4話 最初の仲間、ゆづき
ヒロイン? 登場です。
僕が振り返ると、そこには紫色の髪の毛の10歳くらいの可愛い女の子がいた。
ん? この目は……魔眼?
……そんなわけないよね。
それにしてもこの子は可愛いなぁ。僕に何か用かな?
「どうしたの? 僕に何か用?」
僕は、女の子に声をかける。すると女の子は、ニターっと笑い、僕の目を真っ直ぐ見てくる。見つめ合う僕と女の子を見て、リリアンさんが焦り出した。
「ゆ、ゆづきちゃん!!?」
「なに? ゆーちゃんはこのひととはなしをしているの」
そうか、この子はゆづきちゃんという名前なのか。僕と名前が似ているね。
でも、どうしてリリアンさんは焦っているのだろうか?
僕はゆづきちゃんと呼ばれた女の子の目をジッと見る。
……やっぱり、この目は魔眼だ。しかも両目?
僕の知っている魔王ですら、片目だけの魔眼だ。両目の魔眼なんて見たことも聞いたことも無い。
魔眼については僕も詳しくは知らないが、何か凄いということだけ、あの人に説明してもらった。
僕が魔眼のことを考えている間も、リリアンさんはゆづきちゃんを諦めさせようとしている?
「み、みつきちゃんは勇者なのよ!?」
「さっききいてたからしってる。でもゆーちゃんにはかんけいない」
何故リリアンさんはこの子に、意地悪をするのだろう?
リリアンさんがそんな人だったとは、少しだけガッカリした。
僕は女の子の前にしゃがんで話を聞くことにする。
「僕に何か用?」
僕がそう聞くと、ゆづきちゃんは笑顔になる。……この子可愛いなぁ。
「おなまえはなに?」
「僕? 僕はみつきって言うんだ。君はゆづきちゃんだよね?」
「みつき……、みーちゃんってよぶね。いい?」
「え? うん。良いよ。僕はゆーちゃんて呼べばいい?」
「うん!」
この子の笑顔には、なぜか癒される。
もしかして、一目惚れ? そんなわけないか……。
まぁ、冗談はこれくらいにして、僕を勇者と知って話しかけてきたのだから、勇者としての僕に用事があるんだよね。
「で? ゆーちゃんは僕に何か用があるの?」
「みーちゃんとぱーてぃをくむ!!」
パーティか……。
最初は「こんな小さな子が?」とは思ったけど、確かに一人で旅をする(つもりはないけれど)のは寂しいから仲間は欲しいよね。
ゆーちゃんならばかわいいし、楽しめそうだから良いんだけど、親御さんに挨拶は必要なのかな?
僕が納得しかけていると、リリアンさんが物凄く焦りながらゆーちゃんと僕の間に入る。
「ま、待って!! ゆづきちゃん!!」
「うるさい。きょにゅー」
え? ゆーちゃん。リリアンさんが巨乳だからって、その呼び方はどうかと思うよ? 僕だって、羨ましいとは思うけどさぁ。
「だから、私を巨乳って呼ばないでって言っているでしょう!!?」
「きょにゅーどっかいけ」
ん? ゆーちゃん、リリアンさんにはものすごく口が悪い?
うん。この子を正しい方向へ導くのも、お姉さんである僕の役目だね。
「こら! ゆーちゃん。口が悪いのは駄目だよ」
僕がゆーちゃんを注意すると、リリアンさんの顔が青褪める。
え? どうしてリリアンさんの顔が青褪めるの?
「みつきちゃん!! ダメ!!」
リリアンさんがものすごい勢いで止めてくるが、ゆーちゃんは少し俯いて、顔を上げる。その顔は笑顔だ。
「うん。きょにゅーすまん」
「え? ゆ、ゆづきちゃんが素直に謝った?」
素直に謝れるじゃないか。リリアンさんは何を焦っていたのだろうか? そもそも、謝ったことに驚くのは、ゆーちゃんに失礼だと思うんだけど?
リリアンさんは、ゆーちゃんが謝ったことを良いことに、僕とのパーティを諦めさせるために再び説得を始める。
「ゆ、ゆづきちゃん。みつきちゃんはヒ……いえ、オリハルコンの勇者なの。だからパーティは諦めて欲しいの」
「やだ」
うん。それとこれとは話が別だからね。リリアンさんも意地が悪いなぁ。……これはゆーちゃんが正しい。
「ゆ、ゆづきちゃん。お願い……」
リリアンさんは、懇願するようにゆーちゃんにお願いしている。
きっと、勇者である僕よりも、幼いゆーちゃんを心配しているのだろう。
「リリアンさん、大丈夫だよ。僕は危険なクエストを受けるつもりはないし、ゆーちゃんには危険はないよ」
僕はリリアンさんの肩を叩き、笑顔でそう答える。ついでに僕が危険なクエストを受けることはないことを、強調しておく。
「ち、違うのよ……」
「きょにゅー。いうぞ?」
ゆーちゃんの口角が吊り上がる。
ん? 何か寒気がしたぞ?
