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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
二章 人魔王編

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19話 みつきのトラウマの原因

今回はバトス視線だ


 俺の名はバトス。

 アロン王国では勇者の職に就き、英雄と呼ばれている。歳は今年で三十八だ。

 冒険者として生計をたてて二十年になるのだが、七年前に現アロン王国国王のレオン陛下と共に、前国王ティタンを討つためのクーデターに参加した。俺が勇者に選ばれたのは十五年前、まだ、レオン陛下の御父上が国王を務めている時であったが、あのクーデターにより《英雄》と言う名の栄誉を受けた。それからは、この名に恥じない様に、そして陛下の期待にこたえる形でここまでやって来た。


 当時から、そこまでの強さを求めてはいなかった俺だが、アロン王国内では一番強いと自負していたし、俺の後継が出る様にと、後進の育成にも力を入れていた。

 後進の育成と言うのは、結構充実した仕事でもあった。


 そんな時、勇者黒姫みつきが現れる。


 陛下から、国が作ったクジ引きではなく、本物のクジ引き(・・・・・・・)で選ばれたかもしれない勇者が現れたとは聞いた時は驚いたが、実際会った事が無い以上どうにも判断が出来なかった。


 そんな時、受付で堂々と人身売買をしようとしている小さい女の子を見かけた。この時はこの子が勇者黒姫だとは思っていなかった。だからこそ、この子が勇者黒姫だと聞かされた時は心底驚いた。


 この子が俺よりも強い? 最初は半信半疑だったが、ランクを聞かされた時、妙に納得した。これも時代の移り変わりか……とも思ったものだ。


 俺自身、三十五を超えたあたりから、バテるのが早くなってきたように感じていた。

 長年戦い続けた弊害か? とも思ったが、年齢が年齢だけに、引退も視野に入れる必要があるかな? と思いだしていた頃だ。


 はるの様な、魔法職は年齢を重ねても冒険者として重宝されるが、俺達のような前衛職は年齢に左右される事が割と多い。

 それはそうだろう、前衛で戦わなければいけない奴が、歳のせいで息切れしていたら、命がいくつあっても足りない。

 そんな事もあり、これ以上は強くなれないと思い込んでいたし、それを理由にしていたのも事実だ。


 しかし、ある日みつきがこう言って来た。


「バトスさんくらいの年齢なら、まだまだ強くなれると思うけどなぁ……もしよかったら、じいちゃんを紹介しようか?」


 聞けば、みつきがここまで強くなったのはみつきのじいさんのおかげらしい。

 この歳まで鍛えてきて、これ以上は強くなれないと思い込んでいた。

 だが、その爺さんに鍛えられたらどうなるのだろう? と単純に興味を持ったのも事実だ。


 そして、みつきの師匠であるハイン殿に一方的に負けて、俺達パリオットも魔大陸へと行く事を決めた。

 決めたというよりも、レオン陛下の「英雄が強くなるのなら歓迎だ。みつき達はまだ若いから、お前が道しるべにならんとな」と言われ、魔大陸行きが強制的に決められたのだ。



 魔大陸に到着後、魔大陸の魔物の異常さと、魔大陸出身のみつきの異常さを見せつけられる。

 そして、村へと着いた俺達は、更に信じられないモノを見せつけられた。

 それは、みつきとみつきのじいさんの衝突だ。


 今まで感じた事のないような攻撃のぶつかり合い、その余波で飛ばされそうになる。

 実際、ゆづきが飛ばない様に、よいやみがいつきの前に立ち、ゆづきを抱え踏ん張っていた。

 俺も、ルルとはるの前に立ち、衝撃に備えていた。


 じいさんの歳は、見た目で六十を超えているだろう。それにもかかわらず、あの身動き……。

 じいさんはみつきに頼まれ、俺とよしおを見て「まだまだひょっこだのぉ」と言った。


 まさか、この歳でひょっこ(・・・・)と呼ばれるとは思っていないかったが、あの動きを見せつけられたら、何も言い返せなかった。


 そして、じいさんに特訓と言われ連れ出される。

 その場所は、魔大陸に来た時にゴブリンを見た場所だった。

 みつきの言う通り、先ほどみつきに倒された筈なのに、またゴブリンが発生していた。


「よし、まずはお主らの今の実力を見たいのぉ、あそこにゴブリンが二匹おる。倒せるかのぉ?」


 普段の俺とよしおならば、アロン王国にいるゴブリンくらいならば、目を瞑っていても倒せるくらいに余裕だ。

 しかし、この魔大陸のゴブリンとなれば話は別だ。


「よしお、気を抜くなよ」

「分かってる、バトスさんこそ、本気を出してくれよ」


 たかがゴブリンだが、あの時、みつきがいなかったら俺達はどうなっていたか分からない。

 俺とよしおは、上級魔物を相手にするつもりでゴブリンにかかっていく。


 十分くらい戦闘をして、苦戦しつつも何とか倒せた。

 上級の魔物を相手にするつもりで戦った。そして、上級の魔物に勝った時と同じくらい、息が上がっている。


 じいさんはそんな俺達を見てため息を吐く。


「ふーむ。経験則はかなり高いが、基礎がなっていないのぉ」


 基礎?

