25話 英雄バトス
陛下達に報告した次の日、みつき達はティタンの居城まで転移していった。
しかし、人魔王討伐をみつきに依頼するか……。
確かに、みつきが俺よりも強いのは先程の模擬戦で明白なのだし、魔王アリス殿からの依頼もあるとはいえ、あんな年端もいかない少女達にこんな危険なクエストを受けさせる事は、俺としては納得もいかないし、心も痛む。
今朝、俺は陛下に呼び出され、王城の謁見の間へと出向く。
「バトス、お前にはみつきが帰るまでの間、国の守護をして欲しい」
「それは当然だろうな……、みつきに重要任務をさせて、俺が何もしないのは、俺のプライドにも関わる」
「そう言うな。魔王アリスの事も当然あるが、俺には俺の考えがあってお前を残しておいたんだ。
陛下が言うには、本来は俺達もティタン城に行き、一緒にティタンを倒すのが良いのだろうが、みつき達がティタンの討伐に出た以上、その隙を見逃すティタンではない。
恐らくだが、この国に大規模襲撃を仕掛けてくるだろうとの事だった。
在り得ない……とは言えないな。
ティタンは、独裁者で愚かだったが、頭が悪いわけではなかった。だからこそ、このチャンスを逃しはしないだろう。
俺は兵士達が集まる部屋で、報告が来るのを待つ。
すると、部屋に慌ただしく兵士が駆け込んできた。
「バトス様!! 西外門の兵士より「大量の魔物が攻め込んできた」との報告です」
「魔物?」
「はい!! 今まで見た事のないような魔物で、討伐に向かった兵士達に被害が出ています」
こうも早く行動してくるとはな。まさかと思うが、俺達を監視していたか?
確かいつきの報告に、映像用の魔宝玉などの話があった。それで見ていた可能性はある……か。
「今戦っている兵士に撤退を命じろ。フォズの作ったキメラ共の相手はお前達では荷が重い。ここは、俺達パリオットが出る」
「し、しかし!!」
こいつ等としても、自分達の国は自分たちで守りたいのだろう。
しかし、戦っても無駄に命を散らすだけだ。
「冒険者達も下がらせろ。相手は一筋縄ではいかない」
「は、はい!!」
「お前等は、今から強くなればいい。今は俺達に任せておけ」
「はい!!」
今はこれでいい。
アイツ等はこれからだ。
俺の後ろに人の気配が……。
まだ、残っていた兵士がいたのか?
「あら、あなたが出るの?」
「あんたは……」
確か、みつきの師匠のハイン殿だったか……。
陛下の話では、この人の戦い方は、優雅で効率の良い魔物の殺し方を知っていると言っていたな……。
今の俺なら何となくわかってしまうが、この人の強さは、俺やみつきよりも遥かに上だ。
しかし……。
「あぁ、あんたは俺達がアロン王国にいない間だけ助けてくれるという約束だっただろ? 俺が戻ってきた以上、この国を守るのは不相応にも英雄と呼ばれる俺の仕事だ」
「そう……。貴方に奥さんがいなきゃ惚れてしまいそうなセリフね。じゃあ、私は無いとは思うけど、万が一突破されたときの為にここでお城を守らせてもらうわ」
奥さん?
いや、俺は独身だが?
まぁ、今はそれは良いか……。
「ルルは撤退してきた兵士の傷を見てやってくれ。よしお、はる、行くぞ」
「はい」「よっしゃ!!」「年寄りを働かせるでないわ」
俺達三人は、西外門へと急ぐ。
遥か前方に、傷ついた兵士達が撤退して来るのが見えた。更に後ろには大量の魔物か……。
「俺達が行った方が早いな」
「そうだな。走るか?」
「いや、雑魚はわしに任せてもらうぞ」
はるが杖を振り回し、魔力を溜め始める。
「何を言っている、雑魚といえどキメラだ」
「そうじゃ、しかし、今朝、牢屋番から面白い事を聞いた」
面白い事?
