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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
四章 魔導大国編

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7話 ブルット公爵家

誤字報告いつもありがとうございます。


 ガストに泊まる事が決まったので、少し遅い時間まで話ができると、夕食後執務室で話をする事になった。

 夕食は僕とよいやみの二人だけだったが、豪華な食事で美味しかった。

 よいやみは相変わらずえげつない量を食べて、食事を持ってきてくれた女性が軽く引いていた。


 夕食後、僕達は執務室へと向かう。

 執務室には、ガスト王とやと様がすでにいたのだが、ガスト王はムスッとした顔をし、一枚の紙を真剣に見ていた。

 どこからどう見ても怒っているように見えるんだけど……。

 も、もしかして夕食時に、よいやみがやたらと僕にベタベタくっついて来ていたから?

 それとも、お姫様なのに在り得ない程の食欲を見せたから?


 僕が困惑していると、やと様が僕達に座るよう促してきた。


「やぁ、ごめんね。食事は美味しかったかい? 「はい」「美味かったっす」そうか、美味しかったのならよかった。父上は今不機嫌だからもう少し待っていてくれないか?」

「何かあったんすか?」

「よいやみにも関係がある事だよ」

「あしっすか?」


 よいやみにも関係がある事と言ったら、夕食時の事しか思いつかない。

 同性であっても、可愛い娘に抱きつく(むしろ僕が抱きつかれていた)のが気に入らなかった!?

 僕はガスト王の事は良く知らないけど、今日の行動を見る限り、娘の事となるとどんなに小さな事でも全力で怒る人というのが分かったよ。

 だからこそ、怖いんだけど……。

 しかし、やと様が語ったのは全く別の事だった。


「よいやみ、君に縁談が来ているんだ」

「は? あしにっすか?」


 これにはよいやみも唖然としていた。

 縁談と聞いてガスト王が立ち上がる。


「認めるかぁああああああああ!!!」


 ガスト王が急に怒鳴り出し、見ていた紙をビリビリに破り捨てた。

 

「父上、落ち着いて下さい」


 やと様がガスト王を宥めるが、ガスト王の怒りは収まらない。


「あしに縁談って、随分とタイミングが良いっすね。もしかして、あしが帰っているのはもう知られているんすか?」

「いや、知っているのは僕達家族と護衛兵だけだよ。流石にそれぞれの部屋の護衛兵にも教えておかないと不味いからね。勿論秘匿にしてあるから洩れる事は無いはずだよ」

「そもそも、家出しているはずのあしに縁談ってどこのアホっすか?」

「ブルット公爵家だよ」

「ゲッ!? あの下衆公爵っすか!?」


 よいやみはとても嫌そうな顔をしている。

 余程嫌な人なんだろうか……。


「親父、お断りしておくっす」

「勿論だ!! あの糞公爵……殺してやろうか」


 ガスト王の目が結構マジだ。

 その時部屋の扉がノックされる。


「入れ」


 ガスト王が入る事を許可すると、顔色の悪い意地悪そうな男性が入って来た。


「これはこれは陛下。よいやみ姫との縁談の返事を聞きに来ましたよ」

「断る。誰がキサマのようなクズの所に可愛いよいやみちゃんをくれてやるか。お前の家を潰す事だったら喜んで賛成してやるぞ」

「くくく……。よいやみ様を我が家に嫁がせれば、ガストの未来は安泰ですぞ?」

「なに? もう十数年何の成果も出せてないお前の家がガストに何をもたらせてくれる? お前の家が安泰するだけだろう。ガストにとってはお前のような無駄な公爵が消えてくれたら、お前の家に払っていた金の分は節約になるな」

「我が公爵家が残る事が利益になります。我が公爵家が残ればガストは安泰です!!」

「だから、何を根拠に言っている? 他国との戦争でも役に立たず、貴族主導の魔物退治もせん。かといって、財政面でもお前等は無駄に金を使う。そんな役立たずの貴様等にどういった使い道があるのだ?」

「くくく。それは違いますぞ? 私は機を見ているのです。どうやれば被害を安く済ますかをね。私の様な高貴な血を流すより、安い低俗な兵士の血を流す方が得策でしょう?」

「高貴? 笑わせるな!!」


 うーん。

 この人の考え方嫌いだなぁ……。


「そもそも、よいやみ姫を早くアロン王国から呼び戻さないのはどういう事ですかな? ガストの権威があればアロン王国など簡単に握り潰す事ができるでしょう?」


 あれ?

 この人ってよいやみの顔を知らないの?

