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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
三章 異国の教会編

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2話 宰相からの依頼


「ラビさーん。ラビさーん、いますかー!!」


 僕は勇者専用の受付でラビさんを呼ぶ。

 普段であれば受付に別の勇者担当の誰かがいるのだが、今日は勇者専用受付はお休みのようで誰もいない。


 そもそも、冒険者ギルドの受付には休みという概念が無いのだが、この国の冒険者ギルドには勇者専用に受付があり、その受付には休みの日もある。

 現在アロン王国に登録されている勇者は、僕達を含む十人いるそうだ。これは他国と比べて随分と多いらしい。


 しかし、十人中四人はもう何年もアロン王国に帰ってきていないそうだ。

 もう死んでしまったのかな? と思ったのだが、バトスさんの話では「別の国で家庭を持ったりする奴もいるからな、一概に死んだとも言い切れん。そもそも冒険者でも他国で結婚して帰ってこない奴もいるくらいだし、別に不思議な事でもない」と言っていた。

 現在、この国で勇者として活動しているのは、僕とバトスさん、クレイザーにユフィーナちゃん、そして勇者にして現・騎士団長のエゴールさんだけだそうだ。

 エゴールさんとは会った事は無いのだが、王様やオルテガさんも信頼している仲間の一人らしい。

 あと一人の勇者は、この国の宿屋の女主人だそうだ。この人とは何度か会った事がある。いつきさんのお店の常連さんで優しいおばさんだった。

 あの宿屋のおばさんが元勇者と聞いた時は驚いたものだ。


 しかし、クジ引きで選んでいるのだからもう少し勇者が多いと思っていたのだが、現実は勇者になっても数ヵ月で故郷に逃げ帰る者が多く、そこまで数は残っていないそうだ。

 逃げ帰った勇者達は、冒険者からも嫌われており、いなくなっても何の問題も無かったらしい。



 で、勇者専用の受付が休みの理由は、勇者が全員クエストを受けてこの町にいないのが理由だ。まぁ、勇者の一人である僕はここにいるんだけどね。

 おかしいね。

 僕は基本この町にいるんだから、毎日開けて欲しいモノだよ。


 僕がラビさんを呼び続けると、資料室からラビさんが出てくる。


「はいはーい。みつきさん、どうしました?」

「どうしましたって、頼まれていた素材を納品しに来たんだよ」

「えぇ!? もう狩りから帰って来たんですか!?」


 あれ?

 帰ってきちゃダメだった?


「あぁ!! そんな泣きそうな顔をしないでください。そういう意味ではありませんから」

「じゃあ、どういう意味?」

「いや、今回依頼した素材は、結構時間がかかると思っていたんですよ。大体、依頼して三日じゃないですか」

「うん。狩り自体は二日で終わったけど、解体に時間がかかったんだ」


 普段は僕には指名依頼は滅多に来ないけど、ラビさんが冒険者ギルドに依頼された素材を僕に直接依頼してくれている。

 最初は、僕とラビさんの個人間でやっていたのだが、いつきさんにバレて凄く怒られた。もちろん、ラビさんも一緒にだ。

 それからは、冒険者ギルドから黒女神に依頼が来るようになった。


 僕は道具袋から、素材を取り出す。

 頼まれた素材は《グレートビーストの牙》十本《グレートビーストの肉》二匹分、それと《魔大陸ゴブリンの骨》二十本。


 魔大陸ゴブリンの骨は浄化の灰をかけるだけだし、グレートビーストの牙も浄化の灰をかければ簡単に手に入る。でも、グレートビーストの肉だけは、解体屋に依頼しないとどうにもならない。

 前に僕が解体して冒険者ギルドに納品したら、雑だと報酬を減らされた。だから、ヴァイス魔国の解体屋さんに解体してもらった。

 とはいえ、解体屋に頼む以上お金がかかる。まぁ、このお金はギルドが後で返してくれるので問題は無いのだが、正直二度手間になるのでお肉の納品は止めて欲しい。けれど、ラビさんからすれば牙よりもお肉の方が必要だそうだ。


「とりあえず、これ解体費用の領収書、それからこっちが素材ね」

「はい。お肉の在庫が切れそうだと、お父さんが催促していましたから、こんなに早くの納品してもらって嬉しいです」

「ん? お肉って、ラビさんのお父さんの所に卸していたの?」

「そうですよ。お父さんは、広場で串焼きの屋台をしていますからね」

「そ、そうなの!?」


 し、知らなかった。

 そう言えばよいやみが「串焼き屋のおっちゃんの正体知ったらビックリするっすよー」とか言っていたな。アレはこう言う事だったのか……。



「はい、納品書通りですね。えっと、解体の代金を合わせて五十八万ルーツ、無くしちゃダメですよ。ちゃんといつきさんに渡してくださいね」

「う、うん」


 いや、僕ももう子供じゃないんだから……。

 それよりも、解体屋の事で聞きたい事があった。


「ラビさん、ギルドはどうして解体屋を雇わないの?」

「いつきさんにもその事を言われた事がありますが、現実問題として解体を行うスペースが無いんですよ。それよりも問題なのが氷の魔石を使った保管庫が必要だという事ですかね。それらを考えると、どう考えても採算が取れないんですよね」

「そうなんだ……。でも、解体しない方が魔物の素材を有効利用出来る魔物もいるから勿体ないよね」

「冒険者ギルドとしては耳が痛いのですが、勿体ないというのは間違いないですね」



 それから数十分、ラビさんも他愛もない話をして、冒険者ギルドから出て行こうとすると、ギルマスの部屋から出て来たリリアンさんに呼び止められた。


「みつきちゃん、この後予定ある?」

「リリアンさん、こんにちわ。一応、今日のお仕事は終わりだよ。後はいつきさんに報告して終わり」

「なら、少し付き合ってくれない? あ、少し待ってて」


 リリアンさんは近くの職員さんにいつきさんを呼んでくるよう頼んでいる。

 あれ?

