10話 尋問
「おら、入るっす!」
よいやみは捕まえた二人の背中を蹴って呪い部屋に入らせる。
呪い部屋には、偽聖女さんもいるが、彼女は全く呪われた様子がない。
「いでぇ!!」「ぐほぉ」
容赦ないよいやみの蹴りで、二人は顔面から床へと激突する。流石に床が硬いので、鼻血が出たのか顔の周りが赤くなっていた。
「なんですの? あぁ、この二人もここにいれられるのね」
勢いよく蹴られて鼻血を流しながら床で寝そべっている二人を見ても、偽聖女さんはあまり気にした様子はない。
それに比べて、鼻血コンビはよいやみを射殺さんばかりに睨みつけている。
先に入っていた偽物聖女さんも二人が乱暴に投げつけられた事に驚いていた。
二人は鼻血を出しながらよいやみを睨みつけている。
「いつき、ビッチを連れて行くなら早くするっす。あしは一秒でも長くここに居たくないっす」
お店に帰ってきた手順では、二人を呪い部屋に置いて何故か呪いの効かない偽聖女さんを普通に監禁して、呪い部屋の二人を僕とよいやみで尋問するという流れだ。
僕は呪いが効かないし、よいやみにはいつきさん特製の呪い妨害用のお札を貼り付けてある。実際効くかは分からないけど、何もつけてないよりかはマシだろう。
いつきさん達が部屋を出て行った後、よいやみがオーソンの髪の毛を掴んで持ち上げる。
オーソンには呪いの影響が早速出ている様で、顔が青褪めていた。
「お、俺達にこんな事をして、ソーパー王国を敵に回す気か!?」
そう言えば、彼等はソーパー王国の貴族だったね。
聞いた話では、自分の身分を理由に好き勝手やっているとか……。
でもそれって、相手の方が身分が高いとどうなるんだろうね。
「お、俺達が国へ帰って報告すれば、アロン王国なんてすぐに滅ぼす事が出来るんだぞ!!」
へぇ……。
ソーパー王国ってそんなに軍事面で強力だったんだね。
それだったら、こいつ等勇者一行がこの国に来た理由って何なんだろうね。
「今のソーパーにそれ程の力があるんすか? そもそも、ソーパーの軍事力は冒険者ギルドからの支援が無ければたいした事無いっすよね?」
「よいやみ、どういう事?」
「そうっすね。頭の弱いみつきでも分かるように言うならば、ソーパー王国は比較的平和なんっすよ。平和だとどういう事が起こるかわかるっすか?」
「えっと、兵士が弱くなっちゃう?」
「そうっす。平和ボケし過ぎて、軍事費を別に使っちゃうんっすよ。ソーパーの場合はこいつ等の様な馬鹿な貴族の息子達の尻拭いにかなりの額の予算が使われているそうっす」
えぇ!?
要は、こいつ等がいるせいで国が弱くなっているんだ。
「き、キサマ、何を出鱈目を……」
「出鱈目じゃないっすよ。あしを忘れたっすか? お前とは一度だけ会っているっすよね?」
オーソンは、よいやみを青褪めた顔を真っ白に変える。
よいやみの言いたい事が分かった。
オーソンも横の戦士も貴族であるなら、ガストという巨大国家の姫様の顔を知らないはずはないんだ。
そして、こいつ等は貴族の地位で好き勝手やって来た。つまりは同じ事をよいやみも出来るという事になる。
「安心していいっすよ。あしはお前達と違って権力なんかを力にしないっす。ガストでは権力を使ってしまった場合、最悪何が起こるかをちゃんと教育しているっす。しかし、オーソンだったっすか。お前は噂通りのカスっすよね。お前の父親がお前を捨てたがる気持ちが良く分かるっす」
「え? お、俺を捨てるって、どういう事だ?」
「そのままの意味っすよ。もしかして知らなかったんっすか? お前の父親がお前を捨てて養子を探しているという事を」
「ば、馬鹿な……親父が、優秀な俺を……」
「優秀? 馬鹿言っちゃいけないっす。ガストにはお前程度の魔導士なんてそこら中にいるっすよ」
「え?」
「知らないんっすか? ソーパーでは貴族がうるさいから本当に才能がある奴等はガストに送られるっす。お前達と同期にも数人はガストに言った奴がいるはずっす」
「い、いや……俺はソーパー魔法学園を首席で卒業……」
「そもそも、宰相にならなきゃいけないお前が魔導士として主席だからと言って何になるんっすか? お前は頭が悪いし、宰相というのは国を守らなきゃいけないんすよ? ヨハン王太子がお前みたいな馬鹿を信頼するとでも思っているんすか?」
よいやみも姫様だったからか、他国の内部事情まで把握しているみたいだ。
「さて、下らない話はここまでっす。お前達には色々吐いて貰うっすよ。あぁ、拒否するなら容赦なく殴るっすからね」
今度は脅しか……。
