15話 解体業
ソーパー冒険者ギルドの応接間で、ソーパー王から聞いたカレンの出生の秘密や僕達の事をギルマスさんとアディさんに説明する。
カレンの性別と養子だったという事は、幼馴染であるアディさんも知ってはいたのだけど、王族とまでは知らなかったようだ。
「カレンが王族ね。でも、ヴルカイト様……ね。聞いた事のない王族だね。今の王、イヴァン様の弟なんだろ? なんで、国民の俺達が知らないんだ?」
アディさんも不思議そうにしている。
アディさんは自分の事を俺と呼んでいるみたいだ。一応理由を聞いてみると、女が解体職をしていると、冒険者達が解体料金をケチってくるのだそうだ。そどころか、セクハラじみた事までしてくる奴もいるらしい。
「それはアレっすね。そこのおっさんと同じって事っすよね」
「俺は別にセクハラはしていないぞ?」
「カレンの胸に釘付けだったじゃないっすか。間違いなく変態っす」
「いや、だから俺はカイトだった頃しか知らねぇんだよ。お前等分かるか? ついこの間まで男と思っていた奴がいきなり性転換していたんだぞ!」
え?
せ、性転換って?
「ちょっと待つっす。お前、いつきの話を聞いていなかったんすか?」
「いや、聞いていたぞ。でも、俺にとっては性転換したようなものだ。しかし、女というだけでも驚いたのに、まさか、ヴルカイト様の娘だったとはな」
「おっさん、ソーパー王の弟の事を知っているんすか?」
「そりゃ、この国の国民だからな。イヴァン王の弟のヴルカイト様、アストゥー様のお二人の事は知っているさ。ただ、アディやカレンくらいの若さの奴は知らないだろうな。十八年前にイヴァン王が二人の事を口外する事を禁止したんだ。当時から理由は良く分からんかったが、イヴァン王が王位継承の邪魔になって殺したとの噂があった。だが、イヴァン王はそんな事をなさる方ではない。真相は、いまだに闇のままだ」
ん?
ソーパー王は弟殺しがどうこう言っていたような。って、よいやみ、どうして僕の口を塞ぐかな?
「ん? お前達は何かを知っているのか?」
「知っていますし、本当は話そうと思っていましたが、ソーパー王が隠そうとしているのなら、私が話す事は出来ません。どちらにしても、貴方がたが思っているような悪い噂の通りではないですよ。もし、噂通りの事をするのであれば、カレンさんはおろか、ローレル姫すらも殺されているでしょうからね」
「確かにな……で、だ。カレンがここに戻ってきた理由は? 黒女神の言う通りに事が進むのならば、教会を潰した後にここに戻ってくればよかったんじゃないのか?」
「今回、急遽ソーパーに戻ってきたのは、アディさんに会いに来たんです」
「俺に?」
「はい。アディさんは解体職なんですよね」
「あぁ、このギルドに俺より上の解体職はいないぜ。そう自負している。そもそも、このギルドもそうだが、女が解体職をするのを良しとしないのは、時代遅れもいい所だと思うぜ。俺のこの格好も少しでも男どもにグダグダ言わせないためだからな」
確かにアディさんの顔はすっごく美人さんなのに、緑色の髪の毛を短く切り、前髪も右側は片目が隠れるくらいの長いのに左は額が見えるくらいまで短くしてある。男の人? と言われれば、そう勘違いしてしまうかもしれない。あくまで顔だけを見ればだけど。
首から下は、本当に女性らしい、出るとこ出てとてもスタイルが良い。
胸も大きい……。
「その胸……解体の邪魔だから斬り落とします?」
「ちょ、みつき、何言ってんすか!?」
あ、つい本音が漏れてしまった。
僕はよいやみに完全に口を塞がれてしまった。
「うちの勇者が申し訳ありません。この子は体形の事や胸の話になるとこんなのになってしまうので……」
こんなのって失礼だな。
僕は言い返そうと少し動くが、よいやみが僕の体をしっかりと抱きしめているので動けないし口を塞がれているので喋る事も出来ない。今はよいやみの膝の上にいるようなものだ。いや、実際にいるんだけど……。
「うーうー」
「みつき、黙るっす。今は大事な話中っす」
「みつきさん、ダメですよ」
「みーちゃん、めっ」
うぅ……、ゆ、ゆーちゃんまで。
「で、アディさん。カレンさんと一緒に黒女神専属の解体職人になってくれませんか? 今現在、アロン王国には解体職がいません。私達としても全ての魔物に浄化の灰を使うのは気が引けるし、勿体ない気がするんですよ」
