12話 カレン
「まずは、カイトの正体を話しておく必要がある。アロン王国の聖女殿は既に気付いているようだが、カイトは男ではない。カイトの本当の名はカレン。平民ではなく、今は亡き私の弟夫婦の忘れ形見だ」
確かに、勇者カイトはどっちとも言えるような顔立ちをしていた。だから女と言われてもそこまで驚きはしないけど、王族だったのは驚いた。
この事はローレルさんも知らなかったみたいで、少し驚いていた。
そう言えば少し気になっていた事があるんだけど……。
「ローレルさんはカイトには手を出そうとしなかったんだね」
「そうね、私でも同姓には手を出さないわ。カイトが女とは気付いていたけど、王族だとは思わなかったけどね」
ローレルさんがカイトの性別に気付いていた事にこの場にいる全員が驚いていた。
「あぁ、安心してね。オーソンとアシャの二人は気付いてなかったわよ。あの二人は基本バカだからね。しかし、お父様の弟ね……いたとは聞いていたけど、結婚していたのね」
「そうだったな。弟の名はヴルカイトという名だったか? 俺も幼い頃に会った事がある。だが、もう一人弟がいなかったか?」
王様が言うには、ヴルカイトという王子は体が弱く滅多に社交界に出てこなかったらしいが、もう一人、王族特有の大きな態度の弟がいた事を思い出したらしい。
「あぁ、もう一人いた。ヴルカイトは王になるには優しすぎ、アストゥーというもう一人の弟は王になるには野心が強すぎた」
野心が強すぎるのは敵を作りすぎるからとなんとなくは分かるけど、どうして王になるには優しすぎるとダメなんだろう?
ソーパー王が言った意味が分からず、首を傾げているとよいやみが王族の覚悟を教えてくれた。
王族が守るべきは国であり国民で、国を守る為には時に身内をも殺さなければいけなくなる。
アロン王国の王様が一番わかりやすく、国を守る為に自分の実の兄を殺した。
優しすぎて、国を混乱させても許していてはいつかは国が滅びてしまうとの事だった。
「ヴルカイトは人の死が嫌いでな、そんなヴルカイトをアストゥーは何度も刺客を送っていた。ヴルカイトは何度も殺されかけたというのに、アストゥーを裁く事も無く、許し続けた。王族として、それではダメだ」
王族でなくても、何度も殺そうとする者を野放しにするのは駄目だと思うが、それ以前に自分の兄を殺してまで王になろうとする奴を野放しにしちゃいけない。
仮に優しすぎる者が王になれば、他国に舐められて国が衰退するだけだと、王様が言っていた。
「ヴルカイトの妻も病弱でな、カレンを生んですぐに亡くなってしまった。ヴルカイトは一人でカレンを育てようとしたんだ。だが、カレンが二歳の時にアストゥーがヴルカイトを殺してしまった。何度も暗殺を仕掛けていたのがついに成功してしまったのだ」
「その弟は野心を持っていると言っていたが、何故、次男であるヴルカイトを襲ったんだ? 王の座を奪いたいのであれば長兄であるあんたを襲うと思うのだが」
「私も当時はそう思ったが、どうやら、当時の教会もその事件に一枚噛んでいたらしい」
「成る程。セリティア様がこの国を嫌ったのはそれが理由かもしれませんね」
「なに?」
「セリティア様は、セリティア様の声を聞く巫女がいない国にお告げをする事はありません。お告げをしていない国が勝手に自分の名を使って人殺しの協力までしたとなると、それは許せませんよね。ここからは私の推測ですが、次男を狙った理由は国王を殺させた事が露見した場合、教会が取り潰しになってしまうかもしれないから、保険をかけてそちらを狙わせたのでしょう。現王にはお告げとでも言って、失脚させようとしたんじゃないですか」
そりゃそうか。
勝手に名前を使われたうえに、それが人殺しまで発展すれば、怒って当然だ。
「どちらにしてもだ、アストゥーはヴルカイトを暗殺したとして処刑した。私は弟二人を同時に失った事になる……これは全て、私達が王族だったことで起きた悲劇だ。その経緯もあり、カレンを政争に利用されたくないと、平民でありながら私の親友でもある兵士長のムドーにカレンを託した。彼ら夫婦は子に恵まれなかったからな、カレンを大切に育ててくれて感謝している」
ソーパー王は悲しそうな目をしていた。
しかし、王族というのはややこしいモノだな。
兄弟で殺し合わなきゃいけない程、王様になるのが魅力的なんだろうか?
「ローレルが教会のお告げで聖女に選ばれたと聞いて、カレンに勇者カイトとなってローレルを支えてくれと頼んだ」
「そこが分からねぇな。カレンという娘が大事だったのに何故、勇者に選任した? 何故、うちの国に送り込んだ?」
「アロン王国では、クジ引きで勇者を選んでいるだろう? 勇者専用の受付まである国にいた方が安全と判断したんだ。この国に居れば、いずれはカレンの出生に気付かれ利用されると思ったんだ。それに、カレンはともかく他の三人を国外に出したかったというのもある。アロン王国であれば貴族であろうと問題を起せば対処してくれると思った」
「他力本願かよ。せめて一言言ってくれてりゃ、俺達だって対処法はあったんだぜ?」
「それに関しては済まない」
確かに、事前に情報が来ていればオーソンの馬鹿と戦士が起こした揉め事を防げたはずだ。
言っていたとしても、身内の恥を晒すだけだもんね。言えないよね。
「それにしても気になるのがローレルっすよね」
「私が何よ」
「お前みたいなビッチがよく聖女なんて大したモノに選ばれたっすよね。あ、セリティア様に選ばれたんじゃない事はもう分っているっすけど、あしがガストにいる頃から、あまり良い噂を聞かなかったっす。こんなのが聖女になったところで国民の支持も得られないっすし、他国からは蔑視の目で見られるだけっす」
「あんたは言いたい事をハッキリ言うわね」
「よいやみ姫の言いたい事は良く分かる。私も教会からこの話を聞いた時は「正気か!?」と聞き返したくらいだ。そのくらいローレルの男癖の悪さは広まっていたからな」
「そう言えば、ローレル姫はどうやって教会に気に入られたのですか? 先ほども言いましたが、この国はセリティア様に嫌われているはずです。お告げはあり得ません」
「私も詳しい事は分からないわよ。ただ、大司教のクリストファーが私を抱きたかったという噂は聞いていたけどね。事実、聖女になった後に何度か関係を持ったしね」
それを聞いて、ソーパー王が悲しそうな顔をする。娘のそんな話を聞きたくないだろうな。
でも大司教か……。
前にいつきさんに聞いていた、セリティア教会の役職の中にそんな役職あったっけ?
「いつきさん、大司教って何? 巫女さんや聖女より偉いの?」
「いえ、大司教というのはセリティア教会には普通はいません。ただ、巫女を各国に派遣するときに巫女達の保護者をしてもらう人の事を大司教と呼ぶ事もあります」
「なに? その話が本当ならばソーパーの教会にいるあの男は何者なのだ?」
いつきさんはその話を聞いて、少し険しい顔になった。
「そうですね。一度、ソーパー王国の教会を調べる必要がありますね」




