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赤い服のアマルーテ学院専属の憲兵達と王宮の緑色の精鋭部隊達が取り囲む王弟殿下のいる奥宮の部屋に向かう。
すれ違う召使いや宮中の人間がまるで珍獣でも見たような顔で一行を見ているのはきっと「毒で重体」の皇太子、公爵、アルマがぴんぴんした足取りで、しかも怒涛のような速足で他を従えて歩いているからだろう。
ここでも「倒れているはずでは?」という憲兵達の驚いた顔など無視して「通せっ」と、一言で中に入っていく。
「叔父上、俺だ、オスカーだ」
他の奥宮の部屋と同じく天幕の布がかかった部屋の中で壁の隅にうずくまり震えている赤い髪の、線が細い三十代後半と思われる男。
大男のオスカーよりも頭三つくらい背は低く、体の細さが着ている衣からでもよくわかる。
オスカーの声を聞いた途端、背の高いオスカーの足元にすがる様に跪き、甥の無事を確かめる姿はとても威厳のある皇帝一族とは思えない。
「オ、オスカー、無事だったか、良かった。次は俺かと思ったんだ。
なのに憲兵達がいきなり来て、俺の離宮で・・・・・・」
「大丈夫だ、叔父上、俺は生きているし、叔父上が犯人だとは思っていない。
ただ、これから俺達は叔父上の離宮へ行かなくてはならない。
今日アマルーテ学院にいたマリウス達を襲った賊が叔父上の離宮で発見されたというから、確認しに行かなくてはならないんだ」
王弟殿下という人物を初めて見たクロエは、その方があまりにも大人らしくない大人というかまるで皇太子と年齢が逆ではないかと感じ、その光景にぽかんと口をあけて眺めているとイリアスがそっと教えてくれた。
「王弟殿下はもともと気が弱い方で、ああいう気性の方なんだ」
「そんな、賊の逮捕など憲兵に任せればいいではないか。危険極まりない。
兄上に続いてお前もだなんて考えたくもない。
義姉上もお前が倒れた姿を見て、気も狂わんばかりだったのに」
(この人はあたしが王宮で出会った男の人たちの中で少しタイプが違う人かも)
王になるには心が弱く、ただの人なら優しい人なのかもしれない。とクロエは思った。
「大丈夫だ。傍には腕利きのマリウスやラキュリス王子、イリアスも一緒に行く。
だから、叔父上もここで待っていてくれ」
叔父である年上の男にまるで子供をあやすように優しく微笑みかける皇太子。
「ただし、絶対毒見されていない食べ物は口にするな。
食べるならそこの庭の魚に少しやってからにしろ」
聞きわけのない子供を諭すようにオスカーが年上の叔父の頭を大きな手で撫でながら諭す。
「分かった。気を付けて行くんだよ。
君達も気を付けるんだよ。
憲兵達が一緒に行動していても、危ないときは危ない。
絶対大怪我をしちゃいけない、命は粗末にしちゃいけないよ」
大の大人が半泣きしながら訴える姿は、本来ならみっともない事この上ないのだろうが、どこか純粋さを残している風情があるせいか、周りも畏まって頭を下げた。
「では行こう。
ダリル、奥宮の監視を任せるぞ」
踵を翻し、一行はダリルが用意した馬と馬車に乗り、離宮に向かった。
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