11話 アロン王国との貿易
誤字報告、いつもありがとうございます。
ブルット公爵親子が連れていかれたのと同時にやと様から報告が入ったそうだ。
やと様は、騎士兵団長と共にブルット公爵家への捜索へと出ていた。
決闘が行われている裏で行われていたブルット公爵家の捜索で数多くの不正や悪事の証拠が出て来たそうだ。
ガスト王が言うには、数多くの殺人や人身売買の証拠まであったという事だ。
ガストでは奴隷制度が廃止されているので、奴隷を買っても売ってもどちらにしても犯罪だそうだ。
そういえば、初めて会った時によいやみを売ろうとしたなぁ……。
僕は懐かしくなったと同時に頬に冷や汗が流れた。
これ……バレたら不味くない?
そう思っていたらよいやみがボソッと「昔みつきに売られかけた事があるっす~」と言って来た。
こ、こいつ……。
よいやみはニヤニヤと僕に抱きついている。
が、ガストにいる間は大人しくしておかないと……。
当のブルット公爵の今後なのだが、ガスト王が主催した決闘を私兵を使い阻害したという事だけでは、お家取り潰しまで行くには少し弱いと感じていたらしいが、公爵家の捜索により取り潰しに充分な証拠が見つかったらしい。
まぁ、自業自得だろうね。
セブッソも悪事をちゃんと働いていたらしく、キャションで好き勝手していたそうだ。
中立の町では、大国の公爵であっても好き勝手できない筈なのだが、お金さえ払えばいろいろ好き勝手できるらしい。。
セブッソはお金を使って好き勝手やっていたのだろう。
裁判などをして罪が確定するのだが、ガスト王が言うには、ブルット公爵は処刑。セブッソはガストにある鍛冶鉱山で強制労働五十年だそうだ。
セブッソが問題を起こしていたのが中立の町だった事から、処刑にはできないと見ているそうだ。
どちらにしても、貴族だった人間に鉱山での仕事は耐えられないだろう。
他にもブルット公爵家にはブルット公爵夫人もいたのだが、彼女は無罪放免だ。
それどころか、公爵夫人がある意味、一番の被害者だったらしく、自分で起き上がれない程に衰弱していたそうだ。
あの公爵って自分の奥さんにまで酷い事をしていたんだ……。
公爵夫人はガスト騎士兵団団長の娘だそうで、娘の変わり果てた姿を見た騎士兵団長は処刑覚悟でブルット公爵を殺そうとしたそうだ。
だけど、やと様の計らいで、ブルット公爵の処刑は騎士兵団長が行う事が決まったそうだ。
ブルット公爵達の話が終わった後、僕達は執務室に戻って今後の話をする事にした。
執務室でガスト王を待っていると、いつきさんからの迎えの連絡が入った。
よいやみに連絡用の魔宝玉を持たせていたらしい。
『それで、ガストではどうなのですか?』
「いい里帰りにもなったっすし、明日には帰るんで迎えに来て欲しいっす」
『分かりました。私の転移魔法はキャションまでしか転移できません。港町のキャションに……夕方には迎えに行きますから、その時間に港にいてください』
「了解っす」
いつきさんとの話が終わって暫く待っているとガスト王とやと様が執務室に入って来た。
「待たせたな。今回はみつき殿には迷惑をかけた」
「あ、いえ……」
「それで、よいやみちゃん。相談したい事がると聞いたのだが?」
「そうっす」
よいやみは保存パックを取り出す。
「それは一般的に販売されている保存パックだね。それがどうしたんだい?」
「これをアロンに輸入するっす。アロンには保存用の道具袋も冷蔵用の魔法具も無いっす。あしら黒女神の拠点には魔法具を作る天才のいつきがいるっすから、それなりに充実しているっすけど、他の家庭はそうじゃないっす。それにいつきは今ヴァイス魔国の魔導クロウディアの弟子を勧誘しようとしているっす」
ちょっ……そこまで話して良いの?
