27話 魔物変化症の真実
≪ティタン視点≫
な、なにが起こったているのだ?
胸が苦しい。ワズも叫び声をあげた後、苦しんでいる。どういう事だ?
そうだ、ゼズは?
ゼズは私に跪く。顔を見ると……笑顔だった。
何故だ?
君主が苦しんでいるのに、なぜニヤケついている?
「大丈夫ですか? ティタン様」
どう見ても、大丈夫なわけがないだろう!?
「ぜ、ゼズ、胸が苦しい。このか、体になってから、痛みがなかった……はずなのにどういう事だ?」
「あぁ、それは今朝の薬が原因ですよ。効果が出だしているのです」
「こ、効果?」
「そうです、ワズ君を見てください。立派に変化を始めていますよ」
変化?
ワズを見ろとはどう言う事だ?
……!!
なぜワズの体が肥大化しているんだ!?
これは……まさか魔物変化症!?
「ゼズ!! こ、これは……ど、どう言う事だ!!」
「どう言う事と言われましても、欲しがっていましたので、力を与えてあげただけです。もちろん貴方にもね」
わ……私にもだと!?
まさか……!?
「この苦しみは……」
「そうです。魔物に変化するときの成長痛です」
私が魔物になる?
「ふざけるな!! 私は魔物などになる気はない!!」
誰もそんな事を望んでいない!!
私が恫喝しても、ゼズは笑顔を止めない。
「別に貴方の意志など関係ないのですよ。貴方達は、我にとって救いようのない程、都合のいい道具……いえ、実験材料でしたよ」
「な、なんだと?」
今まで跪いていたゼズが立ち上がり、私を踏みつける。
「き、キサマ!! だ、誰を足蹴にしている!!」
「はぁ……、そろそろ気付けよ。我はお前達を利用していただけだ。そうだ、死界への土産に良い事を教えてやろう。魔物変化症の薬を飲むとな、魂すら魔物として死ぬ事になるそうだ。魔物はな、死んでも死界に行けず、転生するそうだ。つまりは、お前は死界に行けずに、未来永劫魔物として転生を繰り返す事になるんだ」
な!!?
み、未来永劫?
確かに、私はフォズに魔物変化症の研究をさせていた。
しかし、魔物変化症とは一過性のもので時間が来れば元に戻ると文献にも書いてあった。
「あぁ、フォズも哀れにもあの文献を元に必死に研究していたな。あれは傑作だった。良い事を教えてやろう。あの文献はな我が書いた嘘の文献だ 魔物変化症というのは、本来は神罰に使用されていたものでな、魔物変化症の研究そのものが神に背く行為だそうだぞ。あぁ、ついでに言うとな、一度発症してしまうと二度と元には戻れないそうだぞ。それはそうだろう? 元々は神罰だったモノだ。たかが人間が神の力に抗う事も消し去る事も出来るわけがないのだからな……当然だな」
「な、なにを……」
「そうだな、魔物変化症の薬を飲むとな、ワズの様に魔物になるか、お前の様に苦しみ抜いて死ぬかの二択だけだ。お前には魔物になる資格はなかったからな、安心しろ。お前は人間の姿で死ねるぞ? くはははははは!!」
な、なぜ、こんな事になったのだ。
私は……私はワズ達と私達を貶めた者共を……。
≪みつき視点≫
ドラゴンに変わってしまったワズの体は龍鱗で覆われている。しかも、漆黒。
「あの色は……」
「あの鱗の色、不味いんすか?」
「うん。僕もアリ姉のお城の図書館にあった本で読んだだけだけど、あの色は《漆黒》、龍鱗の中でも二番目に硬い色だそうだよ。魔物変化症で変化した魔物なのに、あんな伝説級の色の龍鱗を持つなんて……」
魔物変化症の症状でしかないのに、こんなモノを作り出せるなんて……。
「くははははは!! お前の疑問に我が教えてやろう」
ゼズ!?
その足元には、すでに息絶えたティタンが転がっていた。
「魔物変化症の薬はな、三種類あるのだ。一つは、人間を魔物に変えるモノ。一つは魔物を強化するモノ、そして最後の勇者をドラゴンに変えるモノ!!」
勇者を?
