16話 化け物の集まる村
この魔大陸独特の空気と魔力、本当に懐かしいなぁ。
まだ数ヵ月だけど、故郷が懐かしくなるというのはこういう事なんだろうね。
うん。帰って来たなぁ。
「ここが魔大陸だよ」
僕が振り返ると、僕とゆーちゃん以外の皆は、顔を青褪めさせていた。
「どうしたの?」
「い、いや、お前は何で普通にしていられるんだ? のしかかるような魔力と纏わりつくような
重い空気……この土地は一体何なんだ?」
面白い事を言うなぁ、バトスさんは。
こんなもの、魔大陸じゃいつもの光景だよ。むしろ、今日は天気がいいから、まだマシだよ。
「そう? まぁ、気にならないよね。そんな事よりも村に向かおうよ。ここなら、村までそうは遠くないから」
僕が歩き出そうとすると、よしおさんが「みつきちゃんの強さの秘密がわかった気がする」とつぶやく。
「いや、この空気に慣れないと魔大陸では生活できないからね。強さの秘密とか以前の話だよ」
「本当に無自覚なんだな……」
よしおさんが呆れた顔をする。
「そう言えば、ここはゴブリンが現れる事が多いから、鬱陶しいとは思うけど、襲ってきたら、サクッと倒してね」
「ゴブリンの巣がこんな平原にあるのか?」
「うん? 巣は無いよ。そもそも、ゴブリンに巣は存在しないからね。ゴブリンは発生型の魔物だから、ゴブリンの発生場所から湧いてくるんだ。だから、平原であろうと出てくるよ。ちなみにアロン王国では発生場所に森が多いだけだよ」
ゴブリンは発生型の魔物だ。
僕が研究した限りでは、魔物には二種類の魔物がいる。
幼体から成体になる魔物。そして、成体のまま突然発生する魔物。ゴブリンは後者だ。
「発生型なんて名称初めて聞いたが?」
「あぁ、適切な名前が無かったから、僕が勝手にそう呼んでるの。村やヴァイス魔国では結構通じると思うよ」
「いや、ゴブリンの研究をしている者は多かったが、幼体がいない事がゴブリンの一番の謎じゃったのだがな……こんな女の子が長年の謎を一瞬で解き明かすとはな」
「え? そんな事、皆知っているでしょ?」
みんなの顔を見てみると、全員が首を横に振る。おかしいなぁ……。
おっと、話をすれば何とやら。
僕が何もない場所を見ていると、皆も僕が見ている方に視線を移す。
すると、突然ゴブリンが二匹現れる。
「ほらね。これはアロン王国でも一緒だよ」
僕は現れたゴブリンに指を指す。
とはいえ、雑魚魔物のゴブリンだ。たまに上位のゴブリンが出てくる事もあるから、注視していたんだけど、あの程度なら雑魚だから気にもしなくていい。
襲ってきたら、反撃で倒せばいいか……そう思っていたのだが、よしおさんがゴブリンを狩りに行く。放っておいていても問題ないのに……。
ゴブリンは、よしおさんの攻撃を避けて、よしおさんを斬ろうとする。それを、バトスさんが受け止める。
迂闊だなぁ。余裕ぶるから……。
「な、なんだ!? この力はゴブリンの力じゃない!?」
「そ、それに何すか? あの速さ」
え? 何言ってるの?
もしかして、アロン王国によくいる弱個体じゃないんだし、そのくらい普通でしょ?
どちらにしても、ちゃっちゃと、村に帰りたいから、仕留めるかな。
僕は、バトスさんを襲おうとしているゴブリンの首を狙って斬りかかる。まず一匹。
そして返し刃でもう一匹の首を斬り落とした。
「はい、終わり」
ゴブリンを倒すときは、躊躇なく一撃で殺さないと。
こいつ等は数で来るから、一匹一匹に時間をかけているといくら時間があっても足りないからね。
「い、今の流れるような動きなんだ? おい、よいやみ。みつきはここまで強かったのか?」
「いや、アロン王国にいる時よりも速いっす。しかも、魔物を殺すのにためらいが無いっす。いつものみつきと違うっす」
何言ってるの?
いつもの僕だよ。確かにアロン王国にいると、若干動き辛いとかはあるけど……。
ゴブリンを放置して帰ろうかと思うと、いつきさんが「素材は放っておくんですか?」と僕を止める。
だって、ゴブリンだよ?
前に浄化の灰をかけた事があるけど、骨と屑魔石だけだったよね。そんなの持って帰っても、いつきさんがゴミになると言ってのに……。
いつきさんが、ゴブリンに浄化の灰をかけると、そこには銀色に輝く魔石と、緑色に光る骨があった。あれ? どういう事?