「そうなのか? でも、アロン王国周辺に出てくる魔物の事を考えれば、浄化の灰の方が効率がいいだろう」
そう言えば、魔物生息域の事を書いている本を読んだときに、アロン王国では《ゴブリン》と《ケダマ》が主で、食用の肉などに使える、魔獣系の魔物は殆ど出現しないと書いてあった。
僕の解体が雑と言われる原因となったケダマを解体してみたのだけど、ケダマの中で一番価値のある毛皮がケダマの血で使い物にならなくなっていた。ゴブリンは、肉は食用にはならないし、使えるのは骨くらいだ。と言っても、骨もそこまでの強度がないから解体してまで使用するメリットはない。
まぁ、魔大陸のゴブリンは話は別だけど……。
「ソーパーではゴブリンはどうしているんですか? 浄化の灰を使って魔石にしているのですか?」
「うーん。ゴブリンのクズ魔石は何も使い道がないからなぁ……その場で焼却処分にする場合が多いな。ケダマはこの辺りには出ないし、オークや魔獣は肉の方が価値があるからなぁ。で、カレンとアロン王国でお前等の専属の解体屋をするのはいいが、ゴブリンやケダマだけとなると俺は嫌だぜ。腕が錆びちまう」
「ふふふ……黒女神がゴブリンやケダマだけしか狩って来ないと思いますか? こう見えても、アロン王国一番の勇者ですよ」
いつきさんがそう言って笑うとカレンも一緒になって頷いている。
ん?
カレンがどうして頷いているんだろう?
僕が不思議そうな顔をしているとカレンが「私の目の前であんなのを一撃で倒していた人がなんで不思議そうな顔をしているの?」と呆れた顔をしていた。
「みつきはどちらかと言うと、魔物みたいに本能で生きているの部分があるので仕方ないっす」
「むーむー!!」
誰が本能で生きているだ!!
僕は魔物か!?
抗議をしたいけど、よいやみに口を押さえられているからできない!!
「で? この暴れようとしている小さい子は何を倒していたんだい?」
「むーっ!!」
誰が小さい子だ!!
「ゴブリンだよ」
「ゴブリン? 俺を馬鹿にしているのか?
「違うよ。ゴブリンはゴブリンでも王種だったよ」
「王種!?」
王種といえば……あぁ、ゆーちゃんが強化したグランドゴブリンの事か。
確かにカレンの前で倒したけどさ。
「それは面白い。確かに面白い魔物を解体できそうだ」
アディさんが黒女神に興味を持ってくれたようだ。
確かに、黒女神専用の解体屋さんがいれば、ヴァイス魔国の解体屋さんに頼まなくなるのはありがたい。
あの人達は、結構高い料金を請求してくる。
「そうだ、何か魔物を持っていないか? 私達の腕も見せておいた方が良いだろう?」
「うん」
カレンも包丁を取り出している。
いや、包丁と言ってもブロードソードの様に長い包丁だ。アディさんも同じ包丁を持っている。
魔物か……。
「よいやみさん、何か魔物を持っていますか?」
「うーん。大型の魔物は、つい最近ヴァイス魔国の解体屋に注文したばかりっすから、今はオークくらいしか持っていないっすね。オークなんかはあしでも解体できるっすから、珍しいわけじゃないっすからねぇ。みつきは何か持っていないっすか?」
「むー? むー、むー」
口を塞がれているから何も喋れないよ!!
「あぁ、すまんっす」
「ぷはー!! よいやみ、離せ!!」
「ダメっす。まだ、暴れるかもしれないっす」
「暴れないよ!!」
「で、みつきさんは何か魔物を持っていますか?」
「うーん。グレートビーストが二体あるだけ。解体屋さんに頼むのは今度でいいかな? と思って持っていたんだ」
「グレートビースト?」
ん?
知らないのかな?
「ここで出せば部屋が血の海になりますね。どこか、解体に使えそうな広い場所はありますか?」
「広い場所? そんなにデカいのか? ギルドの地下にも解体場所はあるが、それでも小さいかもしれんな。しかし、俺も長い事ギルドマスターをしているが、グレートビーストは見た事が無いな。魔大陸の魔物だったか? 名前だけは知っているんだが、魔大陸の魔物は見た事が無い。しかし狩りをしているという事は、魔大陸に入っているんだろ? 結界のせいで入れないと聞いていたが、どうやって入っているんだ?」
魔大陸を包む結界の事は知っているんだね。
それ以前に、魔大陸には入れないというのが、世界共通の認識なのかな?