 いつきさんも必要なの?


「リリアンさん?」

「何?」

「僕だけじゃなくていつきさんも必要なの?」

「そうね。今回の相手(・・)はみつきちゃんだけじゃ、簡単に言い包められるからね。いつきちゃんの天敵と言えばみつきちゃんでも分かるでしょ」


 いつきさんの天敵……あの人(・・・)か……。


「ねぇ、リリアンさん。僕、帰っていい?」


 僕もあの人苦手なんだよね。

 

「ダメ。みつきちゃんは黒女神のリーダーでしょ」

「う……」


 酷い。

 普段はリーダー扱いしないくせに、厄介な事がある(こんな)時だけリーダー扱いする。

 僕はリリアンさんに引き摺られて、ギルマスの部屋まで連れていかれる。


 ギルマスの部屋では、少し引きつった顔のオルテガさんとあの人(・・・)が座っていた。


「おぉ、みつき。早かったな。リリアン、ご苦労」

「いえ、冒険者ギルドの受付にいましたので連れてきました」

「どーも」


 オルテガさんは、少し申し訳なさそうにしている。そしてあの人が、口角を釣り上げて僕に挨拶をしてくる。


「お久しぶりですね。黒姫さん」

「お、お久しぶりです……シドさん」


 シドさんはこの国の宰相をしている。

 いつもは王様についてここに来るのに、今日は一人みたいだ。


「今日はシドさん一人なんだね」

「そうですね。陛下は近頃この国に入ってきたある人物達(・・・・・)のおかげで忙しいんですよ」


 ある人物達?

 あの噂の人達かな?


「さて、黒姫さん、そんなところに立ってないでこっちにきて座ってください。依頼の話を始めましょう」

「依頼? いつきさんはまだ来ていないよ?」

「そうです。あのうるさい小娘が来る前に契約を成立させましょう」


 いや、そんな事したら、間違いなく僕が徹夜で説教コースだ。

 僕は必死に首を横に振る。


「おや? 黒姫さんはリーダーですよね。あのうるさい小娘もリーダーの言う事を聞かなくてはいけません。それが上下関係というモノですよ」


 い、いや。

 黒女神は、僕が形だけのリーダーで、実質パーティを切り盛りしているのはいつきさんだ。今日だけはいつきさんがリーダーでいいよ……。

 ちょうどその時に、いつきさんが部屋に入ってきた。


「ちょっと、うちの勇者を虐めないでくれますか?」

「チッ! うるさいのが来てしまいましたか」

「貴方が呼んだでしょう!? 私も暇ではありません。みつきさん、帰りますよ」


 え!?

 帰るの!?


「おやおや、王城が指名クエストの依頼をしているのに帰るのですか?」

「依頼人の態度が気に入らないので帰らせてもらいます」


 いつきさんはシドさんを睨みつけ、僕の腕を引っ張る。


「さて、依頼の話ですが……」


 シドさんはそんな僕達を無視して、資料をテーブルの上に置く。

 いや、そんな事したらいつきさんがさらに怒ってしまう……。


「どうしたんですか? 暇ではないんでしょう、早く座ってください」

「本当にムカつきますね。まぁ、良いでしょう。城からの依頼は報酬はいいので我慢してあげます」


 はぁ……。

 結局いつもこうなるのだ。

 

 実際、お城からの依頼は報酬がとてもいい。だから、ほとんど断る事は無いのだが、シドさんが絡んでくるといちいち面倒くさいのだ。


 いつきさんは僕の横に座り資料を読む。

 すると、どんどんと顔つきが変わってくる。


「ちょっと……これは正気ですか? この話を陛下も知っているのですか?」

「はい。書いてある通りですよ」

「はぁ……、黒女神が他国の勇者を始末すると書いてあるのですが?」

「その通りですよ」

「「「は?」」」


 依頼書を読んでいなかった、僕とオルテガさん、それにリリアンさんは自分の耳を疑った。

 他国の勇者を始末する!?


「馬鹿言わないでください!! 何故その他国の勇者を始末しなきゃいけないんですか!?」

「はぁ……貴女達も冒険者なら聞いているでしょう。隣国《ソーパー王国》から勇者がこの国に遠征に来ていると」


 やっぱりあの噂の人達だったんだ。

 僕が聞いた話だと、その人達は、この国に来てから問題を起こしていると聞いた。


「確かに()は聞いています。だからと言って、殺す必要ないんじゃないんですか?」

「誰も殺せとは言っていませんよ。本当に物騒な聖女ですねぇ」

「本当にムカつきますねぇ……」


 いや、なんでそんなに息をするようにいつきさんを挑発するかなぁ……。


「はぁ……この依頼はお断りします」

「何故です?」

「まず、依頼の意味が分かりません。結局この勇者をどうして欲しいのですか?」

「簡単な話です。捕らえて追い返したいのですよ」


 それなら、最初っからそう言えばいいのに……。

 いつきさんは捕らえるだけならと、この依頼を引き受けた。

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