前を強くして転生させる。その世界でも指折りの技能を付与してな。」
指折りの技能ですか。それはまたすごそうですね。
「ああ。だから安心して転生しろ。では行くぞ。」
行くぞって、まだ!俺の意識はまたプツンと途切れた。
再び意識を取り戻した時にはどこか知らない部屋の中に居た。立派な造りの赤ん坊用のベッドの中、俺は自分の手を見る。見た感じは普通の手、ちょっとだけ爪の尖った普通の手だ。それと背中と腰の辺りに違和感がある。羽?尻尾?やっぱり人間じゃ無いのか…。
もう少し辺りを見回してみる。このベッドの隣にそれまた立派なベッドがあり、そこに一人の女性が寝ていた。これが今度の母ちゃんか。その横顔は綺麗で、そして優しそうな、そんな風に感じた。
ふうっ。これからどうなるんだろな。俺はそっと目を閉じた。