「アロン王国は魔大陸にあるヴァイス魔国と国交を結んでいるので、今では割と簡単に入れますよ。ただ、魔物は危険なので余程腕のいい冒険者にしか狩りはできませんけど」
「そんなに危険なのか?」
「はい。魔大陸のゴブリンは、魔大陸以外の上級魔物と同じかそれ以上の強さです」
「そこまでなのか!? そんな魔大陸と良く国交なんて結べたな」
「それもこれも、みつきさんのおかげですよ」
「え? 僕?」
「どういう事だ?」
「みつきさんは魔大陸出身なんです」
「「「え!?」」」
ギルマスだけでなく、カレンやアディさんも驚いている。
なんで?
「みつきさん、忘れているかもしれませんが、あの村の名前は絶望の村なんですよ」
「あぁ、そうだったね。元々名前がない村だから、じいちゃんもその名前にしようとか言っていたなぁ……」
「絶望の村には人間がいるのか!?」
「いるよ。僕がそうだもん」
この反応、久しぶりだなぁ……。
どちらにしてもソーパー冒険者ギルドの地下でもグレートビーストを取り出せそうになかったので、話をここで中断してアロン王国に戻って来た。
アロン王国に戻ってきた僕達は、いつきさんのお店へと向かう。
「でも、アロン王国に解体する場所ってあったっけ? 無いから解体屋が無いんじゃなかったっけ?」
「ありますよ。いえ、作りました」
「え?」
僕達は、お店の地下へと降りていく。
このお店の地下には呪い部屋と小さい倉庫が三つあるだけのはずだ。
ちなみに呪い部屋は地下二階にあるので三つの部屋とは離れている。
いつきさんは三つのうちの一つの前で止まった。
扉には《解体部屋》と書いてあった。
確かに、この部屋で小さい魔物は解体していたけど、グレートビーストを解体する広さはなかったはずだった……。
だけど、いつきさんは自信満々の顔で扉を開ける。
そこには、何もない空間が広がっていた。
「いつきさん、これって」
「そうですよ。空間魔法で広げました。私達だけが使うのならば時の番人は来ないそうですからね」
アディさんが部屋の広さを確認して、僕を見る。
「ここならグレートビーストを出せるな。みつき、出してくれるか?」
「あ、うん」
僕はグレートビーストを取り出す。
グレートビーストからは血が流れだす。
「ん? こいつはいつ狩ったんだ? まるで、今狩ったような状態だな」
「うん。ここまで新鮮なのは珍しいよね」
二人はグレートビーストの死骸を見て驚いている。
確か、三日くらい前だったかな?
「いつきさん……」
「そうですね。私の中では、お二人が加入するのは確定ですから、話しても問題ありません」
僕は、いつきさん特製の道具袋を二人に見せて説明する。
二人は驚いて解体業の難しさを説明してくれた。
魔物の解体で一番ネックとなるのが鮮度だそうだ。魔物によっては肉が硬質化したり、腐敗臭が物凄い魔物もいるそうで、倒して数日経った魔物を持ってこられるのは本当に迷惑なのだそうだ。
でも、この道具袋があれば鮮度の事は解決できるとアディさんは喜んだ。
二人はグレートビーストを見回した後、見事な腕で解体してくれた。
その日の夜に、グレートビーストのお肉を焼いて食べてみたけど、ヴァイス魔国の解体屋の解体したお肉とは、味が全然違った。
単純に鮮度の差かな? とも思ったが、よいやみは解体の腕の違いだと言っていた。
確かに二人は腕がいいのだろう。ヴァイス魔国の解体屋さんはグレートビーストを解体するのに三日もかかっていたのに、二人は二時間くらいで解体してしまった。
この人達の腕があれば、これからはいろいろな魔物を解体してもらえそうだ。
それに、グレートビーストの調理はカレンがしてくれた料理は本当に美味しかった。
この二人が黒女神に来てくれたらなぁ……。
二人には、教会の事が解決するまでは、いつきさんのお店に寝泊りしてもらう事にした。
偽聖女であるローレルさんが幽閉されてしまった以上、勇者であるカレンに何かをしてくる可能性が高いので、仲のいいアディさんにも被害が及ぶかもしれないという事で、ここで匿う事にした。
二人が黒女神に加入してくれるかどうかは、ソーパー教会を潰してからの話になるので、今はそっちに集中した方が良いだろうからね。




