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 騒ぎの後、残った憲兵達に事の中身を聞かれたクロエは、正直にアルマに頼まれた薬草の薬作りに学院に来ていて、お手洗いの帰りに後ろからいきなり襲われたと答えた。

 起こったことは正直に、ただしこの研究室でやっていた本当のことは内密にして差し障りなく伝えた。

 同じ部屋でマリウス達も質問されている。

 彼らはクロエが部屋を出た後に、廊下と窓から侵入してきた賊に襲われたようだ。

 研究室に入った男達は四人。だが、マリウスとラキュリスはいっぱしの鍛えられた武人よりも腕がたつ。護衛の応援もありあっという間に返り討ちにし、護衛がねじ伏せた賊を捕えられた。

 しかし、元々言い含められていたのか四人とも襲ってきた理由を聞き出そうとする前に持っていた薬で服毒自殺した。

 その状況に舌打ちする間もなく廊下でクロエの叫び声。その声を聞いた二人は慌てて廊下に飛び出したという訳だ。

 事情を聴いた学校の憲兵達がその遺体と状況を検分すべく研究室に入っていった。

 開けられたドアから割れたビーカーやフラスコの破片、銅製の鍋などが散乱した室内の風景が見えた。

 部屋の中にその襲撃者の遺体は憲兵達の手から帝国の警察のもとに引き渡されて、調査されるのだという。

ク ロエやマリウスだけならまだしも、さすがにエリスフレール王国の王子を襲ったという話になれば、ただの国際問題どころか、下手すれば戦争が起きる事態にもなりかねない。

 憲兵達は青い顔でラキュリスに頭を下げて、平身低頭で事件解明をラキュリスに誓った。


 この学院開校以来かつてない騒ぎにも関わらず飄々(ひょうひょう)とした表情で現れた学院長は、まだ話を聞きたい憲兵達を無視して「もういいじゃろ」と、三人を自室に呼んだ。


「こんな騒ぎはおそらく学院始まって以来じゃないかのう」


 まだ、皇太子暗殺未遂の件は知らないといい、学院長は呑気すぎないかと思う男二人だが、学院内で騒ぎが起きてしまった以上、事件当事者の自分達が学院長の呼び出しに応じないわけにもいかない。

 クロエは、そんな中、ずっと取られた袋のことを考えていた。

(でも、袋はとられたけど、引き出しの中に入れた薬は大丈夫かもしれない。あとこの二人は犯人の可能性はないって分かったし)

 研究室にある簡易椅子に座った四人。

 さて、学院長にはどう話を切り出そう悩んでいたら、勝手に学院長が自分で話を作って思い込んでしまった。


「やっぱり、マリウス、あれか。

 薬師の不審死というのは、何か一連の事件が絡んでおるんかな。

 まさか、見習い薬師のクロエちゃんまで狙われるようでは、何か背後に大きな者がおる。絶対おる」


 大きくため息をつきがっくり肩を落とす学院長。


「で、それよりもクロエちゃん、怪我はないか?」


 だが溜息で吹っ切ったのか、すぐに深刻な表情をから猫なで声を発し、椅子から降りてきた。


「わしはこう見えても医学博士だからのう、診察して・・・・・・」


 さっきの真面目な態度はどこに消えたのだろう。その手つきに思いっきりマリウスが学院長を蹴り飛ばす。


「この、エロ爺がっ!

 お嬢、ラキュリス、帰るぞ」 


 転がったのは本日二回目の学院長。

 敬老などという言葉はこの爺だけは対象外だと言い捨てられてしまう。


 学院長の煩悩(ぼんのう)に呆れた三人は、その後いったん現場の研究室に戻った。

 賊が自殺したと聞いた後で部屋に入るのは気味が悪かったが、とりあえず、持って帰る物を持って帰らなかったら、と思うと死んだ幽霊よりアルマの怒りの方が恐ろしい。

 マリウスの話では、賊に襲われた割には、自分達の腕がいいので物の破壊量は大したことはない、という話だったが、棚のガラス戸は割れ、半分とは言わないが三分の一ほどガラスの実験用具が消えていた。

 つまり、割れたということだろう。

 憲兵達の手なのか、部屋はかなり綺麗になっていてガラスの破片や、マリウス達が切りつけたという賊の血は残っていなかった。

 実験台の上に辛うじて残っていた数本の湿布用のペーストの入った瓶と精油の小瓶、そして、生の葉っぱの残りを袋に詰める。

 慌ててクロエが例の引き出しを開けると、そこには銀のピルケースとナツシロギクを入れたもう一つのケースが残っていたので、クロエはほっと胸をなでおろした。

 そこで、ふと思い出した。

(ナツシロギクって育毛の可能性がどうのこうのって文献がお婆ちゃんの家の棚にあった気がする……。

 もしかして、お婆ちゃん、学院長のために何かしてあげるんだろうか)

 そう思うと分からなくもない。学院長と結婚していたことですらずっと黙っていたのだから、きっと照れて、愛情表現が上手くないんだ、と思えた。


 帰り道、警護に着いた憲兵達と一緒に王宮に戻る。


 だが、王宮ではさらに驚く事態が待っていた。


読んでいただいてありがとうございます。

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