15話 グレンからの依頼
誤字報告、いつもありがとうございます。
オーク退治から帰ってきた僕達は、オークの解体をしてもらう為に、お店の地下にある解体部屋に向かう。
最近は、カレンが食堂にいるので、解体部屋では、アディさんと解体を教わりに来ている冒険者数人が解体をしている。
僕はオークジェネラルも道具袋から取り出し、解体してもらう事にする。
「みつき。今回のオークジェネラルはどうする? 解体するのなら証明書と一部が必要だからね。どこを持っていく?」
「そうだね。心臓でも持っていけばいいかな? 保存用パックにはいるかな?」
「うーん。入らないね。オークジェネラルの心臓は珍味になるからカレンが欲しがりそうだし、腕一本持っていけばいいんじゃないかな?」
「腕? それで証になるかな」
「この大きさなら問題ないだろう。冒険者ギルドは鑑定魔宝玉を持っているし、オークジェネラル自体が普通のオークよりも一回りは大きいから素材としても問題ないと思うぞ」
「そうかな? それじゃあ、腕の斬り落としと処理、それと証明書を書いていてくれる?」
「あぁ。ちょっと待っててくれ。すぐに作業をする」
「うん。お願い」
魔物の素材を取得するには二通りの方法がある。
一つは浄化の灰を使う事。
浄化の灰は魔石と素材が残るので討伐の証明になりやすいのだが、上位の魔物になってくると浄化の灰を使う事のメリットが無くなってしまう。
そのために解体屋を利用するのだが、解体の場合は魔石がないので討伐の証明が困難になる。
他国では討伐せずに素材を買って討伐した事にするという不正が起こり、魔物被害が拡大したという事例があるらしい。
そこで冒険者ギルドに導入されたのが鑑定魔宝玉と解体証明書だ。
解体された素材の一部を鑑定魔宝玉に通して見ると、討伐された場所と日時が分かるらしい。それと解体証明書を照らし合わせて討伐終了の証となるのだ。
この二つを導入した事で、不正は激減したと言われている。
僕は、アディさんに用意してもらったオークジェネラルの腕と証明書を持って、冒険者ギルドへと向かう。
オークジェネラルの頭を持って帰れば、アディさんに解体証明書を書いて貰うだけで済んだのに、浄化の灰をかけちゃったのは失敗だったかな?
いや、オークジェネラルの頭はよいやみが吹き飛ばしちゃったんだった。だから、どっちにしても解体は必要だったね。
僕は一人で冒険者ギルドへと入る。
よいやみはガストから呼び出されガストへと転移した。それで、暇な僕が冒険者ギルドに報告に行く事になった。
ギルドに入るとラビさんが出迎えてくれる。
「みつきさん。オークジェネラル討伐、お疲れ様です」
「うん。これ、オークジェネラルの腕ね。鑑定してくれる?」
僕は道具袋から、オークジェネラルの腕を取り出す。
アディさんの処理がいいので血は全く滴っていない。
「オークジェネラル、流石に大きいですね。腕だけでも充分な大きさですね」
ラビさんは鑑定魔宝玉を準備してくれて、魔宝玉を通して腕を見ている。
「えっと……日時は本日。討伐場所も依頼通り、絶望の村の……洞窟。みつきさん。証明書はお持ちですか?」
「うん」
僕は証明書を渡す。
ラビさんは証明書と鑑定結果を照合する。
「はい。照明完了しました。オークジェネラルの腕はギルドで買い取らせてもらいます。報酬と買い取り金額は、いつものように黒女神さんの月報酬に加算しておきますね。今、報酬報告書を書きますのでサインをお願いしますね」
「うん。お願い」
暫くすると、ラビさんが報酬報告書を持ってきてくれる。
報酬金は基本いつきさんが前交渉をしているので僕達はサインするだけだ。
僕達は単純なので何も考えずにサインしてしまうのだが、ラビさん達を信頼しているので問題ない。
ラビさん達としてもいつきさんを敵に回したくないだろうし、ちゃんとしてくれているはずだ。
僕が報酬報告書を持ってギルドから出ようとすると、オルテガさんがギルドに入って来て僕に声をかけてくる。
「おぅ。今帰りか?」
「うん。オークジェネラル退治の報告に来たの」
「そうか。あの緊急クエストをお前等が受けてくれたのか。結構な数の冒険者が怪我をして帰ってきていたからな。依頼が達成したのは喜ばしい事だ」
ん?
なぜか、持ち上げられている気がする。
いつもだったら「お前等が受けたのか? もう少し自重してくれ」とか小言を言われるのに……。
なにか、とっても嫌な予感。
「みつき、この後暇か? もし良かったらじじいの茶の相手をしてくれないか」
……ほらね。
……何か厄介事かな?
