13話 ソーパー教会
「教会を調べるか。ソーパー王国の国王として、大司教が何者かを知っておきたい……確か、君達は勇者一行だったね。レオン殿、我が国から今回の事を依頼しようと思うのだが、許可を貰えるか?」
「あぁ、話を聞いている限り、この国の教会は政治介入が過ぎるようだ。賢王と呼ばれているイヴァン殿ですらこの状況なのだ。王太子のヨハンが国王になるときには今以上に好き勝手やるだろうな。俺からも依頼しよう。いつき、この依頼を受けてくれるか?」
「そうですね。今回は依頼料も格安でやりますよ。とはいっても、私の分だけですけど」
いつきさんが自分の取り分を減らすなんて少しびっくりしたけど、無しでいいと言わない辺りはやっぱりいつきさんだな。
「今回は教会絡みだから、タダで依頼を受ける気にはならないのか?」
「ならないですね。聖女だからってただ働きするのは商人として許されませんから」
「しょ、商人!?」
ソーパー王はいつきさんが商人とは知らないんだねって、知るわけがないか。
聖女と言ったら教会で一番偉いんだから……あれ?
「王様、発言いいですか?」
今回は王様が二人もいるからね。
勝手に話をして無礼だと言われるのも嫌だから、ちゃんと聞いておこうかな。
「何をかしこまっているんだ? ここは謁見の場でもないんだから好きに発言してもいいぞ。あ、イヴァン殿も構わないか?」
「構わん。ここは執務室だからな」
「いいぞ、みつき」
「うん。聖女って教会で一番偉いんでしょ? 僕もそう教えてもらったけど、ソーパーではどう教わっているの? さっきからの話聞いていると大司教が一番偉いみたいになっているけど、聖女のいない教会ではどうなるの?」
聖女のいるアロン王国で聖女が一番偉いのは当然だと思うけど、聖女のいない教会では巫女さんがいるのなら巫女さんが一番偉くなる?
でも、大司教という巫女さんの保護者のような人もいるし……。
「そうですね。まず大司教ですが、大司教がいる教会には間違いなく巫女がいます。そして、巫女がいるという事は確実に大巫女がいます。普通であれば教会の責任者は大巫女がするものです。で、その大巫女をサポートするのが大司教です。逆に聖女のいるアロン王国の教会には大巫女はいません。ソーパー王国の教会の場合は巫女がいませんから大巫女はいないはずです。つまり、大司教もいないはずなのです」
成る程……。
つまり、巫女さんの中でも一番偉い人が大巫女になって、教会を運営するんだね。
「ソーパーにも巫女は派遣されて来たわよ」
「え?」
ローレル姫が突然そんな事を言い出した。
そう言えば、偽物とはいえローレル姫はソーパー教会に選ばれた聖女だ。だから、教会の内部の話を知っているのだろう。
でも……巫女がいたって?
「おかしいですよ。私が知る限りソーパーには巫女は送っていないはずです」
聖女であるいつきさんが知らないのはおかしい。
もしかして勘違いとか?
