4話 魔導士オーソンの復讐
俺はソーパー王国の公爵家の跡取り息子、オーソン=サピノス。
俺の親父は……いや、サピノス家は代々、ソーパー王国で宰相をしている。その息子である俺も、将来は宰相になる事が決まっている。
まぁ、ソーパー魔法学園を首席で卒業した才能あふれた魔導士である俺を、ソーぱー魔法省も欲しがっているはずだ。今頃、王宮と魔法省で俺を手に入れる為の交渉でもしているのだろう。
そんな将来が約束された俺がどうしてアロン王国なんていう蛮族が住む国へ来なきゃいけないんだ? この国はクジ引きなんていう下らない方法で勇者を選んでいる糞みたいな国じゃねぇか。
なぜこんな下らない国に来なければいけないのか……これもそれも、全てあの無能な国王のせいだ。
国王の娘であるローレル姫が聖女に選ばれたおかげで、国一番の魔導士であるこの俺までこんな旅に出なきゃいけなくなっちまった。
まぁ、ローレル姫は見た目も良く、体つきも俺好みだ。そして、男と寝るのが大好きというビッチだ。俺も何度か抱いている。この女と二人旅ならばよかったのだが、俺達の旅には後二人仲間がいる。
いや、仲間じゃないな。
ローレル姫は体だけが目的だし、戦士であるアシャは騎士団長の息子だから、この先付き合いが長くなるから仕方が無く仲良くしておく。
ただ、最後の一人は、国王が選んだ勇者カイト、こいつは平民の癖に偉そうなのが気に入らねぇ。
さらに、女受けしそうな顔、下らねぇ正義感、どれをとってもムカつくぜ。
俺は、アロン王国の王都ナイトハルトで単独行動をとらせてもらう。カイトの奴が何か言っていたが、「うるせぇ!!」の一言で黙る。そもそも単独行動をとろうとしているのは俺だけじゃねぇ。ローレル姫もアシャもそれぞれ好き勝手動きだす。
俺達二人は貴族、ローレル姫は王族、平民のカイトの言葉なんて誰が聞くか。
俺はこの国の冒険者ギルドへと向かった。
簡単に女を手に入れるのに冒険者ギルドは最適だ。こいつ等は金で簡単に動く奴が多いし、逆らうのならば権力と魔法の腕で黙らせればいいだけだ。しかも、遊び捨てても後腐れがないからどうこう言われる事は無い。
それに冒険者ギルドで女を調達するのにはもう一つ理由がある。貴族は綺麗どころが多いが、無理やり関係を持てば馬鹿正直な親父に小言を言われる。今はアイツの庇護下にあるから黙ってやるが、俺が宰相になったら、あの親父には死んでもらう。いつまでも父親面されたら堪らねぇからなぁ。
しかし、この国の冒険者の女はどうなっている?
俺が誘っても見向きもしやがらねぇ。俺は宰相の息子だ。貴族だぞ? と言っても聞きやしねぇ。どうなっている? それどころか貴族に嫌悪感すら持っている奴もいる。
こういう所が蛮族なんだよ。
俺が抱かれろと言ったら、素直に抱かれりゃいいモノを……まぁ、いい。俺が宰相になったらこの国を潰してやる。人魔王だか何だかを倒したという噂だが、クジ引きで選ばれたような勇者だ、たいした事は無いだろう。
しかし、ここの冒険者ギルドの受付共はレベルの高い女ばかりだ。特にあの緑髪の女。是非ともお持ち帰りしたいぜ。
俺は早速声をかけようとしたのだが、止めておいた。
チッ……ギルマスの女かよ。
ギルマスの部屋に入っていた以上、あの女に手を出すのは危険だ。ギルマスは権力も実力行使できるだけの筋力も持っていやがる。この国のギルマスは、元ミスリルランクの冒険者だと聞いた。迂闊に手を出せるわけがねぇ……。
もったいねぇがあの女はパスだ……ん?
他にも何かいないか?
ん?
あの桃色の髪の毛の女、アイツでいい。
まだ、幼さの残る顔つきだが、あの顔が快楽におぼれる姿が見てぇ。いや、嫌がって泣き叫ぶ姿もいいな。
よし、気が弱そうだな。強気で行けば押し通せるだろう。
俺は女に声をかけたが、横にいたじじいが邪魔しやがる。
クソが!? 邪魔すんじゃねぇよ!!
俺はじじいに向かって、炎魔法の《ヘルファイア》を打ち込む。こんな蛮族の国で詠唱破棄で中級魔法が使える人間を見た事が無いだろう。少なくてもソーパーでは俺意外に見た事が無い。
しかし、じじいは咄嗟に魔力で防御しやがったのか、殺す事は出来なかった。チッ!! 運がいい奴だ。
だが、これで俺の怖さと凄さが分かっただろ? 大人しく俺に抱かれりゃ良いんだよ。
そう思っていると、俺はいきなり後ろから蹴られた。
クソっ!!