 年齢のせいとも言いたいが、この魔大陸の魔物はおかしい。

 それなのに基礎? いや、このじいさんの村の基準では基礎が足りないのだろう……。


「お主らはある意味本能が優れておるが、その本能に体がついていけていない。それと、もう少し戦闘を楽しまんとなぁ」

「戦闘を楽しむと言っても、一歩間違えれば死んでしまうかもしれない戦闘で楽しむなんて……」


 冒険者として、一番最初に学ぶのが、戦闘に対する心構えだ。

 一歩間違えれば死につながる。そう考えたら、気を抜けないのが普通だ。

 それを楽しめと言われても……。


「それがダメなんじゃよ」


 じいさんが言うには、戦闘が死と隣り合わせなのは事実だが、あまりにも頭で考え過ぎると動きが鈍ると言いたかったらしい。そして、考えに余裕を持たせるために、楽しめと言ったそうだ。

 

 あと、これはみつきにも言える事らしい。

 みつきは、自分が村娘と思い込んでいる所もあり、すぐに考え込んでしまうそうだ。

 だから、いつも狩っている魔大陸の魔物に関しては、実力が出せるらしい……。


「お主らとみつきとの決定的な違いは戦闘に対する経験則じゃ。お主らには十分それがある。後は基礎訓練じゃ、よし、川に行くぞ」


 じいさんはいきなり立ち上がり、歩き出した。

 そう言えば、川に行くとか言っていたな。



 じいさんに連れていかれた川は、アロン王国には無いような急流だった。

 まさかとは思うが、ここに入れというのか?


 いや、そんな事すれば死んでしまうぞ?

 よしおも同じ気持ちなのか、顔が青褪めている。


「じ、じいさん。こ、こんな所で特訓か?」

「そうじゃ、みつきもここで特訓をしたんじゃ。ただ、それ以来、水場に近付かなくなったのじゃがな」


 おいおい、それってトラウマになってんじゃないのか?


「さて、今からお前達は……」

「ちょ、ちょっと待て!! あんな川に落ちれば死んでしまう!!」

「大丈夫じゃ!! みつきは死ななかった!!」


 こ、このじじい、頭がおかしい!!


 そう思った瞬間、じじいが俺達二人の足を掴み、川に投げ入れる。

 こ、このじじいのどこにこんな力があるんだ!?


「ほぅれ!! 行って来い!!」

「「ぎゃああああああ!!」」


 川に投げ入れられて数秒で、意識を失った……。

 あ、これは死んだなぁ……。



「はっ!!」


 い、生きている?

 俺が起き上がると、そこは川の辺だった。

 俺の意識が戻った事に気付いたじいさんが俺の前まで跳んでくる。


 このじいさん、川の中にいたのか?


「全く、情けないのぉ~。あれぐらいの流れで気を失うとはな。ほれ、あのグレンと言う男を見てみろ、喜んで泳いでおるわ」


 グレン?

 誰だ?


 俺が川の中を見ると、川の中で槍のようなモノを握り締めて振り回している赤毛の大男がいた。


 な、なんだ!?

 あの男、川の流れを気にもせずその場にとどまっている!?

 そ、そんな馬鹿な!?


 この川の流れは急だ。あの流れの中でとどまったうえで、何かを振り回している。あの男は何を振り回しているんだ!?


「アレは、デスエスパーダと言う刺身にするとおいしい魚じゃ。流石にアレを取って来いとは言わんが、みつきは六歳であれに追い掛け回されておったぞ? それから魚が泳いでいるのを見るのも嫌がっておったがな」


 ちょ……。

 みつきも同じ目に遭わされていたのか? しかも六歳児の時に……。


 アイツ……自分は普通だと言っていたが、どう考えても普通じゃないだろう。アイツの強さの理由が少しだけ分かった気がする……。


 ところで……。


「じいさん、あの男は何者だ?」

「ん? あぁ、数日前からこの近くの森に住み着いておる男じゃ。毎日の様に、わしと戦えと言っておる変な奴じゃよ。みつきと一緒にいたよいやみちゃんの師匠だそうだぞ」


 アレがよいやみの師匠かよ……。そりゃアイツも強いはずだ……。


「さて、横の男も起こさんか。続きをするぞい!!」

「え? 続き?」

「そうじゃ!! もう一回あの川に投げ込むのじゃ!! 最低でも意識を失わんようになるまで何度も繰り返すぞ!!」


 その後、俺とよしおは川に投げ込まれた。その度に引き上げられ、それは何度も繰り返された。


 こ、この特訓に何の意味があるんだ?


