表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
二章 人魔王編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/140

10話 五百年前の勇者


 キメラから出て来た男が、僕には悪人と思えなかった。

 理由はいくつかあるが、そのうちの一つが、彼の持つ剣だった。


 もしかして、聖剣?

 もし聖剣だとしたら、何故魔物から出てきた人が持っているんだ?


「よぉ……、お前等は一体誰だ? そして、俺はどうしてここにいる?」


 男は、僕達にそう聞いてくる。しかし、敵意は感じない。

 男の問いによいやみが答えた。


「それはこっちのセリフっす。あんたは、何者っすか?」

「俺か? 俺はアイン。こう見えても勇者だった男だ」


 勇者だった!?

 何故、勇者が魔物の中にいるの!?


「俺も答えたんだから、答えてもらいたい。俺はなぜ生きている? 俺はシルビアと共に死んだはずだ」


 シルビア? 誰の事だ?

 それに共に死んだって?


「何を言ってんすか? お前は魔物から生まれた何かじゃないっすか?」

「俺が魔物から? お前こそ何を言っている?」


 アインは、自分が出て来た場所を振り返る。

 キメラはアインが出て来た後に、塵となっていたので、すでに何もなかったが、アインは何もないのを見て、何かを悟ったようだ。


「あまり信じたいとは思わんが、なんとなくは理解した」


 アインは一人で納得している。こちらにも説明して欲しいモノだ。

 僕はアインから詳しく話を聞こうとしたのだが、いつきさんが思い出したようにアインの正体について語り出す。


「勇者アイン。確か、五百年前に活躍した勇者ですよね」

「え?」

「女神に選ばれた勇者『覇王』よりも二百年も前の勇者です。確か、伝説では魔王シルビアと相打ちして「相打ちではない」……はい?」


 アインがいつきさんの説明に口をはさんでくる。


「俺とシルビアは、愛し合い、共に死を選んだんだ。勇者と魔王の争いなど、俺達は興味などなかった。しかし、世界がそれを許さなかったのでな、相打ちという形で、俺達は共に命を絶った。それよりも気になるのが、聖剣だ。死ぬ前に俺の聖剣とシルビアの魔剣は、海に投げ捨てたはずなのに、何故ここにあるんだ? そもそもシルビアの魔剣はどうなった?」


 魔剣の存在は分からないけど、聖剣はあの男か、この塔を作った奴が見つけてきたんだろうな。

 しかし、何のために聖剣を魔物に埋め込んだんだろう?


「そんな事はどうでも良いっす。お前が復活したよりも、あし達としては次の階層に行きたいんすよ。何か知らないっすか?」


 よいやみの言いたい事も分かるが、もう少し話を聞いてあげようよ。


「次の階? ……悪いが知らないな。そもそも、どうしてここにいるのかも分からないのに、知っているわけがないだろう?」


 アインの復活? は本人も予想外だったのだろうから、この塔の仕組みを知らなくても仕方が無いかもしれない。

 こんな時に、あの男が会話に参加してくれたら、解決するんだけど……。


 よいやみも同じ事を思いついたのか、何かを探している。


「よいやみ、何を探しているの?」

「通信用の魔宝玉っす。さっきも男の声が聞こえていたから、この広間のどこかに仕掛けられている可能性があるっす。それを使って、こちらから呼びかけてみるっす」


 よいやみの考えはごく稀に凄い。

 僕も一緒になって探し始めた。するとアインが不思議そうに聞いてきた。


「連絡用の魔宝玉とは何だ?」


 通信用の魔宝玉を知らない?

 もしかして五百年前には通信用の魔宝玉が無かったのかな。五百年も昔なら、無くてもおかしくない……のか?


 いつきさんが、アインに通信用の魔宝玉の事を説明する。


「へぇ、こんな便利なものがあるんだな。そもそも俺が死んでから五百年も経っていた事にも驚いたけどな」


 そんな話をしながら、通信用の魔宝玉を探していると、あの男の声が聞こえてきて、魔法陣が光った。


「くくく……、そろそろ死んだか?」


 男が姿を現した瞬間に、アインが男の首に腕をかけて取り押さえる。


「な!? 何者だ!!」


 男もアインの事を知らない? と、いう事は、アインの復活は男からすれば想定外という事?


「おい、俺の剣をどこで拾って来た?」

「な、何の事だ!! もしかして、キメラの体に埋め込んだ剣の事か!?」

「それの事だ。どこで手に入れた?」

「ぐ、は、離せ!! 私は貴様を復活させてやった親のようなモノだぞ!!」


 ん? どういう事だ?


