14話 よいやみ……姫
「俺も話に参加させてもらうぜ」
この人がこの国の国王『レオン=アロン』
着ている服は王様らしく豪奢だけど、第一印象は普通のお兄さんといった雰囲気だ。
王様は、オルテガさんと親しいらしく、軽い口調で挨拶をしている。
バトスさんも座ったままの所を見ると、バトスさんとも親しいのかな?
僕達四人は、立ち上がって頭を下げる。
しかし、王様は「そんな堅っ苦しい事はしなくていいぜ」と笑うと、後ろの黒髪の青年から小言を言われていた。
「謁見の間じゃないんだから、気にする必要ねぇよ。オルテガ、もう少し詰めろ、俺が座れねぇ」
そう言って、王様は僕達の真正面に座る。黒髪の人は、座らず立ったままのようだ。
「さて、自己紹介をしておこうか。俺がこの国の国王。レオン=アロンだ。こっちの細目はシド、宰相をしている」
後ろの男の人が宰相なのか。随分と若い宰相さんだ。
アリ姉の所の宰相さんは、見た目もお爺ちゃんで威厳のある『ゼクス』さんだ。
あ、ゼクスさんは最高指揮官という肩書だったかな?
王様が、僕をジッと見ている。何を言われるんだろうか?
「お前が魔大陸から来たという勇者黒姫……みつきだな。思ったよりも小さい子だったんだな」
「あ、はい。初めまして」
魔大陸から来た……というよりも、無理やり連れてこられたんだけど……。
まぁ、今はその事は置いといて、思ったよりも小さいと言われたけど、どんなのを想像していたんだろうか……。
しかし、緊張するな。
僕は村娘だから、一国の王様とお話しする機会がないから仕方ないのだけど。
「ははは。他の王族にはきちんとした対応でいいと思うが、俺相手には別にかしこまらなくていいし、いっその事タメ口でも構わないぞ」
いや、流石にそれは不味いだろう。
僕はただの村娘で、しかも、アロン王国領(一応)の絶望の村出身だ。そんな小娘が自分の国の王族にタメ口は駄目だろう。
僕が頑なに、首を縦に振らないのを見て、王様が少しだけ寂しそうな顔をする。
「今現在、大国の姫君とは仲良く話が出来ているのに、やはり異性の王族とは仲良くできないか……俺としては何百年ぶりのヒヒイロカネの勇者には、もっと気楽にして欲しいのだがな」
何百年ぶりのヒヒイロカネの勇者と言われても、僕自身が望んだ事でもないし、そもそも、大国の姫君? そんな人と知り合いじゃないよ?
もしかして、アリ姉の事?
「アリ姉は幼い頃から一緒にいるからであって、王族というより姉に近いから……」
「ん? アリ姉? あぁ、ゲンから聞いた魔大陸の王、魔王『アリス=ヴァイス』の事か。その事も含めて話があるのだが、俺が言っているのは違う人物だ」
「え? 違うの?」
「そう、それでいいんだよ。普通に話してくれると俺としても話しやすいんだ」
「あ、うん。じゃあ、出来るだけそうする。で、大国の姫君って誰の事?」
僕が聞こうとすると、よいやみが「べ、別にそれはどうでも良いじゃないっすか」と止めてくる。
確かに、大事なのは大国の姫君じゃなくて、人魔王の事だ。
「そうだね。あまり詮索するのは良くないね」
僕が、頷くとよいやみはホッとした顔になる。なんでよいやみがホッとするんだ?
僕がよいやみを見ていると、王様がよいやみを見て呆れた口調でこう話す。
「お前の隣にいる、よいやみ姫の事だ」
は?
よ、よいやみ姫?
僕はよいやみを見る。よいやみは顔を真っ青にしている。
「な、何を言っているっすか? あしは旅の武闘家、よいやみっす。名前は一緒っすけど、ガストの姫では決してないっす!!」
ガストの姫!?
王様はどこの姫君とまで言ってなかったよ!?
そう言えば、よいやみはガストに詳しかった。
……。
まさか、本当にガストのお姫様!?
「みつき!! あしの事を見てお姫様だと思うっすか!? こんな食い意地がはって、こんな口調のお姫様がいるわけないっすよね!!」
よいやみが必死に僕に言い訳をしてくる。
確かに、口調も性格も姫様っぽくはないけど、あ、顔は可愛いから、そこだけはお姫様っぽいとは思うけど……。
でも、ここまで必死に否定されると、逆に怪しいんだけど……。
「ははは。レオン陛下もそんな勘違いをしないで欲しいっす。同じ名前だからってよく間違えられるんすよ!!」
よいやみは必死だ。
しかし、王様は溜息を吐き「いや、お前とは何度もあっているだろう? 俺が、一度見た顔を忘れないのは、各国の間でも有名のはずだが?」と、とどめを刺す。
流石にこれ以上は言い逃れが出来なくなったのか、よいやみは何もしゃべる事が出来なくなる。
ここで黙るという事は、よいやみは……。
ここでゆーちゃんが追い打ちをかける。
「よいちゃんはおひめさま?」
「あ、あ、あ、あ……」
よいやみの顔が真っ青になっている。
完全に、よいやみが嘘をついているのは明白だな。
「えっと、よいやみ様?」
「止めるっす!! 気持ちが悪い!! みつきに様つけで呼ばれると鳥肌が立つっす!!」
ひ、酷い!?
よいやみがお姫様だったら、身分の関係上『様』をつけないとダメと思っただけなのに。
「はぁ……バレてしまったっす。そうっすよ。あしは魔導大国ガストの第六王女のよいやみっす。でも、あしは王族から除籍されているので、もう王族じゃないっす。みつきもゆっきーも今まで通りの対応でいいっす。むしろそうして欲しいっす」
いつきさんにそう言わないという事は、いつきさんは知っていた!?
