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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
二章 人魔王編

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17話 じいちゃんと熊、そして魔導王

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 二十人ぐらいが入れる部屋で、みんなには寛いでもらう。普段はこの部屋で集会や宴会などをするのだ。

  

 僕はといえば、みんなが寝泊りする部屋の掃除をしていた。ゆーちゃんは当然、僕の部屋で寝る予定だ。


 じいちゃんは、家事というモノを一切しないし、お母さんは朝早くからお仕事に出かけるから、お掃除できないのは仕方が無い。お休みの日には掃除していると思うが、居間と宴会場以外は酷いモノだと思っていた。

 しかし、数ヵ月掃除をしていないと思えない程、家の中は綺麗だった。何故かと聞いてみたら、エリザが出勤前にわざわざ掃除をしに来てくれるらしい。

 エリザは僕の幼馴染だ。

 なんでも、ヴァイス魔国でお母さんに世話になっているからと、掃除をしてくれているそうだ。本当にいい幼馴染を持ったものだよ。

 

 それにしても、じいちゃんは戦闘以外は何もできない。掃除くらいはして欲しいものだ。とはいえ、今回はじいちゃんも役に立つ。

 僕が、掃除を終わらせ、じいちゃんにその事を伝えようとすると、「なんじゃ? 何か言いたそうにしておるのぉ」とじいちゃんの方から、話を聞いてきてくれた。


「じいちゃんにバトスさんとよしおさんの二人が強くなれるかを見て欲しいんだ」


 年齢も経験も上の二人を上から目線でそういう風に言うのは失礼だと思うけど、二人共、これ以上強くなれないと思い込んでいるから、それを覆してもらう必要がある。


 二人は、年齢を理由に強くなれないと言っていたけど、僕はそうじゃないと思う。そう思うのには理由があって、じいちゃんがどのくらいの歳から強いのかは知らないけど、今でも少しずつ強くなっていっていると思っているからだ。

 この数ヵ月、じいちゃんを見ていなかったけど、さっきぶつかった時、前よりも強く感じた。

 孫である僕を相手に、手を抜いているのは間違いないだろうけど、単純に前よりも強く感じた。

 そう考えた時、こんな年齢のじいちゃんでも強くなっているのに、バトスさん達が強くなれないとは思えない。もしかしたら、自分で限界を決めているんじゃないかな? と思ってしまったのだ。


「うん? この二人か?」


 じいちゃんは二人の体を触り出す。そして、背中を叩いて、「まだまだひょっこじゃな。お前達はいつまでこの村にいるつもりじゃ?」と笑顔で僕に聞いてくる。


 僕はいつきさんに視線を移すと「そうですね……」と何かのメモ帳を取り出す。

 どうやら、王様に期限を聞いてきたようだ。


「期限は一ヵ月ですから、ヴァイス魔国に行く事を考えれば、この村に滞在するのは二・三週間と言ったところでしょうか? 勝手に決めて、もし迷惑ならばヴァイス魔国で宿を取りますが」

「迷惑じゃないよ。泊るところはこの家でいいよ。僕が良いと言っているんだからいいんだよ」


 やはりいつきさんは泊るところも考えていたそうだ。それを踏まえて、お城からお金を取ってきているらしい。

 しかし、三週間か……。


「じいちゃん、三週間で強くできる?」

「三週間か……アリスの嬢ちゃんの所に行くのはお前達だけでいいんじゃろ? なら一月もあるな。一月もあれば、今の三倍くらいは強くなれるじゃろうな。もしかしたら、みつきよりも強くなれるかもしれんぞ?」


 僕より? それは当たり前だろう。

 何度も言うけど、僕は魔大陸が出身というだけで、特別じゃないんだよ?

 英雄であるバトスさんが僕よりも強くなるのは必然だ。

 

 強くなれると言われた事で少し困惑する二人だが、そんな事はお構いなしに、じいちゃんが立ち上がり二人を立たせる。


「よし、二人共。まずはお主らの今の実力を見せて貰う為に、南にある川まで行くか。ついてくるのじゃ。みつき、夜には帰る。お主は女性陣に村の案内でもしてあげるのじゃ」

「うん」

「あ、今日は宴会じゃ。つきのにもそう言っておいてくれ」

「うん」



 じいちゃん達が出て行った後、はる婆ちゃんが心配そうにバトスさん達の事を聞いてきた。


「黒姫、お前のお爺様はどのような特訓をするつもりなんじゃ? わし等もバトスとは付き合いが長いが、普通の方法では強くするなど不可能だと思うのじゃが?」

「うーん。どうだろう。はる婆ちゃん達が言うように、この村のみんなが普通じゃないというなら、この環境で鍛えると、強くなれる可能性があるという事じゃないかなぁ……」


 少なくとも、この村の皆は特別な訓練をしているわけではない。それにもかかわらずこの村のみんなが強いというのであれば、魔大陸の環境のせいだろう。

 ちなみに、川に行ったという事は、昔僕が受けた特訓をするつもりだろう。

 バトスさん達が出かけてから少しして、僕は立ち上がる。

 