 目の前にいるのに……。


「ところでこの芋臭いガキ二人は何ですか? もしかしてガスト王とやと王太子の愛人ですかな? くははははは!! 趣味が悪いですなぁ。そもそもレイチェル嬢のような無能を婚約者に選ぶような……ひぃ!?」


 公爵が全てを言い終わる前に、やと様が公爵の喉元に剣を突き付けた。


「お前が私の事をどう言おうと許してやるが、私の婚約者を愚弄するのならば許すつもりは無い。それにその二人は私達(・・)の客人だ。無礼を働くのならば、ここで処刑してもいいんだぞ? 罪状は不敬罪にしておこうか?」

「な、ななな……わ、私を誰だと……」

「何もできない無能なブルット公爵だろう? それに比べて私は王族で、お前よりも立場は上だ。レイチェルもお前と同じ公爵家だ。いや、あちらの家はお前達と違って成果もちゃんと出していたなぁ。お前等とは全く違う。……で? お前に非難する資格はあるのか?」

「くっ……わ、私を敵に回した事を後悔しますよ」


 そう言って、公爵は部屋から逃げて行ってしまった。

 しかし……。


「どうしてあの人は、よいやみを見ても気付かなかったの?」

「そりゃ、あしの事はどうでも良いんすよ。王族を娶ったという実績が欲しいだけっす」


 どうやら王族になるとあんなのまで相手にしなきゃいけないのか……。

 よいやみも大変だ……。


「よいやみちゃん、みつき殿、気分を悪くさせたな。今日はゆっくりと休んでくれ……わしも疲れた……」

「お父様。公爵の件は任せても?」

「あぁ、今回の事で決心した。ブルット公爵家はわしが潰す」

「潰すと言っても、相手は公爵家ですよ」

「ぐぬぬ……」


 王族なのに貴族の家を潰せないのかな?

 僕が疑問に思っているとよいやみが僕に教えてくれた。


「みつき、王族だからと言ってそこまで好き勝手はできないっす。そんな事をしたら他の貴族の信頼を得られないっすからね」

「そうなの?」

「権力というのは時に諸刃の剣になってしまうっす。だからこそ、権力という力を使うのは難しいんすよ」


 こういう話をしていると、よいやみは本当に王族なんだなぁ……と思う。


 僕達はガスト王の執務室から出て、よいやみの自室に向かう。

 すると道中にさっきの公爵が誰かと立っていた。

 あそこはよいやみの部屋の前らしい。

 部屋の扉の前では護衛兵が「お引き取り下さい!!」と二人に叫んでいた。


「げっ……。アイツ等は……」


 よいやみが声を上げると、公爵が僕達に気付く。


「む? さっきの愛人ではないか? こんな所で何をしている? ここは王族の居住区だぞ?」


 それを言うなら、公爵もなんでここにいるの?

 そもそもこの公爵、まだよいやみの事を分かっていないのかな?


「よ、よいやみ様!?」


 扉の前にいた護衛兵がよいやみに頭を下げる。

 それを見た公爵が不気味な笑みを浮かべてよいやみに近付いた。


「それ以上近付くな」


 よいやみが手で制すると公爵は立ち止まる。


「お前は先程、私をお父様とやと兄様の愛人と言ったのですよ。その無礼を忘れたわけではありません!! そもそも、どうして私の部屋の前にいるのですか!!」

「くくく。アレは見間違えただけですよ、王族ともあろう御方がそんな汚らしい服を着ているとは思いもよりませんでした。しかし、これからは違いますよ」


 そう言って公爵はもう一人の男性を前に出す。

 その男はよいやみを下から上まで舐めまわす様に見る。


「その男の目を潰してもいいっすか? 気持ち悪いっす」

「よ、よいやみ。口調が元に戻っているよ」

「あまりにも気持ち悪いから素が出てしまったっす」


 僕とよいやみが話していると公爵が大声を上げる。


「キサマは何者だ!! 公爵である私がいるのだから跪かぬか!!」

「え?」

「もう一度言うぞ!! 跪け!!」


 うん。

 ムカついてきたね。


 僕は無視していたのだが、よいやみが動いた。

 よいやみは公爵の腹を思いっきり殴っていた。いや、思いっきりではないね。

 よいやみが本気で殴れば、お腹を突き破っていたね。


 でも、少しスッキリしたよ。


 そう思っていると、よいやみはもう一人の男性も殴り飛ばしていた。


「いつまで見ているっすか、気持ち悪い。護衛兵さん。済まないっすけど、やと兄様と騎士達に「王族の居住区に不法侵入者がいた」とでも言って連れて行ってもらってくれっす」

「は、はい!!」


 兵士の男性は走り去っていきよいやみは「みつき、拘束ロープ持っているっすか?」と聞いてきたので、出してあげる。

 よいやみは公爵と男性を縛って廊下の隅に蹴っていた。


「さぁ、みつきゆっくりするっす。お風呂も中にあるっすから、一緒に入るっす」

「え? 一人で入るよ」

「遠慮するなっす。今日は愛し合うっすよ」

「何言ってんの……」


 僕達はよいやみの部屋に入る。

 その数分後、部屋の外が少し騒がしかったので、やと様達が公爵達を連れて行ってくれたのだろう。

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