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「クロエ、お前のお手柄だったよ。これで犯人が分かる」


「そうなの?」


 馬車は王宮に急いで向かって出発した。夕日が沈む光景を見ながらクロエは力なく答えた。ラキュリスに無視されてからずっと心が痛いのだ。


「結局、誰が犯人だってみんな思っているの?

 あたし、あのケーキじゃよくわかんない」


(そう、あのパウンドケーキであんなにも打ちひしがれた王子と公爵。

 それはきっと心当たりがあるから)

 ガタガタと揺れる馬車の中はクロエとアルマ二人のみ。


「陛下の倒れた茶会、あの時に出されたのが、最近ヘルネ姫にお菓子作りを習って喜んでいた皇后陛下の作った菓子だったんだ。

 皇后陛下はパンケーキやパウンドケーキを最近よく作っていたそうだ」


「犯人は皇后陛下って?」


(じゃあ、あの王子の「そうだとしたら、オスカーが一番傷つく」っていう言葉は、そういう意味だったんだ。なんてこと)

 自分の母が父と自分を亡き者にしようとした、と想像するだけで身震いがする。

(王子はきっと仲の良い皇太子様の気持ちを自分のことのように想像しちゃったんだろうな)

 そうだとしたら、ショックのあまりに自分を冷たく無視しても仕方がない事だったのかもしれない。


「今日の結果、一番疑われるのはそうだろうな。

 ここだけの話、あたしはてっきり姫さんか、ダリルだと思ってたんだ。

 皇后陛下にメリットがないからな。でも、家族仲っていう音は本人達しか解らない。

 前回失敗したから警備が厳しくて時期を(うかが)っていたって考えもあるし。

 あとは皇后陛下の部屋の中に証拠があるかどうかだ。例えば今日お前が持っていった巾着袋があれば決定打だな。

 しかしまあ、あれだね。

 現場にあんなケーキなんか落ちてちゃ、いくら美味しくてもしばらく同じもは口にしたくないね」


 さすがにアルマも今回の件は気分が滅入るらしく、言葉に覇気(はき)がない。


「現実は辛くても受け止めねばならんからな。

 それに皇太子殿下も既に自分の母上も犯人の可能性を若干疑っていらっしゃったからな」


 クロエは今日あった一連の出来事と、今まで聞いた事件の話を思い出す。

 朝、ラキュリスに連れられて学院に行き、そこでスケベな学院長の魔の手から救ってもらい、毒を盛られたという知らせを聞いて王宮に駆け込み、毒を調べろとアルマに頼まれ再び学院に行き、襲われて・・・・・・。

 そこで何かが引っ掛かった。


「お婆ちゃん、おかしいよ」


 もう一度記憶の糸をたどる。どうしてもおかしいことがある。


「どうした、馬車に酔ったか? 

 それとも今日の疲れが出たか?」


 膝に手を置き(うずくま)る様にして思いだそうとするクロエ。

 その姿をアルマは勘違いして対面の席から横に移動し背中をさすった。


「ごめん、お婆ちゃん、気持ち悪いわけじゃなくて。

 思い出してみたんだけど何か引っかかる事があるの」


「なにが?」


 クロエはじっと一方を見つめ出し考え込む。


「そうだよ、お婆ちゃん。

 今日取られた巾着袋持ってる人が犯人の可能性があるなら、あの人達は、あの袋を取り返すことが第一目標だった。

 で、袋を取り返して真犯人に渡して、真犯人から渡されたケーキを毒と思わず賊は口にして死んだ。

 おかしいよ。

 あたしに、あの巾着袋渡した時、皇后陛下は居なかったよね。

 あたしが袋渡された瞬間を見た人しか、あたしがその袋持っていること分からないはずだよ。その時は皇后陛下はいらっしゃらないよ」


「確かに言われてみればあの時はいらっしゃらなかったな。内通者が他にも居る可能性があるのか。

 やっぱりお前の記憶力は大したもんだよ」

 アルマが珍しく目の前にいる人間を褒めたというのに、当のクロエは再び記憶の糸を手繰(たぐ)り寄せるために自分の世界に入っている。


「お婆ちゃん。

 もし、犬達があの匂いを追ってさっきの場所に行ったんだったら、本当の犯人が見つかるかもしれない。

 それにあの中には、ナツシロギクの入った筒が入っているし、あの袋、マリウス達が命中させた薬がべったりくっついていたもの。

 いくら小さな袋でも、警察犬なら追えるでしょう。

 探す犬達にあの臭いはかわいそうだけど」


 話を聞いて頷いたアルマは、馬車の小さな窓を開け、声を張り上げてオスカーを呼び、再び警察犬と憲兵を放つように訴えた。


読んでいただいてありがとうございます。

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