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遅まきながらあけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します。


仕事が忙しい中でなかなか筆が進みませんでしたが、ひとまとめ書けたので投稿します。

今までのいくさや作品とはちょっと違う感じかもしれません。

とりあえず、全部で6回。

お付き合いいただければ幸いです。

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 王都の夜は水の中に沈むようだ。


 そんな台詞を歌ったのは誰だったか。

 詩的な感性のない自分には理解しがたい。

 ただ、夜の闇と静けさを水底に例えたのなら、なるほどと思う部分もある。


 王都の民といえど、わざわざ灯りを用意してまで起きている者は少ない。

 太陽が沈めばさっさと寝床について、次の日に備えて眠ってしまう。それが深夜――日付の変わる時刻ともなればなおさら。

 必然、闇の濃さに比例して都は静まっていくものだ。


 だからこそ、闇の中に浮かぶその建物は目立っていた。


 月と星の瞬き。

 僅かな家の灯。

 騎士の道行き。

 それらを圧倒する光量に目を向ける。


 多くの照明の魔導具を連ねた、二階建ての屋敷。

 部屋はもちろんのこと、廊下や軒先にも一定の間隔で照明が灯されている。

 あれだけの魔導具を用意し、使うとなるとどれだけの費用がかさむだろうか。

 まるでその財力を誇示するようだと考えてしまっても、穿ちすぎとは言えまい。


 王都の中でも中心地である上級区――王城と貴族街の付近に建てられた豪邸。

 広い敷地に見合っただけの屋敷を見上げて、俺は止めていた歩みを再開させる。

 敷地は高い塀に囲われていて、侵入者対策の細工までされていて、乗り越えるには骨が折れそうだ。

 なら、正面から入ればいい。


 近づくと人の話し声が聞こえてきた。

 声は控えている様だが、こうも静かな夜だと離れていても耳に入ってくる。


「あーあ、兄貴はいいよな。今頃、あのエルフで楽しんでるんだろうなー」

「おいおい。悪趣味だろ。いくらエルフって言ってもまだ餓鬼じゃねえか。あんなのどうやって愉しめってんだ」

「わっかんねえかなー。それがいいんだろ? 自分が何をされてるのかもわかんねえままいじられてよ、キョトンとしてたのが、苦痛に喘ぐと思うとたまんねえよ」

「……変態だな。俺は断然、母親の方だったわ。それが身投げとか、やってらんねえよ。あんなグチャグチャになっちまっちゃあ引いちまうわ」

「はは! どうせ、俺らのところにお下がりされる頃にはグチャグチャだろ?」

「いやいや、それでも生きて反応があっから……」


 魔導具の白い灯りの下には二名の門番。

 小奇麗な服と揃いの装備を着た男たちだが、ただ言動は身なりに反して粗野そのものだ。今も憚る事なく下種な会話を続けている。

 聞くに堪えない事を聞く必要はない。


「やるか」


 俺は歩き続けて、まっすぐに二人に近づく。

 男たちは俺に気付かない。


 俺は歩きを止めずに、灯りの下に入る。

 男たちは俺に気付かない。


 俺は歩きながら、ナイフを抜く。

 男たちは俺に気付かない。


 俺は歩きながら、ナイフで右側の男の喉を裂いた。

 男たちは俺に気付かない。


「はひゅ?」


 俺は歩きながら、左の男の喉にナイフを突き立てた。

 男たちは俺に気付かない。


「ひゃごっ!?」


 自らの喉笛を切られ、穿たれ、男たちはようやく異常事態に気付いた。

 痛みに苦しみ、喉を押さえて崩れ落ち、地面をバタバタと転げまわる。

 まるで、どくどくと流れる自分自身の血で溺れている様だ。


「なるほど、水の中っていうのはこういう事なのかもしれないな」


 この台詞を考えた人間は殺人鬼なのかもしれない。

 やがて二人が動かなくなるのを待って、俺は無人となった扉を潜った。


 門から屋敷に向かう前庭。

 そこにも警備の男たちがいた。

 見渡す限りで、五人。

 真面目に辺りを警戒する者。眠たげに欠伸をする者。近くの仲間と下らない雑談に興じる者。落ち着きなく歩き回る者。

 それぞれが一定間隔に配置されている。


 それを一人ずつ殺していく。

 喉を裂き、喉を裂き、喉を裂き、喉を裂き、喉を裂く。

 繰り返す事、五回。

 同じ数だけの死体を残して、裏庭に回る。


 裏庭の警備も、屋敷の中の警備も、部屋の中で休憩中の警備も、全て。

 喉を裂き、殺しつくした。


 一人として抵抗は許さない。

 一方的な殺害。

 誰に気付かれる事もなく、一撃で仕留めた。

 夜の静けさを破る事もなく、淡々と作業を進めていく。


「……そろそろか」


 とはいえ、最後まで未発見とはいかない。

 郎党皆殺しなら別だが、護衛以外の人間は殺しの対象外だ。

 だから、いくつもの死体が人の目につくのは避けられなかった。


「きゃああああああああああああああああああああああっ!!」


 夜の見回りをしていたメイドが死体に気付いて悲鳴を上げていた。

 今の声を聞いて眠っていた人々が起き出すのは時間の問題だろう。

 そうなれば、防音の行き届いた『書斎』でお楽しみ中の主人にもすぐに報告が上がってしまう。

 体制が整えられてしまうのは良くない。

 万一、取り残しが出てしまうと手間がかかる。


「残り、五人」


 だから、その前に手を打っておかなければ。

 集まってくる人々の間を滑りぬけ、屋敷の奥を目指した。

 誰の目にも止まらないまま歩いていく。


 次々と部屋から出てくる人たち。

 起き抜けのぼんやりとした反応の人間か、人死にに混乱した人たちの二種類が大半の中、険しい顔で素早く動く三人に気付いた。

 二階から駆け下りてきた、護衛たちとは違った危険な雰囲気を持つ男たち。


「いた」


 擦れ違い様に三人の喉を裂く。

 元々殺しの予定にあった非合法な商いの担当者たちだ。

 自分たちから出てきてくれたから探す手間が省けた。


 殺した三人は捨て置かずに引きずっていき、主人がいる二階に向かう階段の前に重ねた。

 積み重ねた死体で階段を塞ぐのは不可能だが、通行止めの看板代わりにはできる。

 男の一人が隠し持っていたナイフを奪い、用意しておいた警告文を階段の真ん中に張り付けた。


『去る者は追わない。だが、これより先に進む者、屋敷に残る者には死を』


 シンプルな内容の警告。

 これを見た人はどうするだろうか。


 次々と見つかる警備の男たちの死体。

 警備以外の『商人』の犠牲者と警告文。

 警告者が有言実行なのは疑うべきもない。


 屋敷の主人への忠誠心と、己の身の安全。

 どちらを取るかという話だ。

 好きな方を選べばいい。


「あと二人」


 一階で殺すべき人間は殺した。

 二階に上がっていく。

 その間にも階下に人が集まって、何やら騒いでいるのは聞こえてきた。

 階段の途中で彼らの選択を待ってみる。

 結局、後ろからやってくる者は一人もいなかった。


「賢明だ」


 二階は屋敷の主人のためのスペース。

 限られた者しか上がる事も許されていない。

 その一番奥に、人には聞かせられない商談を行うためであり、また主人のろくでもない趣味のための『書斎』がある。

 残る二人の殺害対象はそこにいる。

 おそらく、もう二人の相手も。


 俺はまっすぐに『書斎』を目指しながら、朝からの出来事を思い返した。


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