僕はゆーちゃんの顔を見る。可愛い顔だ。
それに比べて、リリアンさんの顔が完全に青褪めている。
「ひっ!!」
今のは悲鳴?
何故、そこまで怖がっているんだろう?
もしかして、親御さんが怖いのだろうか。
できればやりたくはないけど、ゆづきちゃんをパーティに誘う為に、説得を頑張らないといけないかな?
「リリアンさん。ここは、みつきさんを信じましょう」
ラビさんが、リリアンさんに声をかける。
僕を信じる? 僕は幼女に手を出さないよ? 僕、こう見えても女の子だし……。
ラビさんに説得され? リリアンさんも肩をすくめながらも納得したようだ。
「そ、そうね。ラビちゃん。パーティ申請書を用意して……みつきちゃん、後悔しないでね」
「あはは。後悔なんてしないよ。ゆーちゃん、かわいいのに」
後悔? やっぱり、親御さんが恐ろしいのかな?
「……そう。ラビちゃん。みつきちゃんの気が変わらないうちに、ちゃっちゃと申請書を書いて貰いましょう」
「みつきさん……」
何故か、ラビさんが同情の目で僕を見ている。
僕はその目を気にしながら、パーティ申請の書類を書く。
書類が完成して、それをラビさんに渡す。
受け取ったラビさんの顔が少し暗い。
まぁ、人の反応はそれぞれ、これはこれだよね。
僕は、笑顔でゆーちゃんに握手を求める。
「はい。これでゆーちゃんと僕はパーティだよ」
「うん」
ゆーちゃんは嬉しそうだ。
良かった。僕の行動は間違っていなかった。
そうだ。パーティを組むのなら、ゆーちゃんの職業も聞いておかないと。
「ゆーちゃんは職業は何?」
「ゆーちゃんはそうりょ」
僧侶?
それって回復職だよね。良かった。僕が一番必要とする職業だ。
怪我をすると、痛みで冷静な判断ができなくなるし、最悪、何もできないまま殺されてしまうかもしれない。
とはいえ、魔力の無い僕に回復魔法の効果があるのか分からない。ここは一つ、回復魔法の最下級の『ヒール』を使ってもらおう。
「ゆーちゃん『ヒール』を使ってみてくれない? 初級術だから使えるよね?」
「うん。つかえる」
良かった。まぁ、使えなかったとしても、使えるようになるまで守るだけだけどね。
僕が安堵するのとは裏腹に、リリアンさんとラビさんが慌て始める。いや、パニックを起こしたといっても過言ではない。
「みつきちゃん!! だ、ダメ!!」
リリアンさんはゆーちゃんの口を押さえようとするが、その前にゆーちゃんが魔法を唱え終わる。
え!? ちょっと待って? ゆーちゃんは無詠唱?
魔法というのは、詠唱が必要となる。
僕は詠唱を唱えても魔法を使えない。それは魔力が無いからだ。
高位の魔法使い、魔導士になってくると、詠唱が必要なくなる。無詠唱で魔法を唱えることができるのだ。
と、いうことは? ゆーちゃんは高位の僧侶?
「ひーる!!」
ゆーちゃんのヒールを受けると、僕の身体が少し光って、胸が熱くなる。
何だろう? 胸の奥から何かが込み上げてくるような……。
あ、あれ? これはおかしい。胸が苦しいよ?
「ぐはぁ!!」
僕は血を吐く。
えぇ!? これは毒の症状と同じ!?
「みつきちゃん!? 浄化の光で毒を癒したまえ!! 『キュア』!!」
リリアンさんの魔法で、僕の毒は消えた。
でも、ゆーちゃんが使ったのはヒールだよね? なんで、毒にかかったの?
「はぁ……はぁ……。い、今のは?」
僕は、リリアンさんを見る。
リリアンさんは溜息を吐きながら、僕の肩に手を置いて説明してくれる。
「ゆづきちゃんの『ひーる』は何が起こるか分からない魔法なの。ちなみにゆづきちゃんにも何が起こるか分かっていないわ。それだけでも厄介なのに、この子は……即死魔法と甦生魔法を息を吐くように使うのよ。それを無詠唱でね」
な!!? 高位どころか、普通の魔導士じゃあり得ない事じゃないの!?
し、しかし、ゆーちゃんは素直で良い子のはずだ。きっと、ちゃんと教えてあげれば素直に言う事を聞いてくれるはず。
「ゆ、ゆーちゃん。ひーるを僕にかけるのは禁止ね?」
「やだ」
え? さっきまでは素直だったよね? 何故即答なの!?
「ゆ、ゆーちゃん!!」
「そこだけはゆずれない。ぜったいやだ」
これがリリアンさんが焦っていた理由なんだ。
僕は、ゆーちゃんとパーティを組んだことを少しだけ後悔したが、すぐに頭を横に振ってそんな考えを捨てる。
嘘を吐くのは駄目だ。可愛い嘘ならいいけど、期待させて嘘を吐くのは、お母さんに禁止されている。
それに、ゆーちゃん可愛いし……。
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