「さて、僕達も行こうか?」

「どこにっすか?」

「いつきさんが魔法具をよく作っているから、魔法具屋さんにでも案内しようかと」

「魔法具屋っすか?」

「うん。僕は使えないんだけど、お母さんが使っている物を持ってくるね」


 僕は火の魔法具どこでもフライパンをいつきさん達に見て貰う。

 魔力の無い僕からすれば、ただのフライパンなんだけど、魔力のある人が使うと、名前の通りどこでもフライパンを使えてしまうのだ。

 これを持ってきたのは、いつきさんもどこでもフライパン(名前は違うが)を作っていたからだ。

 僕では良し悪しが分からないが、作ったいつきさんならどの程度の物か分かるだろう。


 いつきさんとはるさんの二人がフライパンをじっくり見ている。

 よいやみもチラッと見て「あしが持っているのとも比べてみるっすか?」と自分の道具を取り出す。

 出会った時は、何の道具も持ってなかったように思えたけど、道具袋を持っていたらしい。このフライパンはガスト製だそうだ。

 いつきさんも、自分の作ったフライパンを取り出す。そして、三つを見比べる。


「三つを見比べてみると、このフライパンの技術は二歩くらい先に進んでいますね……これは凄いですよ。是非、作った人に会ってみたいですねぇ」


 いつきさんがフライパンをまじまじと見ている。僕には三つとも同じに見えるんだけど……。


「みつきさん、これは本当に凄いんですよ。魔力を収束させる機能と、その魔力がフライパン全体にくまなく通るように何重にも細工されています。しかも火力調整まで細かくできます。自分で作ってはいますけど、私もこれ、欲しいですね」

「そうなんすか? いつきの作ったフライパンもあしの持っているのよりかは、かなり良いんすけどね。ガストは生活用の魔法具の生産にも力を入れているんすけどね、まだまだと言ったところっすかね」


 そうなんだ。

 確かに、魔法具は魔力のある人からすれば便利だからね。


「魔法具屋さんにはこれを作った人が?」

「うーん。作ったかはどうかは知らないけど、売っているから作った人を知っているかもね」

「成る程、今すぐ行きましょう」


 おぉ……、いつきさんが乗り気だ。いや、はる婆ちゃんの目も輝いている。

 ルルさんは……ゆーちゃんを寝かしつけている。

 僕達が出かけようとしたとき、誰かが訪ねてきたようだ。

 


「たのもぉー!!」


 しかし、大きな声だな。大きいと言っても田舎の家なのでそこまで大声でなくても聞こえるよ。それに、ゆーちゃんが起きたらどうするのさ。


 しかし、聞いた事のない声だ。じいちゃんのお客さんかな? 

 僕が玄関に出ると、そこには赤い短髪の大きなおじさんが立っていた。

 体中には傷があり、道着のようなモノを着ている。

 見た事のない人なので村の人ではないだろう。


「えっと、どちら様ですか?」

「俺はグレン!! 拳神殿に決闘を申し込みに来たのだ!!」


 グレン?

 拳神??

 えっと、誰の事?


「えっと、人違いじゃないですか? この家にはじいちゃんとお母さんしか住んでいませんが」

「むっ!? という事は、拳神殿のお孫さんか!?」


 え?

 拳神ってじいちゃんの事?


「えっと、じいちゃんは川に行きましたけど」

「なんと!? それは一大事だ。俺もそこに向かう!!」


 困った。

 この人のせいでバトスさん達の特訓の邪魔になると困る。

 そう思っていると後ろから「な、なんで熊がいるんすか!?」とよいやみが叫ぶ。


 く、熊?

 確かに、熊のように大きいけど……。

 熊と言えば……よいやみの師匠!?


「む? よいやみではないか!! 久しぶりだな!!」

「久しぶりっす。師匠がなんでこんな所にいるっすか?」

「む? 噂に名高い拳神殿(・・・・・・・・)と戦う為だ。お前こそ、何故ここにいる? ガストに里帰りすると言って、そのまま逃げだしただろう」


 逃げ出した?

 よいやみは旅をしていたんじゃないのか?

 それにしても、じいちゃんが噂に名高いなんて……信じられない。


「失礼な事を言う熊っすね!! 逃げてないっす!! ガストに帰った後、武者修行の旅に出るって師匠に言ったっす!!」

「む? そうだったか? 実はな、あの後、ガスト王から「よいやみちゃんが帰ってこないんだけど!! グレン、何か知らないか!!」と苦情が来たぞ? どちらにしても帰らなければダメだろう。約束は守らんとダメだと教えていただろう?」

「そ、それは今はどうでも良いっす!!」

「そういうわけにはいかんだろう? お前はガスト王が最も可愛がっている末姫なんだからな」


 え?