でも、ワズはアロン王国のクジ引きで勇者になっただけだから、一般人と変わらないはずだ。
「アロン王国の勇者は只の肩書、それなのに効果があるの!?」
「ん? 何を勘違いしている?」
「え?」
「ワズには通常の魔物変化症の薬を飲ませた後、魔物を強化する薬を飲ませただけだ。この二種類を同時に飲ませると、稀にこんな超強化も出来ると始めて知った。これは今後の研究がはかどる」
駄目だ……。
ゼズをここで倒しておかないと、また魔物変化症の薬を使われてしまう。
「我と戦おうと思っているのか? 身の程知らずだな。ただ我と戦う前に、漆黒の龍鱗を持つワズをどう倒す!?」
ゼズはそう言ってティタンの遺体とともに消える。
「くそ!!」
「みつき、今はワズを倒す事を考えるっす!!」
「う、うん」
残されたワズは、咆哮を上げ尻尾で僕達を殺そうとしてきた。
攻撃そのモノは遅いので、当たる事は無い。
僕とよいやみはいつきさんとゆーちゃんを下らせ、僕は闘気、よいやみは魔力を全開に纏って、ワズに攻撃を仕掛ける。
しかし、ワズには全く効いていないみたいだ。
「これが漆黒の龍鱗っすか!? 全く効いていないっす!!」
分かってはいたが、ここまで攻撃が効かないとは思っていなかった。
「どうしようか? ワズの命が尽き果てるまで戦い続けるという方法もあるけど、それだとゼズを逃がしてしまうかもしれない」
「うーん」
僕とよいやみは、どう戦うかを考えながら攻撃を続けるが、ワズの体には傷一つつかない。
このままだと、僕達が疲れてそのうち負けてしまう。その前に何とか……。
「龍鱗に弱点は無いんすか?」
「僕は知らないよ……」
「そうっすか。目とか口の中を狙うっす。その二か所には龍鱗は無いっす。それで、何とかダメージを与えていくっす」
「うん」
目と口の中か。
確かにその二か所ならば……いや、もう一か所だけ斬れそうなところがある。
「よいやみ!! ワズの顎を蹴り上げられる!?」
「顎っすか!?」
「うん!!」
「何をするつもりか知らないけど、やってみるっす!!」
よいやみはワズの顎を蹴り上げてくれる。
いくら、ダメージが通らないとはいえ、蹴り上げる事くらい出来たみたいだ。
顎を蹴り上げられた事によりワズの喉元が露わになる。
トカゲや龍鱗に覆われたドラゴンでも、龍鱗の無い腹部や喉元は龍鱗の恩恵は無いはずだ。
闘気を全開にして、一気に切り裂く。
しかし、ワズの喉が斬れる事は無かった。
どうして!?
喉元を見ると、斬ったはずの部分が黒い鱗に覆われている。
さっきまで、鱗なんてなかったのに!?
「みつき!! 危ないっす!!」
僕に尻尾が迫る。
でも、このくらいの速さなら、避ける事は可能だ。
「今の場所が弱点になってくれると思ったんだけど、参ったね……」
「そうっすね。今と同じ事が目と口の中でも起こりかねないっす」
さて、どう戦うか……。
そう思っていると、下がっていたいつきさん達が前に出て来た。
「ここは四人で戦った方がよさそうですね」
「でも、龍鱗には並みの魔法は効かないよ?」
「並みの魔法でなければいいんじゃないですかね」
「え?」
いつきさんはゆーちゃんを抱き上げ「お願いします」と何かを指示する。
そして……。
「しね!!」
即死魔法か!?
確かにこの魔法は反則だ。
キメラには効かなかったけど、もしかしたら元人間のワズになら効くかもしれない。
そう思ったが、ワズは全く死ななかった。
もしかして、もう魔物になり果てている?
いや、魔物ではなく、キメラか……。
「効きませんか……そうですか。ゆづきちゃん、ゆづきちゃんが使える最強の魔法を教えてください」
「うん」
ゆーちゃんがいつきさんに使える魔法で一番強い魔法を教えているみたいだ。
「そうですか……よいやみさん、みつきさん、時間を稼いでくれますか?」
「何をするの?」
「私がある魔法をぶち込みます」
そう言って、いつきさんは詠唱に入る。
転移魔法でも詠唱をしないいつきさんが詠唱をするのは珍しい。
それほど強力な魔法?
「みつき、ボーっとしててもしょうがないっす。行くっすよ」
「うん」
僕とよいやみは、二手に分かれて、ワズに攻撃を仕掛ける。
例え攻撃が効かなくても、注意を逸らす事は出来る。
今はいつきさんがどうにかしてくれると信じるしかない。
「みつきさん、よいやみさん!! 離れてください!!」
準備が出来たの?
僕とよいやみは急いでワズから離れる。
「アースイーター!!」
いつきさんが魔法を唱えると、ワズの足元に大きな口が現れる。
これは土魔法の中でも、最強の魔法の一つアースイーターだ。
でも、この魔法で漆黒の龍鱗が砕けるの!?
「これは、あくまで足止めのだけです。ゆづきちゃん!!」
「うむ」
ゆーちゃんがワズに駆け寄っていく。
ちょ……危ないよ!!
「大丈夫です。このためのアースイーターですから」
え?
いつきさんが言うには、僕達二人の攻撃が効かないのに、いつきさんの覚えたての四大属性が効く事は無いと思い、現時点で一番強力な攻撃手段、ゆーちゃんの重力魔法で攻撃となったそうだ。
ただ、この重力魔法は、対象者にそれなりに近付かないと効果が出ないそうだ。でも威力は重力魔法の中では最強だそうだ。
ゆーちゃんはワズの前まで走っていき、右手をワズに向ける。
「じ・が・ぐらびとん!!」
ゆーちゃんが一気に右手を振り下ろすと、ワズの体が、一瞬で地面にめり込む。
しかし、地面にめり込むだけか? と思ったけど、ワズの体がピクリとも動かなくなる。
そして、ワズは塵になって消えた。
僕達がワズを倒したのと同時に、ゼズが再び現れる。
「ほぅ、ワズを倒したか。この世界の人間もそこそこやるようだな。仕方あるまい、我が相手をしてやろう」
そう言うと、ゼズはティタンの死体を焼き尽くす。
そして、ティタンが焼き尽くされた後、ゼズの手には禍々しい剣が握られていた。
「さて、この魔剣ビフロンスの錆にしてやろう」