「巫女が送られてきたのはつい最近の事よ。それもアロン王国から派遣されてきていたわ。まぁ、貴女達の話を聞いている限り、アロン王国からしか巫女は派遣されないみたいだけど」
「その話、詳しく教えてくれませんか?」
「えぇ。私が聖女に選ばれたのが半年ほど前、それから数人の巫女が派遣されて来たわ。貴女達にとっては胸糞の悪い話だろうけど、大司教の慰み者としてね」
「!!!!」
「驚く事もないでしょう。現時点でも、あの教会にいるシスターは娼婦が多いんだし、それに神官も犯罪者やろくでもないのが揃っているはずよ。あぁ、巫女に関しては安心しなさいな。私が逃がしておいたからね」
「え?」
「別の国に逃がしたから、問題ないでしょう。ただ、アロン王国の教会がこの話を知らなかったところを見ると、逃がした巫女はアロン王国には戻っていないという事でしょうね。つまり、戻れない理由があるのでしょうね」
「そうですか……貴重な話ありがとうございます」
ソーパー王のは眉間にしわを寄せている。
ローレル姫のおかげで巫女さんに被害が出ていないとはいえ、この事はソーパー王国にとっても大問題だ。この話が不味いのは僕でも分かる。
アロン王国の巫女を慰み者として派遣させていたのが、他の国の教会にしれれば、ソーパー王国の教会だけではなく、アロン王国の教会の信用まで無くなってしまう。
そうなれば、ソーパー王国は教会の敵になるだろう。
しかし、アロン王国の聖女であるいつきさんが知らなかったとなると、恐らくこの事に関わっていたのはあの人だろう。
「聖女殿。ソーパー王国からも依頼料を出す。ソーパー王国の教会を叩き潰してくれ」
「分かりました。しかし、ソーパー王国には別の要求をしますので、依頼料は必要ありません」
「「えぇ!!」」
僕とよいやみの声が見事に揃う。
いや、いつきさんが依頼料を貰わない!?
「い、いつき……病気っすか? 頭は大丈夫っすか?」
「どういう意味ですか?」
今まで真顔だったいつきさんが笑顔になった。
で、でも、目は笑っていない。
「よ、よいやみ!! あの目は不味い!!」
「し、しまったっす!!」
いつきさんのあの笑顔は……せ、説教確実の時の目だ……。
やってしまった……。
ん?
「い、いつきさん? 僕は何にもやっていないよ?」
「あぁ!! みつき、何責任逃れしてんすか!!」
「僕は何もしてないもん!」
僕とよいやみの言い合いをいつきさんは呆れてみていた。
「何を怯えているのですか? 別に説教なんて一言も言っていませんよ」
「「え?」」
「それに、私としてはここでソーパー王に恩を売っておいた方が、後々、頼み事をしやすくなりますからね……ふふふ」
いつきさんの口角が吊り上がると王様の顔が引きつった。その顔を見てソーパー王も不安そうな顔になる。
「れ、レオン殿、聖女殿はいつもああなのか?」
「あぁ、アイツは商人が本職で聖女は適当にやっていると公言しているからな。イヴァン殿もアイツが何を言い出すかは覚悟しておいた方が良い」
「そ、そんなになのか?」
流石アロン王国の王様だ。いつきさんの事を良く分かっている。
王様の言葉にソーパー王の顔が青褪める。
「失礼ですね。別に政治介入したうえで、金銭を要求するという今の教会のような真似はしませんよ。すこし、お願いを聞いて貰うだけです」
「そ、そうか……」
「ソーパー王、教会の人間と会うのはいつですか?」
「あぁ、アイツ等は無駄に私達に接触してくるからな。一週間に一度は自分達の要求を言ってくる。私達も全てを聞く気はないが、ある程度は話を聞いてやらんとうるさいからな」
「そうですか。今度教会関係者が現れたら、伝言をお願いできますか?」
「伝言?」
「はい。本当は私達が乗り込んで伝えてもいいのですが、アロン王国の教会でやらなければいけない事もありますので、時間が欲しいのです」
「時間? どれくらい欲しいのだ?」
「そうですね。三日もあれば充分です」
「あぁ、そのくらいなら何とかなるだろう」
「ではこう伝えてください『大司教の詐称はセリティア様の怒りに触れますよ。今罪を認めるのであれば、私が口添えしてあげます。一週間以内に大司教の位を返上し、罪を認めて王城へ出頭しなさい。そうすれば、貴方の母親も罪に問われないでしょう』とアロン王国の聖女が言っていた、と」
「分かった。もし素直に出頭してきたらどうするのだ?」
「それはあり得ません。彼等は私の存在を否定するでしょう」
「なに? ではどうするのだ?」
ソーパー王は心配そうにいつきさんを見ている。
でも、いつきさんは不敵な笑みを浮かべていた。
「奥の手を使います」
「奥の手?」
「セリティア様を呼び出します」




