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王宮に戻ってきたクロエ達を待っていたのは内大臣ダリル。
内壁の検問の兵が、三人の姿を確認するや否や王宮に使いを出したのだ。
その理由を聞くと内大臣がじかにこの検問場にやってきて、三人が戻ったら連絡をよこすように指示した、と答えた。
「よっぽど待っていたんだな」
そして、王宮正面にたどり着く前に、内大臣ともあろうものが王宮から供も付けずに駈け出して来た。
内大臣ダリルの表情は先ほど奥宮で会った時よりも憔悴しきっていて、人間半日でこうも変われるのか、と思えるほどのやつれ具合だ。
「ご無事で何よりでした。
先ほど、学院であった事件を聞き、心臓が止まるかと思いました。
ラキュリス殿下、何とぞ、この国の・・・・・・」
「ああ、気にするな。狙われたのは私ではない。
おそらく薬師の能力があると思われたこのクロエだろう」
ダリルに心配無用、と言いながらも、目つきは鋭い。アクアマリンの瞳に静かな怒りの光を浮かべて忠告する。
「このまま賊を野放しにしておくのは許せんな。
従兄弟のイリアス、友好国の皇太子のオスカー皇太子までもが襲われているのも許せん。
全力を持って事件を解明するように」
「はい、それはまさに、仰る通りでございます。
ただ、まことに情けない話ですが、あの後、皇太子殿下の部屋で殿下達が毒を盛られた騒ぎのときに、何者かによって荒らされていたことが判明しまして、しかも、そのことが王宮内で話が広がって王宮は手のつけられない騒ぎになりまして」
「なんだと?」
「なにもとられた形跡はないと思うのですが、あの事件の後ですし」
額の汗を拭きながら話すダリルの姿は、とても普段「鬼の内務大臣」と呼ばれる皇太子の腹心とは思えない姿だ。
おそらく、次から次への事件に彼の許容量も超えたのだろう
「しかも先ほどの学院のお三方の件ですが、すでに王宮の本殿の方まで広まっておりまして、参上していた各大臣や貴族、各国の大使の方々など、それはもう右往左往の酷い騒ぎになりました。
今しがたちょうど王宮の屋敷にお戻りになったオラセフ学院長に正殿へ足を運んでいただいて皆様に話をしていただきました。
「大事のときに騒ぐでない、諸国や蛮族にこのことを知られたらそうする?
諸国大使の方々、今回の件が万が一貴方がたの国の者の犯行だった場合どうする?」
と申されましたら、皆様静かになさってくださいました」
「爺さんも役に立つんだなあ。さっき俺が蹴った爺とは思えない」
内大臣から予想外の人物の意外な行動を聞いて感心する三人。
「ただのスケベじゃなかったってことだな」
男二人の感想に苦笑いをしつつも内大臣は、三人を正殿ではなく直接奥宮に行ける道に案内しながら話し続けた。
「また、犯人がその王宮内に今もいる可能性もあると警察庁の長官の指示もありまして、本日は参上していた者はすべて王宮の控えの棟で嫌疑が晴れるまで、失礼がないように待機して頂くようにしました。
まだ王宮には参上されていない大臣、及び外国の特使および貴族の方々は参上して頂くのをやめていただくように急ぎ早馬を走らせ、王宮正殿の入り口は出入りを止めたのでございます」
早口で今までの出来事をまくしたてるように伝えるダリルに三人は同情を禁じ得ない。
「それは、恐ろしく大変だったろうな。でも待機させられる方が帰りたいと文句を言うんじゃないのか?」
「はい。ですが、それは何とか言い含めるのが王宮の役人の仕事ですから。
それで、お戻りのところ、大変心苦しいのですが、もう一度お三方には皇太子殿下の許に来ていただけないでしょうか」
「それはいいが、奴等、良くなってんのか?」
「それはご自分の目で。アルマ様は驚異の回復力です」
ダリルの意味深な言葉に三人は首をかしげたが、案内されるまま王宮の奥宮に入って行ったのである。
三人が看病されている部屋の場所は変わらずそのままのようだ。
ダリルは正殿でまだまだ駆けずりまわらなくてはならないことがあるらしく三人を残し去って行った。
奥に進むと、既にアルマは椅子に座って粥を食べていた。
目を疑う三人。
「最強だな、あの婆さんは・・・・・・」
「ああ。私もそう思う」
やってきた男二人の声が聞こえたのか、むっとした顔で三人を見据えたアルマはクロエの姿を見るなり手招きした。
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