11話 聖剣アルテミス
アインの攻撃は、一撃一撃が重かった。そのうえ、速さまである。
この強さは、アロン王国でもそうはいないレベルの強さだと思う。
「どうした? 防戦一方では勝てやしないぞ?」
確かに、今は受けるだけで精一杯だ。
でも、僕にだって言い分がある。相手の強さも分かっていないのに、下手に攻撃できないだけだ。
攻撃出来ないでいる僕とは違い、アインの攻撃が休まる事が無い。
技量は似たようなモノでも、武器の性能の差が根本にある。
アインの剣は聖剣で、僕の剣は只のロングソードだ。鋭さは斬られていないから問題ないけど、一番は強度が違う。
闘気で自分の剣を保護しているが、それでも聖剣の方が遥かに強度は高い。
このままでは、僕の闘気に剣が耐えられない。とはいえ、闘気を解けばアインに剣を折られる。
これは困った……。
「何を緊張しているかは知らんが、何も命のやり取りをしようってわけじゃない。お前も攻撃して来い!!」
アインはそう言うが、僕の攻撃は対魔物専用の剣技なので、全て急所狙いだ。普通の人には向いていない剣技だ。
それに、命のやり取りは無いと言っているが、明らかに僕に対して殺気をぶつけてきている。これでは、命のやり取りをしていると取ってもおかしくはない。
アインの攻撃は速く、僕も反射的に反撃しているが、いとも簡単に躱してしまう。
この人、本当に強い。
僕が戸惑っていると、よいやみが僕を怒鳴ってくる。
「みつき!! なにやってんすか!!」
う、うるさいな。分かってるよ!!
だけど、相手が強いんだから仕方ないじゃないか!!
≪よいやみ視点≫
イライラするっす。
みつきは何をやっているっすか。
本来のみつきの実力ならば、アインくらいなら簡単に倒せるはずっす。
少なくとも、あしと模擬戦をしている時のみつきの強さ、速さはあんなモノじゃ無いっす。
聖剣の影響っすか?
聖剣が相手だから、勝てないかもとか考えているんすか?
「みつきー!! しっかりするっす!!」
「分かってるよ!」
いや、なんにも分かっていないっす。
今のままだと、アインには勝てないっすね。
あしがイライラしていると、いつきが声をかけてくるっす。
「よいやみさんから見て、アインの強さはどうなのですか?」
「え? かなり強いっすよ。でも、身内びいきかもしれないっすけど、みつきの方が強いと思うっす。少なくとも、あしと模擬戦している時とは別人に見える様に、今のみつきは弱いっす」
あしの言う事に、いつきは首を傾げているっす。
相手によって強さが変わるというのは良くあるっす。
あしも、熊と戦う時や、みつきと戦う時は本気で戦えるっす。
これは魔物が相手でも同じだと思うっす。
まぁ、あしの場合は熊にその辺りも鍛えられているんで、誰に対しても本気を出せるっすけど、だけど、姉様達と戦う事があったのなら、あしは今のみつきと同じ反応になってしまうかもしれないっす。
「勝てますか?」
「勝てるっすよ。しかも一瞬で決まると思うっす」
「一瞬で?」
「そうっす。みつきが自分の身に危険が及んだと思ったら、身体が勝手に動くはずっす。ただ……」
気になる事もあるっす。
みつきの剣は、ただのロングソードっす。
あの剣で、いつまでみつきの闘気に耐えられるか……っすね。
ここで、アインの動きが変わったっす。
今までは、重剣士のように重い攻撃だったのに、それが一転、流れる攻撃に変わったっす。
ここにきて、アインの強さがさらに上がったっす。
これはみつきが本気であっても厳しいかもしれないっすね。
いや、みつきの事を考えたら、そっちの方が良いかもしれないっすね。
ほら、みつきがアインの剣をギリギリで避けて、条件反射の様に首を狙いに行くっす。
これにはアインも反応できないっすね。
「なに!!?」
しかし、みつきが斬りかかろうとしたところで、みつきの剣が砕けたっす。
ここまでっすか。
あしはアインを止める為に、動こうとするっすけど、アインの動きも止まったっす。
≪みつき視点≫
け、剣が砕けた!?