こいつ等でもチンケなプライドくらいはあるだろうから、脅しには屈しないと思っていたんだけど、二人とも土下座しているね。
そう言えば、ここに来るまでにボコボコにされてたね。
僕達は二人から話を聞いて呪い部屋を後にした。
話を進めていくと、二人の顔が青褪めていき、最後は呪いにより失神したから放って来た。
「二人から何かいい情報は聞けましたか?」
「いや、何も聞けていないっす。そっちはどうなんすか?」
いつきさんは同じ聖女同士で話をしてくれたらしく、偽聖女さんから色々聞いてくれたようだ。
「ローレル姫も神のお告げについては何も知らないそうですよ。確かに教会の関係者と関係を持っていたそうですけど、それはあくまで内政干渉を自分に都合のいい様にさせるためだったらしく、聖女になるつもりは無かったそうです。どちらにしても、わざわざアロン王国へと来た理由は分かりませんでした」
「これは困ったっすね。どちらにしても異国の勇者一行をとっ捕まえたんすから、シドさんに報告しなくていいっすか?」
「そうですね。みつきさん、呪い部屋から彼等を連れてきてくれませんか。よいやみさんはローレル姫を連れてきてください」
僕は呪い部屋に入り二人をつないでいる鎖を引っ張る。
少しは抵抗してくるかと思ったけど、素直についてきた。
二人の顔を見ると、顔の色が土気色になっていた。バッチリ呪われているね。
「ほれ!! ビッチ、歩くっす」
「うるさいわね。大人しく歩いているでしょ!!」
偽聖女さんは二人と違って元気そうだ。
「いつきさん、どうするの?」
「はい。今から陛下の所へ転移します。ゆづきちゃん」
「ん?」
「勇者カイトさんを見張っていてください」
「りょ」
ゆーちゃんはそう言って、勇者カイトの部屋へと駆けていく。
「いつきさん、ゆーちゃんを見張りにして大丈夫?」
「はい。あの子なら見張れと言ってもすぐに寝ます。一応、部屋からは出れないように細工はしてありますが、まぁ逃げないでしょう」
「で、でも、ゆーちゃんは女の子だよ? あのカイトが変態だったら……」
僕が本気で心配しているのに、いつきさんは呆れた顔をしている。
「はぁ……本当にゆづきちゃんが絡むとおかしな思考になってしまいますね。もう一度言いますが、大丈夫ですよ。カイトさんには幼馴染の女性がいるそうですよ。それに……」
「それに?」
「いえ、不確定な事は言わないでおきましょう。さて、今の時間であれば執務室に入らっしゃるでしょう。行きますよ」
いつきさんは僕達を転移させる。
転移先は王様の執務室。
僕達が転移してくると、机に向かって書類を読む王様が呆れた顔をしていた。
「おい、俺は一応国王だぞ? 何があったかは知らないが、直接転移は止めろ……ん? そこにいるのはローレル姫か? なぜこんな所に……そうか、シドが言っていた異国の勇者一行という奴か」
「いえ、勇者は別に監禁しています。ここにいるのは仲間の三人です。で、ここにいるのは貴族様なんですよね」
「……そうだな。ローレル姫は言わずとも、そこの二人も見た事がある。まだ貴族を名乗っているという事は、まだ廃嫡していなかったんだな」
「廃嫡?」
さっき、よいやみが言っていた事かな?
王様もその噂を知っていたんだね。そうなると本当に知らなかったのは当の本人だけなんだね。
「陛下。彼等がこの国で好き勝手やっていたのは知っていると思いますけど、どうしますか?」
王様は腕を組んで三人を睨んでいる。
まだ、大きな被害は出ていないとはいえ、三人のおかげでこの国が迷惑を受けたのは事実だ。
「そうだな。いつき、ソーパー王国の執務室に転移できるか?」
「いえ、その場所には行った事が無いので、無理です。でも、はるさんなら長い人生ですから、入った事があるかもしれませんね」
いつきさんがそう言うと、王様は急いではる婆ちゃんを呼び出した。
暫くすると、不機嫌なはる婆ちゃんが転移して来た。
「なんじゃ? こんな年寄りを呼び出しおって」
「はる婆、ソーパー王の執務室に直接転移したいんだが、出来るか?」
「何故じゃ? という必要もないのぉ。こ奴等問題の連中かい」
「あぁ、ルルにボコボコにされた戦士もいるだろう?」
「あぁ……あの子は、バトスの事になると人が変わるからな」
はる婆ちゃんは僕達に向かい転移魔法を使う。
「ほれ、陛下も早くこっちゃ来い」
「あ、あぁ」
「じゃあ、転移先はソーパー王の執務室じゃ」
はる婆ちゃんがそう言うと、僕達は光につつまれて、見た事のない部屋に転移していた。
丁度その時、一人の男性が部屋に入ってきた。