「魔導王クロウディアに会ったのか?」
どうやらガスト王は魔法具屋のおばちゃんを知っているみたいだ。
「会ったっす。彼女は絶望の村で魔法具屋を営んでいるっす」
よいやみは道具袋からおばちゃん製のフライパンといつきさん製のフライパンを取り出す。
どうやら買っていたみたいだ。
「これを見てみるっす」
ガスト王とやと様はよいやみに渡されたフライパンを真剣な目で調べている。
ゼロの魔力では使いようがないから、僕からしたら二つともただのフライパンだ。
「こ、これは……両方とも素晴らしい」
「うん。一つはあの魔導王の作品だからまだ理解できるけど、もう一つは聖女の作品だよね。まさか、個人でここまでの物を作れるとは……。そう言えば聖女は商人だと言っていたね」
「そうっす。この道具袋もいつき特製っす。今のところあしら黒女神しか所有していないっすけど、これは容量ほぼ無制限で、尚且つ時間凍結能力まで持っているっす」
「なに!!?」
ガスト王は凄く驚いている。
「それ程の魔法具を作る聖女は保存パックについてはどう言っているのだ?」
「何も言っていないっす。みつきがいつきに保存用パックをお土産にすれば面白いと言ったのがきっかけっす。そもそもアロン王国には保存パックは無いっす。いつきの技術であれば道具袋に匹敵する保存パックを作るかもしれないっす」
「いや、それは無いだろう……」
即座にガスト王が否定する。
え?
ガスト王はいつきさんに会った事があるの?
「その聖女がどういった経緯でその道具袋を作ったかは知らんが、そんなモノを流通すれば時の番人が黙っているはずがない」
時の番人……。
その言葉、僕は直接聞いていないけど、いつきさんが言ってたね。
「その時の番人って何すか? たまに話に出てくるっす」
ガスト王は時の番人の事をざっくりとだけ教えてくれた。
本当はもっと詳しく教えて欲しかったのだが、ガスト王もそこまで深く知っているわけではないらしい。
時の番人は、世界の秩序を乱す魔法、技術を作り出した者を粛正に来るそうだ。
とはいえ、別に命を奪うわけでもないのだが、三度目の忠告を無視すれば殺されるそうだ。
「強いんすか?」
「あぁ、グレン殿に匹敵する」
「熊にっすか!?」
グレンさんに匹敵するのなら余程だ……。
確かにはる婆ちゃんと魔法具屋のおばちゃんと良く接するいつきさんなら、時の番人の事を聞かされていてもおかしくはない。
「ところでだ。輸入の話をもう少し詳しく教えてくれないか?」
「はいっす」
よいやみはいつきさんの性格、商魂を事細かく説明していた。
ここまで話してやと様はようやく事の重大さに気付いたらしく、エスタさんを呼びだす。
「何か?」
「エスタさん。アロン王国と貿易をしたいのですが、レオン陛下と密に会談を申し込みたいのだけど、何かいい方法はないかな? よいやみに話をさせるのは何か違うと思うんだ」
「それならば、陛下からレオン陛下への書簡を送ってはどうでしょう。よいやみ姫ならば特使として充分でしょう」
「しかし、よいやみちゃんはアロン王国の所属になるがどうなのだろうか……」
確かに、よいやみは黒女神所属でそのリーダーの僕はアロン王国の勇者だ。
そのメンバーに特使をさせるのはどうなんだろう?
「レオン陛下はその辺りの事には寛容です。問題はないでしょう。今回の貿易はアロン王国にとっても良い話だと思います。だからこそ、よいやみ姫で良いのです」
「よいやみちゃん……」
「あしとしても、生まれ故郷のガストと今生活しているアロン王国が仲良くなるのは良い事っす」
「そうか……。分かった。明日の朝には書簡を用意しておくとしよう。よいやみちゃん、頼んだよ」
「分かったっす」
書簡を渡す以上、早めに帰った方が良いのだろう。
そう考えればいつきさんが明日迎えに来るのはちょうどよかった。
「よいやみ。今日は家族で食事をしよう。流石に他国に嫁いだ、くらら姉さんを呼ぶ事はできないけど、すずめ姉さんや、いざよい姉さんは呼べる。勿論、よいやみの伴侶であるみつき殿も一緒にだよ」
「え? で、でも家族の団らんに僕が入っても……」
「君はよいやみの伴侶だろう?」
「……は、はい……」
「やと兄様、みつきを虐めんでくれないっすか?」
「ははは。別に虐めてないよ。僕としてはみつきさんに本当に義妹になって欲しいからね」
「ははは……」
あ、あれ?
やと様……目が本気だよ?
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