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ぼくは自衛斗真

 僕の名は自衛斗真(じえいとうま)。日本のK県のM高校の、しがない高校生である。つい最近高校生になり、学校生活にも慣れてきた所である。

 恋人はいない。モテる人でもない上に、そこまで恋愛に向ける情熱は無いから。好きなジュースはゼロカロリーのコーラ。勉強の程は、中の上ってトコかな。将来は、誰でも行けるような進路を進み、誰でもできるような仕事をして、平凡な人生を送るつもりである。

「よう斗真!」

 遠くから、声が聞こえる。見知った友達だ。

「あ、田林くん。」

 声を掛けてきたのは、田林隆人(たばやしりゅうと)。この僕の中学以来の友達だ。と言っても高校ではクラスが別になってしまったし、知り合ったのも中学の三年の頃もあって、知り合い以上親友以下の関係だ。

「最近どうよ?勉強頑張ってる?」

「ぼちぼちかな。」

 他愛のない話をしながら歩く、通学路。M高校までは、あと15mって所。時間にも余裕はあるので、ゆっくり歩く事にした。

「この前のDLS見たか?エロゲーはサキュバスが激戦区になってるんだぜ!」

 田林くんは、所謂(いわゆる)オタクという奴だ。出処の分からない金にもの言わせて、アニメグッズ、アイドルグッズ、声優のCDの収集をしていたり、他県に行ってライブとかお渡し会なんて物にも行ってる。授業中は無気力なくせに、好きな物の事になると途端に情熱的になる奴だ。

 つい最近は、エロゲーにもハマってるらしい。DLSというサイトで、エロゲ漁りしてるのだ。

「もう……そんな事できる歳じゃないでしょ、僕達。」

 かく言う僕も、彼に影響されてオタクロードに片足突っ込んでる所ではあるが。

 確かに、ここ最近のエロゲ業界のサキュバスの流行りようは異常である。まぁ僕は、20〜30代前半の妙齢お姉さんが好きだから、そちらばかり見ている。故に詳細は知らない。

