21話 教会突入
「な、なんだ?」
教会の中には数多くの人間がいる。
白色の生地に金色の刺繍が施された服を着ているのが神官で、青色の服を着ている女性がシスターだろう。
みたところ、この二種類の人間しかいないみたいだ。
アロン王国の教会にもシスターと神官がいるから、服装でなんとなく教会内でのその役職がわかる。
しかし、この教会のシスターはスカートが短く、胸元が大きく開けている。アロン王国のシスターは、ここにいる人達と違い服の着こなしも清楚だ。
確かにここのシスターの姿は眼福だけど、僕はアロン王国のシスターの方が好きだな。
「で? どいつが大司教っすか?」
「なんだ、お前達は!?」
「は? いつきの顔を見ても何も分からないんすか?」
よいやみはいつきさんを前に出す。
セリティア教会に関わっている人達ならば、聖女であるいつきさんを知っているはずだ。
僕も最近聞いたのだが、いつきさんは結構な頻度で他国の教会に顔を出しているらしい。もちろん、商談を含めての行動だけど。
シスター達は、いつきさんの事を知らないみたいで、どこか馬鹿にしたような目をしている。それどころか「あの芋臭い娘は何?」「ふふふ。色気が足りないわね。あれじゃあ、クリストファー様に気に入られないわよ」「また、売られてきたのね」等の声も聞こえる。
確かにいつきさんは聖女だけど、聖女が着る服を殆ど着ない。いつも動きやすい服装をしている。
それにしても、売られてきたと言ったよね。
「よいやみ、この国では人身売買は認められているの?」
「いや、イヴァン陛下とヨハン王太子が人身売買を認めるはずが無いっす。いつき、この教会は犯罪に手を染めている可能性は無いっすか? 確か教会の法典には……」
「はぁ……。元々、この教会を潰すつもりですし、法典に書かれている事に背いていたとしてもどうでも良いのですが、思ってる以上に腐りきっている様ですね」
いつきさんは神官の一人に手招きをしている。こんな教会の神官なんだから言う事を聞かないだろうな……と思っていたんだけど、神官は素直にいつきさんの下へと歩いて来る。
「いつき様。お呼びで?」
「えぇ、ここのシスターと神官達は私の顔を知らないのですね」
「はい。ここの連中はクリストファーに集められた娼婦とゴロツキです。本来ならば教会とは無縁の連中ですから」
「そうですか。クリストファーを呼ぶ事は可能ですか?」
「いえ、私では不可能です。いつき様に潜入を命じられてからまだ数ヵ月ですので、奴の信頼は得ていません」
どうやら、この人はいつきさんが送り込んだ神官みたいだ。
「ならば仕方ありません」
いつきさんは、一歩前に出る。
「私は聖女いつき。大司教クリストファーとの面会を要求します」
しかし、いつきさんを知らない神官達は鼻で笑い、シスター達も高い声で笑う。
いつきさんが馬鹿にされているみたいでムカつくな。
僕が殴りかかろうとしたとき、肖像詐欺セリティア様像の後ろから、四十代くらいの小太りの男性が現れる。
髪の毛は黒だが薄く、着ている物は神官の物よりも豪華な作りになっている。
「何事ですか」
「あぁ、クリストファー様」「いつ見ても神々しいお姿で……」「あぁ、今日の夜にでも抱かれたいわ……」
こ、この人達は何を言っているんだろう。
シスター達は、大司教の姿に惚けているみたいだけど、僕には髪の毛の薄いおっさんにしか見えない……。
い、いや……人を見た目でどうこう言うのは好きじゃないんだけど……汚い。
「貴方が大司教クリストファーですね」
「いかにも、私が大司教クリストファーですが? 貴女がたは?」
「私達はアロン王国から来ました、勇者黒姫率いる黒女神です。貴方には色々と聞きたい事があります」
「黒女神?」
いつきさんはどうして聖女と言わないのだろう?