闘気に剣が耐えられなかったんだ。こ、こんな時に!?
その瞬間、アインが剣を振り上げる。
あ!! これは避けれない!?
僕は咄嗟に眼を閉じた。
死んだかな?
そう思っていても、痛みはない。
「おい、目を開けろ」
アインが僕に声をかけてくる。
「え?」
僕は、そっと目を開ける。
アインの剣は、僕の目の前で止まっていた。
「俺の勝ちだな。最後の最後で危ないと思ったが運が俺に味方をしたな。まぁ、単純に剣の性能の差が大きく出たな」
どうやら、本当に僕を殺す気がないようだ。
アインは剣を収めて、僕から離れる。
すると、よいやみ達が僕の所へ駆け寄ってくる。
よいやみは、次は自分が相手になると言わんばかりに構えている。が、アインは戦う気がないようだ。
「おい、この小さい勇者の強さはこんなモノじゃないんだろう?」
アインは、そうよいやみに聞いている。
「そうっす。今のみつきは弱かったっす。いつも、あしと模擬戦をやっている時とは天と地との差があるっす」
いや、流石にそれはないよ。
今の僕は本気だったし……。
「そうだな。戦っていると、こいつが無意識に手を抜いているのが良く分かった」
「え? ぼ、僕は手を抜いてないよ?」
今のは、よいやみと戦っている時と同じように本気だった。
それなのに、手を抜いてるって言われても……。
「お前は相手を低く見る癖でもあるのか?」
いや、そんな癖があったら、相手に失礼じゃないか。
僕が否定しようとするとよいやみが代わりに否定をしてくれるのか、僕の前に出る。
「みつきは相手を低く見てないっすよ。自分の力を低く見ているから、相手の強さが分からないだけっす」
「ん? どういう事だ?」
何か馬鹿にされたような気がするけど……。
僕もそれを聞きたい。どういう事?
「みつきは、今でも自分が普通の強さしか持っていないと思い込んでいるんすよ。アインがいた頃に魔大陸があったかは知らんっすけど、みつきは魔大陸出身っす」
「魔大陸か……。あの魔神ゼルによって封印された島だろ? 世界を滅ぼしかねない魔物が蔓延るという」
いやいやいやいや。
魔大陸の魔物が世界を滅ぼす?
ないないないない。
「魔大陸の魔物と言っても、少し強いだけだよ?」
「だーかーらー。そこがおかしいんすよ」
僕とよいやみが言いあっているのを、アインは楽しそうに見ていた。
だが、アインの時間は少しずつ無くなってきているようだ。
「ん? そろそろ時間か?」
アインの体が少しずつ塵になっていく。
しかし、アインは焦る事も無く、僕に聖剣を渡してきた。
「お前に俺の聖剣をやるよ。もう、俺には必要ない。今のお前は自分の実力の半分も出せていない。この聖剣を持ってみろ」
「え?」
そう言って、僕に聖剣を渡してきた。
僕は聖剣を握ってみる。
不思議な感覚だ。
まるで、小さいころから使い続けているみたいに思えてくる。
僕は聖剣に闘気を流し込んでみた。
すると、聖剣は銀色のオーラを纏いだす。
「ほぅ、アルテミスもお前を認めたようだな。俺の時よりも輝きが増している」
「アルテミス?」
「あぁ、その聖剣の名前だ。なんでも異世界の月の女神の名前らしいぞ」
アルテミスか……。
よろしくね、アルテミス。
『こちらこそ』
え? 今、声が聞こえた気が……。気のせいだよね。
僕が聖剣を見ていると、アインの腕が落ちた。
「さて、そろそろお別れの時間だな。アルテミスの事を大事にしてやれよ」
そう言ってアインは笑った後、上を見て、「シルビア。お前の所へ帰るよ」と呟いた直後、塵となって崩れ去った。
アインがいなくなった事で、転移魔法陣が起動したのか薄っすらと光っている。
僕達は勇者アインと魔王シルビアに黙祷して、三階へと転移した。