 除籍されたんだから、疎ましく思われているんじゃないの?

 それよりも、姫と聞いてはる婆ちゃんとルルさんが驚いている。二人共、知らなかったんだ。


「俺は今から川に行ってくる。よいやみ!! お前は明日から特訓だ!! そのだらしない考えを改めてやろう!!」

「嫌っす!! みつきも一緒じゃなきゃ嫌っす!!」

「ちょっ!?」


 こ、こいつ何言ってんだ!! 僕を巻き込むな!!

 

 しかし、グレンさんは物凄い笑顔で「よし、二人共、明日から特訓だ!!」とサムズアップして、川に向かって走っていった。

 いや、それ逆方向なんだけど……と言おうとしたが、もう見えなくなっていた。ってか、無茶苦茶速いな……、それよりも……。


「よいやみ!! 僕を巻き込まないでよ!!」

「いいじゃないっすか。あしとみつきの仲っす」


 こ、こいつ……、悪びれる様子も無く笑ってやがる。



 納得はいっていないが、僕達は近所の魔法具屋さんへと向かった。

 この魔法具屋の店長クロウディアさんが営んでいる。


 魔法具屋は、村の中心にあり、この村唯一の商店だ。


「おばちゃーん!! おばちゃーん!!」


 僕はおばちゃんを呼ぶ。すると店の奥から、緑色の髪の毛のスタイル抜群のおばちゃんが出て来た。

 おばちゃんのチャーミングポイントは右目にある泣きボクロだ。

 

「あら、みつきちゃん。帰って来たのね」

「うん、ただいま」

「つきのに買い物を頼まれたの?」

「違うよ、僕の友達が魔法具を作っているから、ここを紹介したくて」

「そうなの?」


 つきのというのは僕のお母さんで、おばちゃんとは幼馴染だそうだ。

 お母さんがヴァイス魔国のお総菜屋さんに行っている時は、僕は良くおばちゃんの所で世話になっていた。


 よいやみはおばちゃんを見て「みつき、おばちゃんなんて呼んだら失礼っす。まだ若そうっすし、それよりも、何すかこの美人さんは!?」と驚いていた。

 確かに、おばちゃんは他の人と比べれば美人さんだ。でも、僕にとってはおばちゃんだ。


「あらあら、美人で若いなんて嬉しい事を言ってくれるわね。もう四十を超えているんだけどね

。それじゃあ、好きに見て行ってね」


 おばちゃんがお店の明かりをつけると、ルルさんが「ま、魔導王クロウディア様!!」と叫ぶ。


 え? 魔導王?


 魔導王と聞いて、はる婆ちゃんがおばちゃんを見る。


「魔導王と言えば、二十年前に世に名を轟かせた魔導士だね。まさか、こんな田舎に引きこもっていたとはね」

「魔導王なんて、そんな昔の呼び方は止めて欲しいね。あの頃は、調子に乗っていただけさね。それに、あんたも魔導士仲間の間では有名じゃないかい? 大賢者はる様、いや《災厄の大賢者》とでも呼びましょうかね」

「ほっほっほ。その二つ名で呼ばれたのはいつぶりかねぇ」


 お、おばちゃんって、そんな有名人だったんだ。それとはる婆ちゃんも。

 この事に僕達は驚いていた。

 はる婆ちゃんの二つ名に関しては、ルルさんも知らなかった事実だそうだ。


 僕達は、おばちゃんと軽く挨拶をして店を出た。

 いつきさん達は、明日からここに通うそうだ。魔法具をもっとじっくり見せてもらうのと、何やら魔法の事で話をしたいとの事だった。

 僕も一緒に行きたいが、よいやみのせいでそれは無理なようだ。


 話し込んでいた事で、すっかり日が暮れていた。


「さて、そろそろお母さんも帰っているかな?」


 家が見えると、煙突から煙が上がっていたので、お母さんが帰ってきているようだ。


「ただいま、お母さん」

「みつきちゃん!! お帰り!!」


 お母さんは僕と何故かゆーちゃんを抱きしめる。

 何故ゆーちゃんも?


「かわいい子がいたからついね」

「あれっす。ゆっきー病は遺伝っす」


 またゆっきー病と言われた。だから何なんだよ。

ここからは暫く、みつき視点以外も増えると思います。

まぁ、ノープランなんで何とも言えませんけど。


最近、プロット通りに書くと文字数が5000を超えてしまう。

かといって、二話に分けるとだらだらと続くだけやし……まぁ、いいか。


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