4話 孤児
誤字脱字報告いつもありがとうございます。
よいやみを迎えに来た馬車は、とても速かった。アロン王国で乗った馬車の二倍以上の速さで少しびっくりした。
速い理由をよいやみに聞いてみたところ、馬車を引く馬に脚部強化と疲労軽減の紋章が描かれた馬具を装着させている為だそうだ。
本来はガストまで馬車で二日かかるらしいのだが、この馬具を付けた馬車の場合、一日もかからないらしい。それでいて、疲労軽減の紋章もあるので馬の負担も少ないそうだ。
しかも、馬車の中もほとんど振動が無い。
これは街道がしっかり敷かれているからだそうだ。
本当にアロン王国と比べると、大国だなぁって思う。
よいやみは馬車の中で迎えに来た男性に色々と書類を渡されている。
「なんであしがこんな事を……」
「よいやみ様が色々な事を中途半端に投げ出して国を出た結果です」
「こんなモノ、親父にやらせればいいっす」
「陛下は忙しいので、そうもいきません」
よいやみは書類に目を通しては、僕に抱きついて「みつき成分補充っす」と訳の分からない事を言っていた。
書類の整理が終わった後、よいやみは男性にガスト城に着いた後の事を聞きだした。
「式典の準備はしてないっすよね? 今回はコッソリ帰ってきたっすから式典はいらんっす」
「それは大丈夫です。今回よいやみ様が帰国する事をやしゃ様は知りません。それに、よいやみ様はまずエスタ様の所に行くのでしょう?」
やしゃって人がよいやみのお父さんかな?
それでエスタって人がエルフさんなのだろうか?
「そうっすね。今回用事があるのは親父じゃなくてエスタさんっすからね。エスタさんには一週間前に連絡して赤ちゃんの孤児を探してもらっていたっす」
孤児?
あぁ、ソーパーで約束していた養子の件か。
よいやみはあの後、アストロさんとフラーブさん夫婦に色々聞いていたみたいだからね。
「しかし、ソーパー王国の宰相と騎士団長のご子息になる……ですか。あの二人が養子を捜している事は知っていましたが、まさか赤子を用意するよう言われるとは思っていなかったと、エスタ様も申しておりました」
「赤ちゃんを選んだ理由はあの二人を引退させない為っすよ。あの二人の息子は馬鹿だったっすが、あの二人は立派な御方っす。あんな下らない馬鹿息子の為に引退させるのは勿体ないっす。それにガストにとってもソーパーやアロンと国交を結べるのは損じゃないっすよね」
「確かにその通りです。あの噂が本当であれば……アロン王国との国交はかなり重要となります」
あの噂?
もしかしてヒヒイロカネの事?
「その噂ってどっちすか?」
「聖女の方です。ヒヒイロカネの事を信じている者はいませんよ」
はい。
その信じられていないのが目の前にいます。
しかし、噂っていつきさんの事?
「よいやみ……」
「今はまだ話しちゃダメっす」
「う、うん」
よいやみに小声でそう言われたので、僕は黙って景色を見ておく。
夜になり、僕とよいやみは馬車の中で寝る事になり、男性は御者の人と一緒に外で見張り番をする事になった。
僕が見張りをすると言ったのだけど、女の子に見張りをさせるわけにはいかないと言われたので素直に寝る事にした。
次の日のお昼前にガスト王城へと到着した。
馬車は大門を通り過ぎて裏口からそっと城内に入る。
「随分と大きなお城だね。それに城下町が無いよ」
「あるっすよ。みつきはガストに初めてくるんすよね。きっと驚くっすよ」
「え?」
ガスト城内に入ると、何やら騒がしい。
何かあったのかを聞くと衝撃の言葉が返って来た。
「ガストの城下町はお城の中にあるんすよ。元々ガストは敵が多かったっすから、町を大きく囲ったんす。その結果がこのお城っす」
町があったのにどうして大きな門から入らなかったんだろう?