僕達の名前を聞くと、大司教の顔が少し歪む。うわぁ……気持ち悪い。
「そうですか……黒女神ですか。下賤な者が女神を名乗るのはそれだけでも罪ですが、貴女がたはどういった訳かアロン王国では英雄と呼ばれているそうですね。まぁ、そこは良いでしょう。貴女がたにはいくつか言いたい事があります。まずローレル姫を幽閉したそうですね。すぐに釈放しなさい!!」
「何故です? 彼女はこの国の王の意志で幽閉されたのですよ? 彼女の罪はそれほどまでに重いモノでしたから」
「聖女であるローレル姫のする事に間違いなどありません!!」
「ローレル姫は聖女ではありませんよ。セリティア様が否定なさっています」
「何を馬鹿な事を言い出すかと思えば、ローレル姫は私が選んだ聖女です。偽物のわけがないでしょう!!」
「ふふふ。貴方が選んだ? 何を言われているのかは知りませんが、そもそもセリティア様の教会に大司教という役職は存在しません」
いつきさんがそう言うと、教会内が騒めく。
シスター達は最初は馬鹿にした目で見ていたみたいだけど、思い当たる節があるのか顔を青褪めさせている人もいる。
「そもそも、先ほどそこの娼婦の方々がおっしゃっていましたけど、「売られて来たのか」という言葉が本当であれば、貴方がたは罪人です。この国の法でも罪人になりますが、セリティア教会は一切の人身売買を禁止にしています。セリティア教の法典は貴方がたが思っているほど甘いモノではありませんよ。その辺りの弁解はどうしますか?」
「ふふふ。貴女の様な聖女を騙る者の言葉など誰が信じますか?」
「聖女を騙る?」
「そうです。聖女はローレル姫です」
こいつ、まだ言うのか……。
何と言ったらいいのかは分からないけど、自分の言う事はすべて正しいと思い込んでいるみたいだ。
「そもそもアロン王国から来たと言っていましたね。あの国の教会で一番偉いのはシスタークリス様でしょう」
「は?」
「聞きましたよ。貴女がた黒女神の卑劣な罠でシスタークリス様を捕らえたと。今すぐ釈放しなさい!!」
「シスタークリスが一番偉い? 何を言っているのですか?」
「私はシスタークリス様に選ばれた大司教です。女神であるセリティア様に最も愛されている大司教なのです。もういいでしょう。愚かなアロン王が何を考えているかは知りません。ソーパー王も同じです。教会を敵に回して無事に済むと思わない事ですね。僧兵!!」
大司教が手を上げると、武装した神官達が僕達を囲む。
ざっと見た感じ、そこまで強そうな人はいない。
僕とよいやみがちゃっちゃと蹴散らそうとしたとき、今まで大人しくしていたゆーちゃんが僕達を止める。
「さいきんはみーちゃんとよいちゃんだけめだってずるい。きょうはゆーちゃんがあそぶ」
僕が何かを言う前に、ゆーちゃんは一歩前に出て両手を広げる。
「ひーりんぐ!」
え?
ひ、ひーるじゃない!?
確か回復系魔法の魔法のヒーリングの効果って……。
回復魔法ヒールの範囲型。
ま、まさか……。
よいやみの顔を見てみると、同じ事を考えたのか青褪めている。
僕達が不安に思っているのと裏腹にゆーちゃんの顔は満面の笑顔だ。
しかし、魔法は発動しない。
失敗?
ひーるの場合は魔法を唱えた瞬間、効果が現れていた。
だけど、失敗したにもかかわらず、ゆーちゃんは笑顔のままだ。
ゆーちゃんは基本的には無表情だが、喜んでいる時としょぼんとした時の顔は分かりやすい。この話をバトスさんにしたら「ゆづきの顔に変化が見られねぇよ。お前が何を言っているか分からない」と言われた。
僕からすればハッキリと顔に出ていると思うんだけどな。
僧兵達も、ゆーちゃんが何かの魔法を使ったのは分かるけど、発動していないと思い込みゆーちゃんを小馬鹿にしたように笑っている。
僕が殴りに行こうとした時、ついに魔法が発動する。
ひーりんぐが発動すると教会内が地獄と化した。
僧兵達には、もがき苦しんだり、泡を吐いてのたうち回ったり、大声をあげて笑った後失神したりと様々な症状が出ている。
ひーりんぐの被害は僧兵だけかと思ったのだが、大司教を除くすべての神官、シスターに効果が出ている。あ、いつきさんが送り込んだ神官は無事だよ。
教会内は、悲鳴と嗚咽と絶叫に包まれた。本当に地獄絵図だ……。
ゆーちゃんはソレを見て大満足な顔をしていた。
しかし「こうかがあらわれるまでじかんかかりすぎ。かいりょうしよう」と少ししょぼんともしていた。
大司教もこの地獄絵図に顔を青褪めさせている。
「な、何をしたのですか!!? これは神に対する冒涜です!!」
「いや、お前の存在が私への冒涜だよ」
この声は……。
僕達が振り返ると、教会の入り口が光っている。
これは……。
そこにはえりかさんと光り輝くクレイザー、そして……。
二対四枚の羽を広げたセリティア様が浮かんでいた。
……ただし、片手にグレートビーストの串焼きを持って。
セリティア様は串焼きを大司教に向ける。
「さぁ、裁きの時間だ」
……うん。言っている事はカッコいいけど、串焼きは武器じゃないからね。