「シルバー魔石とミスリルの骨ですね。やはり、魔大陸のゴブリンはアロン王国内のゴブリンとは別物と考えていいでしょうね」
え? そんなにいいモノだったの?
確かに、ゴブリンは解体すると、骨が武器になったりしていたけど、こんなに価値があるのなら、もっと狩っておけばよかった!!
ゴブリンの戦利品を大事にしまい、僕の村へと帰る。
あ、村の柵が見えてきた。
門番のおっちゃんがいる。
「おっちゃーん!!」
「ん? おぉ! みつきちゃんじゃないか!! 村長に聞いたぞ。勇者になったそうじゃないか。エリザも夕方になったら帰ってくるから、また、夜にでも尋ねさせてもらうよ。今日は、村に泊まるんだろ?」
「うん。そのつもりしてる」
「そうかそうか。後ろの皆はみつきちゃんの仲間かい?」
「うん。じゃあ、入るね」
「あぁ!」
僕達は村へと入る。
村に入ると、はる婆ちゃんがバトスさんに「あの門番をやっていた男、ランクがオリハルコンじゃった……」とヒソヒソ話をしている。
何を馬鹿な事を……。
あのおっちゃんは、僕の幼馴染のエリザのお父さんで、娘大好きな門番のおっちゃんだよ? そんな人が強いわけないじゃないか。
「みつきちゃんじゃないか!!」「お帰り!!」「相変わらず小さいな!!」
村のみんなが挨拶をしてくれる。
しかし、隣のおっさんは後で覚えてろ。
あのおっさんは、僕が小さいのを気にしているのを知っていて僕を小さいと言ってくる。
「黒姫、この村は一体なんじゃ?」
「え? 僕の村だよ。普通の村でしょ?」
「おかしいじゃろ!!」
「なにが?」
「この村の男衆の全てがミスリルランクじゃ!! 何人かはオリハルコンもいた!!」
「何言ってんの? この村は普通だよ?」
はる婆ちゃんボケた?
村の男の人は、確かに魔物を狩ったりしているけど、普通のおっちゃん達だよ?
「みつきが、おかしいというのが良く分かったよ」
バトスさん。それは、どういう事かな?
「あ、あの家が僕の家だよ」
僕の家は、村長の家という事もあって、周りの家よりも大きい。たまに集会などもやっているから、宴会出来る部屋もある。七人くらいなら余裕で泊まれるだろう。
僕が家に近付くと、なんとなく懐かしくもウザったらしい気配を感じる。
僕は皆を止めてアルテミスを取り出す。
今までは、普通の剣だったから負けてたけど、今日こそ、コテンパンにしてやる。
僕はそのまま、家に向かって斬りかかる。
僕と一緒に来た皆は驚いていたが、村の人達は驚かない。
だって……。
これが僕達一家の日常なんだから。
僕が動いたのと同時に、家の扉が吹き飛んでくる。
そして中から……。
「帰って来たかぁあああああ!! 愛しい孫娘よぉおおおおお!!」
「このじじい!! 玄関を破壊すんなっていつも言ってるだろ!!」
僕の剣とじいちゃんの拳がぶつかり合う事で、衝撃波が起こる。
普通は剣と拳ならば、拳が斬れるのだが、じいちゃんの拳は無傷だ。
く、クソ、聖剣をもってしても、じいちゃんを傷付ける事は不可能なのか?
じいちゃんは、逆の手で僕の頭を撫でる。
「良く帰ったの、みつきや」
「うん、ただいま。お母さんが帰ってくるまでに玄関を直しておいてよ」
「ぐっ……わ、分かった」
ここまでが、僕達の日常だ。
僕はじいちゃんに皆を紹介する。
はる婆ちゃんはじいちゃんを見た瞬間に絶句していた。なんで?
「この御仁……魔導の眼を妨害しおった。こんな事は初めてじゃ……。じゃが、一瞬だけランクが見えた……ヒヒイロカネと……」
え? じいちゃんもヒヒイロカネ!?
「な、何すか。この化け物ばっかりの村は……。みつきのじいちゃんに至っては、熊以上に危険な生き物を初めて見たっす」
よいやみの顔も青褪めている。
「それだけじゃありませんよ。今の衝撃で周りの家がビクともしていない。これは、家自体に衝撃吸収の処理が施されている……、流石は魔大陸にある村……普通じゃありません」
いや、だから普通だよ!!
ようやく二章も半分くらい進んだかな。
ここら辺から、旧クジ引きを意識しないで書いているのでストーリーと習得魔法などが若干変わっていくと思います。旧クジ引きを、参考くらいにはしているんですがね。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
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