そう言えば、はるは早朝に地下牢へ行っていたな。
「面白い事ってなんだ?」
「フォズが逃げたそうじゃ」
フォズ? あのみつき達が捕まえたティタンの腹心の一人か。
この国の牢獄は罪人が逃げないように何重にも封印をしているはずだが……。
いや、あのゼズとかいう奴いならば、あの程度の結界など関係ないのだろうな……。
「それに、わしもたまには暴れたいんじゃよ」
「腰に響くぞ?」
「うるさいわ」
はるが俺達ごと、キメラの前に転移する。
「こっちの方が走るよりも早いじゃろう?」
「はる、お前転移魔法を使えたのか!?」
「使えるようになったんじゃ。弟子に教えてもらうという屈辱は味わったがな」
はるは、キメラの前に一人で出る。
はるが溜めていた魔力がさらに大きくなる。
「この屈辱は、キメラで晴らさせてもらおうかのぉ!!」
はるが詠唱を始める。
詠唱だと……?
普段のはるは詠唱などしない。
それを詠唱するとは……。
「くたばれ!! 爆縮・テンペスト!!」
はるが魔法を唱える事で、雷を発した竜巻がいくつも現れる。
竜巻は、数百はいたと思われるキメラ達を飲み込んでいく。その中には、ドラゴンのような大きな魔物も存在した。
この魔法は、超級風魔法の《テンペスト》だ。
この規模の魔法はアロン王国でも、はるしか使えない。
しかも、《爆縮》の魔法まで使っていた。
爆縮の魔法は、魔法威力を極端に上げる補助魔法だとはるが言っていた。
なんでも、人というのは一定以上の魔力消費は出来ないそうだ。その一定以上の壁を崩すには《千年呪法》《収束魔力》《重ねがけ》そして《爆縮》といった補助魔法を使う事しかないらしい。
だが、爆縮以外の三つは習得難易度は低いのだが驚くほど効率が悪い。
特に、《千年呪法》は千年間魔力を溜め続けなければいけないという、人では不可能としか言えない補助魔法だ。
それに比べて爆縮は人一人で補えるほどの効率なのだが、はるほどの賢者でも詠唱が必須になるほど、魔法の習得難度は高い。
しかし、発動させる事で、通常の威力の十倍の威力を出せるようになる。
これが、はるの切り札だ。
数十秒間竜巻はキメラを飲み込み続けた。
いくら耐久力の高いキメラでも爆縮を使ったテンペストには耐えられないだろう。
その証拠に、竜巻が止むとそこには何も残っていなかった。
キメラ達は塵になったのだろう。
「さて、テンペストでも生き残った者がいるようじゃ。あれはお前達の相手じゃな」
あの魔法の中を生き残った?
どんな化け物だよ……。
俺は、やれやれとため息を吐く。
「バトスさん、アレを」
よしおが指さした先には、三人の魔物が立っていた。
一人は、浅黒い肌のやせ型の魔物、もう一人は腕が六本ついた巨人、そして最後の一人は真っ赤な鱗に包まれた冒険者風の鎧を着た男。
アイツ等だろうな……面影が残っている。
「よしお、行くぞ」
「あぁ」
俺とよしおは武器を持ち、ゆっくりとそいつらに近付いて行く。
近くに寄ると、やはり俺の知っている三人だった。
赤い鱗の奴が俺を見て、裂けた口を歪ませて笑う。
「お久しぶりだなぁ。英雄さんよぉ……」
「チッ、お前みてぇな、化け物と知り合いになった覚えはねぇよ」
こいつは、サズ。
フォズや、俺が戦った巨人族のセズと同じ、ティタンの腹心だ。
確か、元冒険者で顔が整っているからか、数多くの女と問題を起こしたクソのような男と聞いたな。今となってはその整った見た目も見る影も無いが……。
「お前らこんな所にいていいのか? お前達の所の無能な王の討伐には俺より強い勇者が向かっているんだぞ? それともお前等は役に立たねぇから、こちらに回されたのか?」
「安い挑発か? 俺達はお前を殺す為にここに来たんだ。あの時はお前に世話になったからなぁ……、それにティタン様にはワズとゼズ様がついている。お前の様な雑魚に毛が生えた勇者などに後れは取らんさ」
ゼズ、あの化け物じみた強さの奴か……。
アイツ一人の方がここにいる三人よりも厄介だろうからな。
「まぁ、いいや。お前等は俺達と戦いに来たんだろ? 最初のティタン討伐の時に死んでおけば良かったと後悔するぜ? いや、死んでたんだっけな」
「減らず口を……」
さて、俺も自分が残してしまった仕事を始めるとするか……。
「よしお、セズとサズは俺がやる。お前はフォズを任せていいか?」
「大丈夫だ。負ける気がしねぇ」
よしおはフォズを睨んだまま、俺にサムズアップをする。
しかし、肌を浅黒くした赤目のフォズが避けた口を歪ませつつ不愉快そうに「言いますねぇ……」とよしおを睨み返している。
こいつも強化されていると考えていいだろう。
でも、何故かな?