まぁ、いいけど……。
「いいよ」
「じゃあ、俺の部屋で茶を飲もう」
「うん」
僕は疑いながらもオルテガさんについて行く事にした。
ギルマスのへ部屋に入った僕達は秘書のあさねさんが淹れてくれた紅茶を飲む。
「それで、お茶につきあわせる程寂しがり屋さんじゃないでしょ? いつもの小言もないし……。何か厄介事?」
「小言って……お前なぁ。オークジェネラルの事は本当に感謝しているだけだ。まぁ、怪しいのは自分でも理解している。話というのは、お前とよいやみの二人に指名依頼が来ている」
「僕達? 僕は基本暇だから、いつでも仕事ができるけど、よいやみは最近忙しいから受けられるかどうかは分からないよ」
「あぁ、俺もガストとの貿易の件は知っている……。しかし、依頼書を見る限り、どうも無視できると思えない。これを読んでみろ」
「……何?」
僕はオルテガさんが差し出した依頼書を受け取り読んでみる。
いや、依頼書を見た瞬間に誰からの依頼書か理解した。
【みつきとよいやみを一週間ほど借りる予定だ。金額は任せる 依頼者:グレン】
はい。
よいやみさんの所の熊さんですよ。
「俺の読みでは、お前の肉親かよいやみの知り合いと判断したのだが……」
「うん。よいやみの師匠」
「なに!?」
グレンさんはよいやみの師匠だ。
今も魔大陸の森に引きこもっていると聞いていたのに、もしかして、この依頼の為だけにアロン王国に来たのか?
「……受けるのか?」
「受けたくないけど……」
僕は依頼書の備考の所を指差す。
【明日の朝、アロン王国の冒険者ギルドに迎えに行く】
「あの人は来ると言えば確実に来るの。僕達の意見は完全無視で」
「よいやみの師匠であって、お前の師匠では無いだろう?」
「うん。一度よいやみに巻き込まれて一緒に鍛えられて、それからはこんな感じ……」
「そ、そうか……」
「はぁ……。どちらにしても、逃げられないからいつきさんと相談するよ。話がこれだけなら、とりあえず僕は帰るね」
「あ、あぁ。が、頑張ってくれ……」
僕は冒険者ギルドを後にする。
僕はお店に入る前に隣にあるカイト食堂を見る。
今日もカイト食堂は大盛況だ。
最近ではバトスさん達も通っているらしく、冒険者達が良く集まるお店になった。
冒険者が集まるお店と聞けばあまり品が良くないイメージなのだが、カイト食堂は基本食事だけを提供しているので、暴れたりするお客さんはいない。
もしそんなのがいれば、僕かよいやみが出て追い出すだけだ。
そもそも、アロン王国最強の女と、勝手に問題児指定されている女がいるお店だ。そんなお店で暴れる馬鹿はいない。
「お腹空いたな……」
僕はカイト食堂を横目にいつきさんのお店へと入る。
今日はいつきさんがお店番をしているはずだ。
いつきさんはお客さんの対応をしている。
今日のお客さんは、真っ黒の鎧を着た老騎士だ。見た感じでお金持ちなのが分かる。
「では、呪いの魔剣。五百万ルーツになります」
「うむ。いつ頃仕上がりそうだね?」
「そうですね。呪われた武器なので、四日ほど、お時間がかかります。調整に何度か足を運んでいただきたいのですが……」
「わかった。四日間、この町で宿を取ろう」
「そうですか。それならば、この割引券をお持ち下されば宿代が少し安くなります」
「これはありがたい。では、四日間、よろしく頼む」
「はい。お待ちしております」
お客さんが僕に一礼をしてお店を出ていく。
僕はいつきさんに声をかける。
「いつきさん。ただいま。今の人は黒騎士さん?」
「お帰りなさい。そうですよ。魔剣を買いたいそうです」
「魔剣かぁ。黒騎士は呪われないんだよね。不思議だね」
「はい。特殊な加護があるとか……ところで浮かない顔してどうしました?」
「う、うん。これを見て」
「はい?」
僕は依頼書をいつきさんに渡す。
「あぁ……聞いてますよ。どうやらガストにもこの依頼書が来ていたようです」
「え?」
「よいやみさんがガストに戻った理由がガストの宰相様の所にグレンさんからの依頼書が来たそうです。それを受け取りに行ってたんですよ」
「あ、グレンさん。ガストにも依頼書を出してたんだ。というか、よいやみはそれを取りに行っていたのか……」
「そうみたいですね。どちらにしても、グレンさんからの依頼では断る事はできないでしょう? それならば依頼を受けた方が良いでしょう」
「う……うん」
あまり乗り気じゃないが、受けるしかないか……。
「私の方でお二人のお仕事の調整をしますから、頑張ってくださいね」
「……は、はい」
僕は肩を落として自分の部屋に戻る。
最近ゆーちゃんは魔大陸の魔法具屋さんの地下に引きこもっているらしい。だから、最近は一緒にお昼寝が出来ないんだよね。夜は一緒に寝ているけど。
部屋には、深いため息を吐くよいやみがいた。
「よ、よいやみ」
「みつき、おかえりっす。って、その顔、やっぱりアロン王国にも来ていたっすか」
「う、うん」
「分かっていると思うっすけど、あの熊は一度言った事を曲げる熊では無いっす。覚悟するっす」
「そ、そうだね……。と、とりあえず今日はゆっくりしようか。明日から、地獄が待っているんだし……」
「そうっすね。みつき、抱き合って一緒に寝るっす」
「何言ってんの……」
僕はよいやみの言葉に呆れた後、二人でカイト食堂まで食事に行った。
楽しい食事を終えた後は、シャワーを浴びて寝る事にした。
カレンがこの話を聞いたらしく、夕食は豪勢にしてくれた……。
あぁ……持つべきものは仲間だなあぁ……。
ほんのり涙が流れる。
さぁ……。明日から楽しい特訓だ。




