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白-3.戦場

生活地区に近付くに連れ、騒ぎの音は大きくなる。いや、騒ぎのある方から何かが近付いてくる。その正体は直ぐに分かった。

 人ならざる異形の者、魔族だ。魔族の軍勢がこの町に攻めてきたのだ。

 目の前を行く兵士達は混戦となっている場所へと散っていく。俺はと言うと戦場を前に足が止まっていた。文字通り死に物狂いで向かってくる敵の狂気に当てられ足が竦んでしまったのだ。

 怖い。行かなきゃ…、母さん達が…、そう思うのに怖くて体が動かない。戦争を止めるなんて楽勝?バカを言うな、こんな臆病な俺に、まだ覚悟も無い俺に。戦いを甘く見ていた。

 打ちひしがれている俺の前で、大きな爆発が起こる。あれは火の玉を打ち出す魔法。母さん!確証は無いけど、きっと母さんのものだ。母さんも戦ってる、そう思うと不思議と恐れが和らいだ。

 震える手足に力を入れる。両手のひらを敵の方へ。一つ呼吸を取り、火の玉を撃つ。放たれたそれは敵を捉え、着弾と同時に爆発を起こす。肉は吹き飛び、血と共に辺りを汚した。

 うぅ。敵とは言え、殺してしまった。戦争をしている以上仕方の無いことだと分かっているが、うぅ。

 ただ沈んでばかりもいられない。攻撃をしたことで俺も標的になったからだ。叫びながら向かってくる敵を同じく火の玉で吹き飛ばしていく。

 二人、三人と魔族を殺していく内に心の中にある罪悪感は薄れて行った。いや、麻痺していったと言うのが正しいか、俺の心から何か大切なものを失っていくようなそんな気がした。

 目の前の敵は兵士の人達の力もあり、あと少しで全滅と言うところ。漸く落ち着いたかと思った頃には爆発の熱に当てられ髪は焦げ、緊張からか全身汗ばんでいた。やっぱり実戦は違うな。

 そうだ母さん達を探さないと!戦いの場はここだけじゃ無い。早く行かないと。

 先程爆発があった方へと足を急がせる。途中兵士達から「行くな!」、「そっちじゃ無い!」などと声をかけられたが、かまうものか!息を切らしながらも兎に角走った。

 爆発があったのはここら辺だ。家に大分近付いてきた所、辺りには俺がさっきやったように爆発で肉片になった魔族の死体、それから人族の死体が転がっていた。そこに母さん達のものは無い。何処に行ったんだ?

 ん!突然背後から強烈な痛みを感じ、倒れ込む。気が緩んでいたのか、緊張で周りが見えていなかったのかは分からない。でも、そのふとした瞬間にも敵はやって来ていたのである。前世で言うところの鬼がそこにはおり、更に俺を殺そうと棍棒を振りかぶっていた。

 死。二度目のそれを意識した俺は恐怖で体が強張り動けなくなった。

 しかし、その結末は変わったのである。鬼は自分に着弾する火の玉で吹き飛んだのだ。横たわる俺は鬼の血肉を浴びながら火の玉が飛んできた方を向く。そこには普段は絶対に見せない程激高した母さんの姿があった。

 母さんは直ぐに俺に駆け寄るとぎゅっと抱きしめ、「無事で良かった。」と涙を滲ませる。俺はその温かな感触に声を上げて泣いた。ここは戦場だと言うのに構わず。

 だが、敵はそんな俺を待ってはくれない。声に反応し、やって来る敵を母さんは結界魔法でせき止め、炎魔法で仕留める。そこで初めて母さんの強さを知った。どんな魔法も使えると高をくくっていた俺とは違う真の強さと言うようなものを。

 両手の頬を思い切り叩く。こんなんじゃダメだ。俺だって…。ゆっくりと立ち上がり、敵の方を向く。よし、行くぞ!

 次第に勢いの弱まる敵の攻撃。あともう少しだというのが分かる。このまま乗り切れば…。

 敵の方も焦り始める。もうダメだと。そんな時一人異質な魔族が俺達の前に姿を現した。それは大剣を手にしたデュラハン。禍々しいオーラの放つそれは相手をしなくても分かる、強いと。


「フェル、逃げなさい。」

「嫌だ、俺だって戦う。」


 強い口調で言われるそれを反発するように答える。


「いいから逃げなさい!あれは普通に戦って勝てる相手じゃないの!」

「嫌だったら嫌だ!」


 食い下がっていると母さんは俺のお腹の方に手を向け、風魔法を展開させた。反応できなかった俺は突風により遙か後方へと吹き飛ばされていく。

 遠く飛ばされた俺は、民家の壁に激突し、止まる。背中に痛みを感じつつも立ち上がり、さっきまで居た場所を目指して足を進めた。

 走っている中、何やら笛の音が聞こえたと思うと近くに居た魔族達は皆一様に退却していく。成る程、さっきのあれは退却の合図か。だとしたら母さんはあの魔族を退けたんだな。良かった。

 しかし、その思いは少し違っていた。さっきまで戦っていた場所には魔族は居ない。やはり退却していた。だが母さんは、母さんは胸を剣で貫かれ、地面に横たわっていた。触れても、声をかけても反応が無い。それどころか体はすっかりと冷たくなっていた。

 泣いた。声を上げて、顔を母さんの胸に埋めて。

 どうして、どうしてこんなことになった?昨日まであんなに穏やかだった日常が、突然の襲撃にこんな、こんなことになるなんて。

 許さない。絶対に許さない。あの魔族、絶対に殺してやる。その時俺は深く胸に誓った。

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