一度みつきと模擬戦をしたからか?
いや、みつきに対しても初めて会った時に感じた「絶対に勝てない」という感覚はなかった。
……あのじいさんか……。
あのじいさんと接する事で、強者に対するプレッシャーを感じなくなっている? いや、俺達が底上げされたと思うべきか?
あのみつきとの戦闘で感じた事は……今まで、頭でこう動きたいと思っていても、出来なかった動きが全てで来た。それだけでも俺達は強くなっていると実感できた。
「よしお。頭で考えた動きを再現してみろ。俺達にはすでにそれが出来る」
「あぁ、俺もお前とみつきの戦いを見てそれを思っていた。だから、負ける気がしねぇ」
「そうか」
俺は、セズとサズと向き合う。
「さて、俺達は三人で遊ぼうや」
「ほぅ、我ら二人を同時に相手をすると? しかも、あの弱いよしお一人で強化されたフォズを倒すと?」
そうだな。
以前の俺達だったら、負け戦になっていただろうから、フォズ一人にでも総力戦になっていただろうな。
だが、あのじいさんの地獄の特訓のおかげで、俺達の体が経験値に追いついたんだ。
お前等はその事は知らないだろう?
「ふん。どうとでも言っとけ。俺はよしおを信じている」
「ガハハ!! 貴様は愚かだな!!」
ここにきて、今まで黙っていたセズが話し始めた。
「ほぅ、今まで黙っていたから、元々無かった知能が完全い吹き飛んだと思っていたが、一応会話をする知能は残っていたんだな」
こいつは、元々巨人族で、ティタンが利用できると奴隷商から買ってきた奴だ。
確か、性格が粗暴過ぎて、巨人族の郷からも追い出されたそうだったな。
「俺は亜人だろうと巨人族だろうと偏見は持たない主義だが、お前だけは無理だ。虫唾が走るから死んでほしい」
「そうか? 俺は今の姿に満足しているが……な!!」
話の最中に攻撃か?
やはり知能まで魔物と化したか……。
でもな……。
みつきの攻撃を見た俺にとっちゃ、てめぇの鈍くせぇ攻撃なんぞ当たるわけねぇだろうが!!
俺が立っていた場所にセズの拳が刺さる。その瞬間、大量の砂埃を巻き上げた。一応、地面も崩れているようだがな。
威力だけは立派なもんだ。
轟音の中、二人の愉快な言葉が聞こえてきた。
「おいおい、セズ。もう殺しちまったのか? 俺も戦いたかったのによ」
「ガハハ。塵すら残らなかったぜ」
「そうだな。口だけだった……セズ!! 後ろだ!!」
チッ……気付かれたか。
俺は、セズの遅い攻撃を避けて、後ろから斬りかかろうとしていた。
「何!?」
「遅ぇんだよ、ボケが!!」
俺はセズを縦に両断する。
セズは振り向いた体制のまま、左右に分かれ、そのまま塵となった。
「図体がでけぇだけだったな。しかし……」
いつきの報告書では、こいつ等にはいくつもの命が分け与えられていると書いてあったし、陛下も同じ事を言っていたはずだ。
なのにこいつは一度殺しただけで、塵へと変わった。どういう事だ?
まさか、フォズだけの特性だったのか?
「ど、どう言う事だ!! ふぉ、フォズ!! さっさとよしおを殺してこっちに加勢を!?」
「あ? フォズがなんだって?」
よしおは大斧を地面に抉りこませている。恐らくあの抉れた地面にフォズがいたんだろうな。手足が見えている。
しかし、こいつには命が……ん?