 その日の夜、みつきは水が怖い事と泳げない事を暴露した。

 皆は驚いているが、俺とよしおは同情してしまう。


 やはり、あの川に投げ込まれた結果か……。

 みつきは当時六歳……良く死ななかったなぁ……。

 俺はなんとなく、みつきの頭を撫でていた。


 こいつも可哀想な目に遭ってたんだなぁ~。


 と、憐みの籠った目でみつきを見てしまっていた。



 次の日、酒がまだ抜けていない俺とよしおは、フラフラのまま平原へと呼び出されていた。


「よし、今日はここでゴブリンと戦ってもらうぞ」


 ゴブリンか? それなら昨日も倒したし、何とかなるから楽だとは思うが、このじいさんがそんな簡単な事を言うとは思えない……。

 よしおも「絶対嘘だ。ゴブリンなら勝てるが、そんな簡単なわけがない」とボソボソ言っていた。

 うん。俺もそう思うぞ……。


 するとじいさんは、笑顔で「みつきから聞いたんじゃがな、この場所のゴブリンは発生率が特に(・・)高いそうじゃ。だが、十匹以上は増えんらしいから、安心するが良い」


 ちょ、ちょっと待て、あの危ないゴブリンが十匹同時だと?

 ま、まて!! さすがに勝て……。


「ほれ、出てきたぞ」


 ゴブリンは発生した瞬間から、俺達を襲いに来る。

 俺は反射的にゴブリンを斬る。だが、浅かったのか、ゴブリンは傷を気にせず襲いかかってくる。

 よしおも大きな斧を振り回すが、速さが足りないのか、簡単に避けられている。


「く、クソ!! 早く倒さねぇと次が来る!!」


 そんな事を話していると、二匹目のゴブリンが現れる。

 ちっ!! 俺はゴブリンを斬りに行く。


 しかし、更に別の場所からゴブリンが現れる。


 こ、このペースはやべぇ。何とか倒さなければ!!


 みつきはどう戦っていた?

 全て一撃で……。


「よしお!! 叩き潰せ!! 一撃で倒すんだ!!」

「し、しかし!!」

「こんな奴等に数で来られたら俺達が死んじまう!! 出来なくてもやるんだよ!!」

「あ、あぁ!!」


 俺とよしおはできるだけ頭だけを狙い攻撃する。

 流石に全てのゴブリンを一撃で倒す事は出来ないが、何匹かは一撃で倒す事が出来た。


 それから数時間、出来るだけゴブリンが増えすぎない様に戦っていたのだが、急に体に感じる空気が重くなる。

 魔大陸に入ってから、空気が重くなる事を感じていたが、ここまで酷くはなかった。


 な、なんだ!?


 俺はゴブリンを倒しながら、何か強大な気配がした場所を注視する。

 すると、いきなり赤みがかかった肌の大きなゴブリンが現れる。

 手には巨大な剣を持ち、そして首に何かの紋章を象った物を持っている。


 こ、これはゴブリンロード!?


 ま、不味い!!


 そう思った時にはすでに遅く、俺達二人はゴブリンロードに殴られ、吹き飛ばされる。

 

 な、なんだ!?

 異常なほど速い!! こんなもの、しかも意識が……。

 こ、これは……ヤバい!?


 俺は死を覚悟する。そして、今までの思い出が蘇ってくる。これが走馬灯と言う奴か……。


 しかし、次の瞬間ゴブリンロードが爆発四散した。


「な!!?」


 な、なにが起こった!? 

 そう思って、倒れながらゴブリンロードがいた所に視線を移すと、そこには血まみれのじいさんが立っていた。


「ふむ、今日は運がなかったのぉ……、アレはさすがに今のお主らには無理じゃ」


 そう言い、俺達二人を担いだ。よしおは気を失っているようだ。


 そして、そのまま今日の特訓が終了した。

 帰って、ルルとはるに回復魔法を使ってもらい、薬草を貰う事で、傷は治った。


 その日の夜にみつきに「お前のじいさん……強すぎるな」と聞いてみると「そう?」と怪訝な顔をされた。

 もしかしたら、こいつも本気を出せばこうなるのか?

 じいさんがみつきよりも強くなれるかもしれないと言っていたが、絶対に無理だろう。

 みつきにゴブリンロードの事を聞くと、「あぁ、たまに出て来るよね。僕でも倒せるからあまり強くないんじゃない?」とあっけらかんと笑っていた。


 ゴブリンロードはゴブリンの上位種……もしかしたら、最強の魔物、王種かもしれない。

 その王種を単独で倒すなんて……やはり、この村の人間はおかしい……。

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