白-1.転生
深く、底の見えない沼に落ちる様な強い眠気に襲われる。意識を保とうと体に力を入れようとするが、それもかなわず、ただ体の熱を失っていく。
死。頭を過るその文字に恐怖が膨れ上がる。俺の人生はここまでなのか、この先どうなるのか。怖い、怖い、怖い。体は更に冷え、頭の中にそれだけが埋め尽くされていた。
プツンと、テレビの電源が落ちる様に真っ暗となる視界。その一拍の後、急に意識がハッキリとし出した。一体何なんだ?
意識はハッキリとしているが、目を開け、辺りを確認することはできない。それどころか体の感覚も無く、手や足を動かすといったこともできない。
そんな時、ふとあることを思い出した。死ぬと魂だけの存在となると言う話を。今の俺は魂だけの存在。そう考えるとこの状況、納得できる。つまり俺は完全に死んだのか。
「幸太郎、聞こえますか。私の声が聞こえますか。」
頭の中に直接響く様なその声。初めて聞くこの優しく語り掛けるようなこの声は一体。女性の声だとは思うが…。
「私はセルフィー。生と死を司る女神です。」
女神。まさか神様が話しかけてくるとは。でもどうやって返事をしたらいいのか全く分からない。
「そのまま頭の中で考えるだけで良いですよ。私は貴方の心と直接会話ができますので。」
便利なものだ。さすが神様だ。
それで、女神様が俺に話し掛けてきたってことは死後の世界への案内とかですか?
「そうです。幸太郎、貴方はこれから新たな世界に転生して頂きます。その世界は人族と魔族の暮らす世界。貴方が居たの世界で言うファンタジーの世界とでも言いましょうか。」
ファンタジーの世界ってことは魔法とかが使えたり、スキルとかレベルって概念があったりするんですか?
「良くご存知ですね、その通りです。」
うほっ。そんなのゲームとかラノベとかで良く聞く話じゃないか。スゲー面白そうじゃん。なんだか心がわくわくしてくる。
「興味があるようで何よりです。先程も言いましたが、その世界は人族と魔族が暮らしています。しかし、仲が悪く、現在戦争をしているのです。私としてもどうにかしたいのですが、直接手を出すのは神々の法に触れる為、悩みの種になっているのです。そこで貴方にはこの戦争の終止符を打って欲しいのです。」
戦争を終わらせるって言われても死ぬ前の俺はただの高校生。何かできるとも思えないんだけどな。
「それなんですが、貴方は死ぬ間際トラックに轢かれそうになった少女を救うという良き行いをしました。これに対しての褒美として貴方には幾つかのスキルを付与させて頂きます。」
転生特典ってやつですか!ってことは俺TUEEE的なこともできたりとか?
「そうなるかは分かりませんが、その世界で役に立つスキルを選ばせて貰いますね。ではスキルを授けましょう。」
魂だけの体がぽうっと温かくなる。これでスキルを貰えたのか?
「上手くいった様ですね。では貴方を転生させましょう。貴方のこれから人生に幸多いことお祈りします。」
その言葉の後、またプツリと意識が途切れた。
次第にハッキリとしだす意識。どこか温かい。それと手足の感覚がある。背中のこれは誰かの腕?俺はそっと目を開いた。
久し振りの明るさに眩しいと感じ目を細める。目に映るのは知らない部屋の中。それに…。
「あなた、ほら目を開けましたよ。」
「本当だ。かわいいなあ。」
若い男女が俺の顔を覗き込みながら笑っていた。
俺のこの小さな体にこの二人。どうやら俺はこの二人の子供らしい。そして今度も男に生まれたみたいだ。
新しい人生の始まり、戦争を終わらせるって使命もあるけれど今の俺は赤ん坊。直ぐには無理だけど大人になれば戦争に駆り出されるかもしれない。それまでに力を付けないと。