アイツも塵になってきている?
「よしお、一応そいつには命がいくつもあるという報告がある。警戒しておけよ」
「あぁ。しかし一回で塵に変わったところを見ると、こいつの命は一つだったんじゃないか?」
「あぁ、こっちもセズが塵に変わったからな。ここに簡単に口を割りそうな雑魚が残っている。こいつに吐かせよう」
俺とよしおはサズを捕まえる。殺さない様に、そして逃げないように両足を切断しておく。
流石魔物だ。血は出ないんだな。
「グッ……そ、そんな馬鹿な。我々は、ゼズ様に強化してもらったのに!! お前等は何でそんなに強くなっているんだ!?」
強くねぇ……。
「お前等みたいな、クズ共にあの地獄が耐えられると思えねぇなぁ……」
「ははは。あの地獄には笑うしかないからな」
「さて、足が無くなっても話をする事は出来るだろう?」
「ぐっ……」
最初は何も話さなかったサズだが、何度か殴っていると素直に話すようになった。
サズにも命を分け与えてられていたそうなのだが、ゼズがその命を使って魔物強化させたらしい。そんな下らない事に何人の命が使われたのか……。胸糞の悪い話だ。
他にゼズの情報を聞き出そうとしたところ、サズが急に苦しみだす。
「お、おい。バトスさん、これは!!」
「分からん。よしお! はるを呼んできてくれ!!」
「あぁ!!」
よしおは、はるの所まで走っていく。
しかし、これは一体。
「これは、魔物変化症の症状に耐えられなかったようね」
振り返るとそこにはハイン殿がいた。
「どう言う事だ?」
「魔物変化症というのは本来は肉体に負担が大きいから、よほどの精神力がない限りは魔物化せずに失敗して死ぬそうよ。だから、大昔に研究が中断されたの。常に魔物になってくれないと、軍拡には使えないでしょう? 成功率は一定、しかもそれが低いとなると無駄に実験材料である人間を減らす事になるからじゃない? だから研究は中止されたのね。どちらにしても聞いていて気分のいい話じゃないけど」
「じゃあ、他の二人がアッサリ死んだり理由も……」
「そうね。命を幾つも貰っていると聞いていたけど、たまたま一つだけ精神力の強い魂がいたんじゃないの? だから、そいつを殺してしまえば、後は塵に帰るだけ……こいつの場合は、その魂が無かったという事でしょう? だから、肉体の変化が一番不安定だった」
「不安定? 立派に、赤い鱗の化け物に変わっていたが?」
「不安定よ。本来なら、龍鱗へと変わっていたでしょうに、アレは只の鱗。だから、殴ってダメージを負わせる事が出来たのよ」
成る程な……。
結局、サズは苦しむだけ苦しみ、そして塵へとなった。
これで終わりなのか?
随分とあっけなかったな……。
「さて、貴方はこれから英雄として国に報告しなさいな」
「あんたは?」
「後はみつきちゃん達が終わらせるでしょ? 私はそれを見届けてから、アリスの下へと帰るわ。それまではアロン王国の観光でもしているわ」
「そうか……」
俺達は、アロン王国へと帰った。
外門をくぐると町の人達から英雄コールを受けた。
こっ恥ずかしいが、今は町を守れたから良しとしよう。後はみつき達が全てを終わらせてくれる事を期待するだけだ……。
同時刻、ティタン城。
みつきは意識を失ったゆづきを抱き、血を流して壁でぐったりしている。みつきにも意識はない。
魔王に吹き飛ばされたゆづきを庇って、壁に激突し意識を失ったのだ。
満身創痍のよいやみ一人で、魔王と対峙していた。
「ま、不味いっす。いつき!! みつきとゆづきは!?」
「二人共、意識がありません! 特にみつきさんは危険な状態です!!」
魔王は、大口を開けて嗤う。
「くははははは!! 我に逆らうからこういう事になるのだ!!」
よいやみは何とか立ち上がる。
しかし、足は振るえ、血を流し過ぎて意識がとびかけているよいやみに勝機は無かった。
「こ、これは、本気で勝てないかもしれないっす……」