「いつきさん……」
「知っていましたよ。口止めされてましたけど」
「いや、口止めを理由に脅されてたっす」
流石いつきさん。王族だろうと容赦がない。
しかし、王族から除籍か……。
もしかして食費だけでお城の財源が圧迫して、追い出された?
そうとしか思えない。
そう考えたら、恐ろしいな……。よいやみの食べる量は……。
「みつき、何を考えているかは知らんっすけど、多分違うっすよ」
ん? 否定された。
「俺もよいやみと呼び捨てさせてもらうぞ。よいやみ、お前は除籍と言うが、ガスト王はお前の心配ばかりしていたぞ? なんでも、一月に一度は顔を見せるという約束が守られていないとか、この間の世界会議でガスト王が愚痴ってたぞ?」
「親父は、いつまでも子離れが出来ないんすよ。確かに末っ子っすけど、あしはもう十九歳なんすから、放っておいて欲しいっす」
いや、王族ならばそれは無理だろう。
「そ、そんな事よりも、今はティタンの事っすよ!!」
あ、話を強制的に終わらせた。
「確かに、このままでは話が終わらんな」
王様は、独自で調べた事を僕達に資料として渡してくれる。
僕達の話し合いの報告書も、リリアンさんがいつの間にかまとめていたらしく、王様に渡していた。
一通り、報告書を呼んだ王様が、バトスさんの肩に手を置き「お前達が無事でよかった。逃げ帰った事を恥と考えるなよ。いつも言っているが、生きて帰ってきてこその英雄だ」と励ましていた。
そういう考えの人は好きだ。逆に、国の為に死んで来いという王様は嫌いだけど……。そう言えば、アリ姉も兵士が危険になるくらいならと、前線に出るような王だけど。
まぁ、アリ姉はヴァイス魔国で一番強いんだけど……。
「しかし、バトスでも苦戦するとなると、これは一大事だよな……、本来はバトスでティタンを討伐してもらい、みつき達に残党狩りをしてもらう予定だったのだが……。これは、一筋縄ではいかなくなったかもな」
そこまで考えていたんだね。
そこでよいやみが「なんなら、あし達が乗り込むっすか? 最悪、ゆっきーの即死魔法もあるっすし、いつきのブラックホールですべてを吸い込むっていう反則技もあるっす。聖剣を持ったみつきも強力だし、あしもまだ本気を出してないっすからね」と自信満々に言い出すが、王様は余り良い顔をしない。
「これは俺の意見だから、最終的にはお前達が結論を出してくれればいいんだが、俺は魔大陸はアロン王国領でありながら、アロン王国領ではないと考えている」
ん? どういう事だろう?
僕が首を傾げていると、よいやみが一言「何百年も前に押し付けられた領土だからっすか?」と王様に尋ねる。
そういえば、魔大陸がアロン領土になった理由は押し付けられたからだったね。
でも、そんな事を今更考えるのは、なんでだろう?
「俺が考えているのは、押し付けられたからどうこう言う話じゃないんだ。魔大陸には『ヴァイス魔国』があるんだろ? みつき、ヴァイス魔国の事を詳しく教えてくれないか?」
僕は、アリ姉の事とヴァイス魔国の事を説明する。
勘違いされたくないのは、僕達の村は『絶望の村』と呼ばれているけど、村の誰も絶望していない。それどころか、アリ姉達、魔族とも仲良くしている。
「その話を聞いて、ますます黒姫一行をティタン討伐に行かせるのに抵抗があるんだよ」
「なんで?」
「お前達の村、絶望の村を守ってきたのは、ヴァイス魔国であり、アロン王国ではない。それなのに都合のいい時だけ、頼るというのにどうも罪悪感を感じてな……」
そういう事か……。
でも、アリ姉はそんな事を気にもしないと思うんだけどな……。
村長であるじいちゃんに至っては、僕が勇者になる事を喜んでいたみたいだし……。
「じゃあ、アリ姉に聞いてみようか? でも、そのためには、魔大陸に行く必要があるけど……」
「行ってくれるのか? お前に話したかった事はまさにその事なんだよ。俺としては、ヴァイス魔国と友好関係を結びたいと思ってるんだ。ここにいる、皆は知っていると思うが、俺は魔族を悪とは思っていない。だからこそ、話が出来るのならば話がしたいと思っていたんだ」
そういう事なら、僕も協力できる。
僕としては、アリ姉とこの国が仲良くなってくれた方が良いし。
話が一段落したところで、ノックする音が聞こえてきた。
「入れ」
オルテガさんがそう答えると、ラビさんが部屋に入ってきた。
「あ、あの……みつきさん、お客様です」
「え? 僕?」
僕に客?
この町での知り合いなんて、ここにいる人以外では、流れ星の流星とクレイザーくらいなんだけど……誰だろう?
「分かったよ。今行くよ」
僕が立ち上がろうとすると、ラビさんが止めてくる。そのお客さんは、冒険者ギルドまで来ているらしく、ラビさんが部屋に案内して来た。
少し待つと、ラビさんが女の人を連れてきた。僕はその人を見て、驚く事になった。
どうして貴女がアロン王国にいるの!?
その人は、ピンク色の長い髪の毛をツインテールにしている女性で、服装はメイド服……。
ヴァイス魔国、準最強の……。
「は、ハインさん!!?」
「久しぶりね。みつきちゃん」
僕を尋ねて来たのは、僕の剣の師匠であり、アリ姉の親友兼右腕である吸血姫のハインさんだった。