 そんな話をしていたら、学校に着いていたのだった。


「じゃ、俺こっちなんでー!」

「ハイハーイ。」

 田林に手を振り、それぞれのクラスにつく。6組で編成される1学年で……彼は4組で、僕は2組だ。

 学校は、いい事ばかりではない。

「……」

 このクラスには、問題児がいる。女子の氷川華鈴(ひかわかりん)という生徒だ。

 彼女は有名モデルの娘で、美人秀麗なんて言葉が似合う、金持ち(ボンボン)で、そこそこ権力のある人である。生徒や先生からの人望も厚く、崇拝じみた人気を誇っている。

 しかしその実、気に入らない生徒や先生を消しているという話だ。このクラスの友達と言える人間も、彼女の手によって不登校になっている。

 そんな毒牙にかからないように、この僕──自衛斗真は、成績は常に中の上を保っている。

 定期テストは、全40人のこのクラスの中で順位は6~8位程度。決して目立つ人にはなっていない。

 自分からは決して喋らず、本ばかり読んでる。そうすれば、必要以上の干渉はされない。

「……」

 彼女は声のでかいアニオタとか、そういう人たちを蛇蝎(だかつ)のごとく嫌っている。親でも殺されたのだろうか。田林がこのクラスに居なくてよかったと、心底に思う。

「ねぇ、斗真くん〜?」

「?」

 彼女の()()()()の一人が、声を掛けてくる。

「何読んでるの?」

「『行人』です。夏目漱石の。」

「おぉ、文学本なんて読んでるんだ〜!やっぱり、斗真くんは他の男子とは違うね!」

 何が違うんだ、このスカタン。なんて言葉を、出る寸前で喉の奥へ押し返す。

「それでさー、田林となに話してたの?あのオタクの田林とさ……」

「ふぅん……?」

 この声に引き寄せられた氷川華鈴が、こちらに来た。

「オタクなんて、現実逃避してるだけのバカでグズな奴だよねぇ。まさか、斗真はそうじゃないだろうな?」

「……」

 好き勝手言う彼女への怒りを押さえながら、小説に集中しようとする。彼女はその本を、取り上げた。

「無視するな。」

「……っはァーっ。」

 嗚呼、ついにこの時が来てしまったか。僕の平穏な学校生活は、終わりを迎えてしまったらしい。

「オタクで何が悪いんです?」

「は?」

 斗真の発した言葉に、華鈴は眉をひそめる。

「オタクで何が悪いって聞いてんだボケナス。性根だけじゃなくて、耳まで腐ってんのか?」

「はァ?気持ち悪いなぁ……これだから沸点の低いオタクくんは困るんだよねぇ……」

 周囲の女子の目が、嘲笑の目に変わる。

 何度も、目の前で見過ごしていた事態──それが、もう逃げられない所に居る。

「私、オタクが大嫌いなんだよね……気持ち悪いし、無駄に生意気だし、イキッてるし……正直、視界にも入れたくないんだけど……」

「黙りなカス。僕の小説を返せ。」

「え〜?聞こえなーい。もっと大きい声で喋れよ〜!」

「話せないんだよ〜!低能だから〜!」

 斗真は、いっそう大きい溜息を吐く。

 次の瞬間、女子の一人が斗真の座っていた椅子を蹴った。

「!!?」

 彼は尻から転び、倒れる。すぐさま起き上がって、椅子を蹴った女子に向かった。

「──てめぇ、ゴラ──」

 大声を出そうとした所、華鈴からの拳が頬に入り、ぶっ飛ばされてしまった。

「っぁああっ!?」

 女とは思えない怪力。打たれたのは頬なのに、脳がぐらぐらする。

「うぇーん、私、斗真くんに襲われそうになりましたー!」

「やっぱり、君も他の男子と同じだったのだな……」

「華鈴さまは、空手黒帯だよぉ?オタクなんかに勝てるわけないじゃーん!」

「……」

 周りの男子は、哀れみの目を斗真に向ける。そして、「自分は関係ない」「関わりたくない」「巻き込まれたくない」と言わんばかりに、無関心を貫いた。かつての斗真(かれ)のように。

 この僕──自衛斗真は、喧嘩の経験も無ければ身体を鍛えている訳でもない。この暴虐に抗う術は、無いのか……?

 そんな感じで、彼の日常は崩壊を迎えたのだった。


 放課後……

 女子が突っかかっては、華鈴に「守ってあげた」の名目で殴られる。そんなのが何回も続き、顔はアザが出来ていた。

「いだだだ……」

 そんな斗真だが、部室に向かう。彼は、科学部の所属であった。

「こんちはー。」

 部室の扉を開け、会釈する。

「斗真くん……!!?」

 そこには、見慣れた顧問の先生。凍崎(いてざき)先生が居た。女の若い先生だ。

「ああ、顔のアザですか……階段で転んでしまいまして……」

 誰か分からんやつから、急に背中を押されて階段を転げ落ちたから、あながち間違ってない。当たりどころが良かったから、大事には至ってない。

 そこらからビニール袋を取り、実験用の冷凍庫を遠慮なく開けながら、袋に氷を入れる。

「へ、平気なの……?」

「はい、この程度なら。」

 氷袋に水を入れ、縛り、そのまま顔に押し付けた。

「そ、そっか……災難、だったね……」

「……」

 この教師、全貌を知ってる癖に知らんぷりか……なんて言っても、それも仕方の無いことか。保身は大事だもんな。僕があんたでもそうするよ。

「それで、今日は何をするんですか?」

「あっ、ああ……今日は、ちょっとした資料を作って欲しくて……」

「ああ、はい。じゃあさっそくやっちゃいますね。」

 斗真は机に座り、カバンから筆箱を出したのだった……


 そんなこんなで、終わる頃にはすっかり夜。

「お疲れ様でしたー。」

「お疲れ〜!明日は休んでいいからね〜!」

 先生にも高校にも別れを告げ、帰り道。夜なので暗く、何だか不審者でも出てきそうだ。

 そう言えば、最近この付近で殺人事件が起きたとか起きてないとか。全く、嫌な話だ。

 嫌な話と言えば──

「明日、学校行きたくないなぁ……」

 平穏に暮らしてたはずの学校生活が、崩された。僕はあのまま、延々と暴力と嘲笑に揉まれながらの学校生活をするしかないのか。

「……はぁ。」

 溜息を吐きながら一人、帰り道をとぼとぼ歩く。

 次の瞬間だった。

「……」

 キーン、と、耳鳴りが聞こえる。最初は気にも留めずに歩いていたが、次第にその音は大きくなる。

「……!!?」

 ついに耐えきれず、耳を押さえる。頭が割れそうな程の高い音が、頭で反響する。

「ぐぁ、がぁっ……!!?い、いだいっ!?いだだだだっ!?いっ……!!?」

 頭の中で、パチンコ玉が乱反射してるかのようだ。

 痛みは頭だけではなく、胴にもやってくる。

 遂には耐えきれず、倒れ込んでしまった。

「うぐっ、ぁ……っ、あっ、あっ……!!?」

 これは、何だろうか。食あたりには、心当たりはない。特に変わったものも食べてない。

 何かの発作だろうか。病気なんて、いいとこ花粉症ぐらいにしかかかったことの無い僕が。

「いっ、がぁ、あぁっ……!!」

 あまりの激痛に、遂には死すらも覚悟する。

 僕は、死ぬのだろうか。このまま訳の分からない発作にやられて、死んでしまうのだろうか。あいつらに報復も出来ないまま、何も成せないまま、ここでのたれ死んでしまうのか……?

 そんなの、ゴメンだ。

「ぐっ、うぅっ……!!」

 斗真は必死に、視線を上げる。

「──」

 その視線の先──蝙蝠のような翼を生やした、人型の何かが居た。

「──!?」

 なんだ、アレは。幻覚か……?ついに痛みで頭がおかしくなったのか、僕は──

 彼はそのまま倒れ込み、目を閉じたのだった……

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