そんな事を思っていると、馬車が停まった。
「さぁ、ここから入るっす。ここは裏口っすから直接王城に入れるっす」
どうやらガストの町は城内と呼ばれていて、王族達が住む場所を王城と言っているらしい。うん。ややこしいね。
「でも、どうして裏口から入ったの?」
「さっきも言ったっすけど、ガストの町は城内にあるっす。だから入る時に大門を開けなきゃいけないんすよ。そうなったらコソコソ帰ってきている意味が無くなるっす。そもそも、こうやって馬車で行き来する事が珍しいんすよ。本来はキャションから転移魔法陣でガストに行く事が普通なんすよ」
「じゃあ、今回はどうして馬車だったの?」
「転移魔法陣を使ってしまうと親父にバレるっすからね。出来れば親父に会う前に孤児の事を確認したいんすよ」
「どうして?」
「親父がいると、あしに構ってもらおうとウザいんすよ」
「そうなんだ」
それは随分と愛されているというかなんというか……。
「それにしても城内だというのに明るいよね。光の魔石を沢山使っているの?」
「違うっす。特殊な魔法具で太陽の光を入れているんす。こればかりは親父と王太子である兄様と、一部の技術者しか仕組みを知らないらしいっす」
「そうなんだ。いつきさんに見せたら興奮しそうだよね」
「間違いなく仕組みを知ろうとするっす」
裏口からの通路を暫く歩くと、こじんまりとした扉がある部屋に辿り着いた。
男性がノックをすると「どうぞ」と男の人の声がした。
どうやら今の声の人が宰相のエスタさんらしい。
この扉はエスタさんの部屋に直結しているそうだ。
男性は扉を開ける。
エスタさんの部屋は、こじんまりとしていた。
宰相さんの部屋なのにそれほどの広さはない。どちらかというと、いつきさんのお店にある部屋の方が広い。
その事をよいやみに聞くと、「あし等王族の部屋もこんなくらいの広さっす。ガストでは王族だからといって決して贅沢はしないっす」と笑っていた。
よいやみの大好物はオーク肉だ。本来お姫様の大好物にはなりそうにないモノだ。これもガストの教育の賜物なのかな?
部屋に入ると緑色の長い髪の毛の美形のおじさんが座っていた。
歳は四十歳いくかいかないくらいに見えた。
しかし、耳が長いエルフなので見た目よりも歳を取っているのだろう。
「これはよいやみ姫。お久しぶりでございます。お客人もよくいらしてくださいました」
「久しぶりっす。こっちが勇者みつきっす」
「は、初めまして」
「手紙に書かれていた勇者殿ですな。恋人を連れ帰ると書かれていた時は、やしゃ様にどう報告するかを迷いましたぞ」
ちょっと待って。
何で恋人とか嘘を手紙に書くの?
「親父に伝えたんすか?」
「いえ、そのせいで仕事を放棄されても困りますからな。今回は伝えておりませんよ」
「それは正しい判断っす。エスタさん。頼んでいたモノを見せて欲しいっす」
「これですよ」
エスタさんは数枚の書類をよいやみに見せる。
書類には赤さんの肖像画と数字が書かれている。
「アストロさんの方は簡単に見つかると思っていたっすけど、よくフラーブさんの方も見つかったっすねぇ。フラーブさんの希望は叶えられないと思っていたんすけど」
「本当に幸運でした。まぁ、赤子からすれば不幸とも言えますが……」
不幸?
も、もしかして……。
「違うっすからね」
「え?」
「どうせ攫って来たとか思ったんすよね?」
「な、なんでわかったの?」
「愛しているみつきの考えている事くらいわかるっす」
「あ、愛って、な、何言っての!?」
「ははは。冗談っすよ。赤ちゃんは攫って来たんじゃないっす。不幸と言った理由は、孤児になったからっす。孤児になったという事は捨てられたか親が死んだかのどちらかっす。どっちにしても赤ちゃんからしたら不幸っすよね。まぁ、これからは本当の親以上に愛されて育つと良いっす」
そ、そういう理由だったんだ。
そうだよね。
赤さんはゴブリンと違って勝手に発生するわけじゃないもんね。
「アストロさんとフラーブさん夫婦に会ってきたっすけど、奥方達は子育てを楽しみにしていたっす。奥方は、お二人共まだ三十代っすからまだまだこれからっす」
「そういう親に育てられた方が、子供にとって幸せかもしれませんね」
よいやみは書類を道具袋にしまう。
エスタさんもホッとしたような顔になる。
「どちらにしても、この両夫婦には一度ガストに来てもらわなければいけませんね。赤子との相性もありますからね」
「そうっすね。連れてくるときは黒女神の聖女に頼むっすよ」
「聖女!? まさか、セリティア教に聖女が現れたのですか!?」
「あ、そうっす。まだ、報告していなかったっすね。みつきの事もいつきの事も……」
ん?
僕達の事?
よいやみが口を開こうとしたその瞬間、扉の外が騒がしくなり、扉が勢いよく開いた。
「よいやみちゃんが帰ってきていると聞いたぞ!!」
扉の外には、王冠を付けた壮年の男性が立っていた。
よいやみと同じ綺麗な金髪だ。
もしかして、この人がガスト王?
「チッ、見つかってしまったっす」
「え、エスタ!? 何で黙っていた?」
「あしがそう言ったんす。まぁ、いいっす」
「よ、よいやみちゃん?」
「お久しぶりです。お父様」
やっぱりこの人がガスト王だったんだ。
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