高貴な俺を蹴るとはずいぶんいい度胸だ。そう思った瞬間、今度は横から蹴られた。
くっ、二人もいやがったか。
「ぎゃあ!!」
俺は野次馬をしていた冒険者共に突っ込む。
クソっ!!
誰だ!!
そこには黒髪のチビの女? がいた。
しかも勝手に俺の得物を逃がそうとしてやがる。
俺はこのチビをフレイムサークルの魔法で焼き殺そうとした。
優秀な俺様でも、この魔法は詠唱なしでは使えない。時間はかかってしまうが威力は申し分ない。さっきのじじいの様に殺し損ねる事はねぇだろう。
そう思って詠唱を続けていたのだが、チビの足元に魔法陣が現れた瞬間、俺の意識は途切れた。
な、なにが起こった!?
俺が目を覚ましたのは、ギルドの傍のゴミ捨て場だった。
クソっ!! 臭ぇじゃねーか!? 誰がこんな所に俺を置いて行きやがった。
俺は慌てて立つ。
すると目の前にカイトが立っていた。
「何か用かよ」
「オーソン、そんな恰好で何があったんだい?」
「チッ!! うるせぇ、平民のお前には関係ない」
「どこに行くんだい!!」
「ついてくるんじゃねぇ!!」
本当に鬱陶しい奴だ。
俺は一人で宿屋に帰る。
次の日、俺は蹴りをいれやがった、あの黒髪のガキを始末するために探す。
すると、金髪の美人と一緒に歩くチビを見つけた。
その横の女、相当の美人だ。
ローレルよりも胸は無いが、スタイルもよさそうだ。
ここでチビを殺してあの女をいただくとしよう。
「おい!! 昨日は随分と世話になったな!!」
「ん?」
チビは俺の事を睨んでいる。横の女は俺を怪訝そうな目で見ている。
昨日は不意打ちで俺を蹴る事が出来たようだが、今日はたっぷりと仕返しをしてやる。
すると金髪の女がチビの前に出た。
「何すか? 喧嘩売ってるんすか?」
「ちょっとよいやみ!!」
「いいっす、いいっす、あしに任せるっす」
「いや、そうじゃなくて!!」
「今はみつきとデート中っす。邪魔はさせないっす」
ん?
よいやみ?
どこかで聞いた事のある名前だ。
……、!!
ガストのお転婆姫の名前と同じか!?
もしかして……こいつが……?
いや、ガスト王はよいやみ姫には過保護だという。ガスト国内ならいざ知らず、アロン王国にいるわけがねぇか……。
「おい、邪魔すると痛い目を見るぜ」
「うるさいっす!!」
女がそう言った瞬間に腹部に激痛が走り、俺は意識を失った……。
「ヒール!!」
この光は気持ちがいい……。
俺は起き上がる。
この光は癒しの光か。
「何をしているのですか?」
「ロ、ローレル姫……」
俺の傍には、聖女であるローレル姫とカイトが立っていた。それと、奥にはアシャもいる。
そうか、アシャが俺をここまで運んだのか……。
心なしか、アシャも少しボロボロに見える。何があった?
俺の疑問をよそにカイトが俺に怒鳴りつけてくる。
「オーソン、行く町行く町で問題を起こさないでくれ!!」
「うるせぇ!! 公爵子息の俺に文句言うんじゃねぇよ!!」
俺はカイトを殴ろうとするが、アッサリと避けられる。
「オーソン、腹が立っても仲間を殴ってはいけません。宿屋に帰りましょう。今日は二人でたっぷりと話をしましょう」
「あ、あぁ……分かった」
くくく……
どうやらローレル姫も男を捕まえる事が出来なかったようだな。
ローレル姫の事は抱き飽きたというのもあるが、今夜は獲物がいないから、たっぷりと楽しませてもらうとするか……。
カイト、お前の婚約者は男漁りをするビッチだぜ。
お前はローレル姫に相手にもされないらしいからな。俺がお前の代わりにたっぷりと可愛がってやるよ。
お前はそうやって、悔しそうにしているんだな。
≪みつき視点≫
「ちょっと! よいやみ、離してって!!」
よいやみは僕の腕を掴んだまま、すたすたと歩いて行く。
「はーなーせー!!」
「離さんっす。今日は、みつきとデートっす。さっきは邪魔が入ったっす。今日は二人で美味しいモノをいっぱい食べるっす」
「デートって、お前何言ってんだ!! 今日は二人でクエストでしょ!! それに、さっきの奴!」
「浮気っすか?」
「アホか!!」
そもそも僕達女の子同士だよ!?
いや、そんな事はいい。
「さっきの奴、勇者パーティの奴だよ!!」
「ん?」
よいやみがようやく足を止める。
「今なんて言ったっすか?」
「だから、異国の勇者パーティなんだよ」
「それを早く言うっす!!」
僕とよいやみは急いでさっきの男がいた場所へと戻るが、そこにはすでに誰もいなかった……。