「おい、どういう事だ? 話せ」

「け、剣に残った残留思念が魔物の肉を使って形になったんだろう? つまりは、私のおかげで復活したという事だ。感謝しろ!!」

「そうか……」


 アインはそれだけ聞いて、男の首をへし折った。そして、倒れる男の頭を踏み潰した。


「あぁ~。殺してしまったっす」

「ん? 殺しちゃまずかったのか?」

「いえ、問題はありませんよ。その男からは、情報を聞き出したかったんですが、殺してしまったのなら仕方ありません。後で、ゆづきちゃんに生き返らせてもらいましょう」


 うちにはゆーちゃんという反則技に近い子がいる。

 でも、ゆーちゃんは首を横に振る。


「むり」


 ゆーちゃんは残念そうに言った。


「どうして?」

「これにはたましいがはいってないから、いきかえらない」


 魂が入っていない? 

 こいつも人間じゃないのか?


 アインは今の話を聞いて、少しだけ申し訳なさそうにしていた。


「生き返らせるとか意味が分からんが、まぁ、済まなかったな」

「いや、それは良いんだけどさ……」

「何か気になる事でもあるっすか?」


 アッサリとこの塔で一番偉そうな奴が死んでしまったわけだけど、なんとなくスッキリしない。というより、腑に落ちないと言った方が良いだろうか。


 どうしてこいつは、僕達が完全に死んでいるかを確認もせずに、ここに来たんだろう? あのキメラが最高傑作だったとしても、不用心すぎると思うのだけど……。


「まぁ、気になる事もありますが、今回のクエストはこれで終わりです。帰りましょうか」


 いつきさんが、そう言って来た道を引き返そうとするが、アインはどうすればいいかを考えている様だった。

 いきなり生き返させられて、しかもそれが五百年経っているとなると、戸惑うのも仕方が無い。


「もしよかったら、ナイトハルトに来ない?」

「ナイトハルト?」

「うん。僕達が拠点にしている町だよ。僕達としても強い勇者が増えるのはありがたい話だからね」

「強い勇者? 今は勇者が何人もいるのか?」

「え?」


 そうか。

 クジ引きで選ばれ出したのは、アインが死んでから二百年も経ってからの事だ。今は、強いのから弱いのまで、さまざまな勇者がいる事が分かったら、驚くだろうね。


「うん。僕も一応勇者なんだ」

「なに? お前が勇者? まだ幼い子供だろう?」


 確かに小さいけど、幼いは言い過ぎだと思うんだけど?


 僕は少しだけ不機嫌になる。

 その時、聞こえるはずのない男の声が聞こえてきた。

 

『ふははははは!! 貴様等を警戒しておいてよかったわ!! もし、次の階層に来たければ、その男を殺すんだな!! 本来はキメラが鍵になるはずだったが、私の可愛いキメラから生まれたそいつ(・・・)を殺さない限り、次の階層には上がれない!! それに、私を殺した(・・・)男にも告ぐ。お前は後一時間もすればもう一度死ぬ。せっかく生き返った命を散らされたくなければ、そいつら殺して来い!! もし、殺して私の所に来れたのならば、永遠の命を与えてやろう!!』


 そう言って、男からの通信は切れた。


 どういう事だ?

 もしかして、こいつは二人いたのか? いや、『私を殺した』と言っていた。つまり、命が二つあった? 意味が分からない。


 そう思っていたのだが、いつきさんが気になる事を言っていた。


「禁術の中に、命を与える魔法があったはずです。その魔法を使えば、一人の人間がいくつもの命を持つ事が可能だそうです。その代わり、どこかで誰かが死んでいるんですが……」


 なんて、胸糞の悪い魔法だ。気分が悪くなる。


「で? アイン。どうするっすか? 今の話だと、アインの命は後一時間位みたいっすよ。あしらを殺してアイツの所に行くっすか?」

「そうだな……。ハッキリ言ってしまえば、別に自分の命など惜しくもない。俺はシルビアと共に眠りたいと思ったから命を絶ったんだ。むしろ、勝手に生き返らせられた事に憤りを感じる」


 そう考えたら、このまま時が来るまで待っていた方が良いのかな?


 そう思ったのだが、アインの言葉は予想外のモノだった。


「だが、このまま死ぬのも面白くはない。そこの小さいの、お前は勇者と言ったな。今の勇者がどれほどのモノか、俺が見てやる」


 そう言って、聖剣を抜いて僕に斬りかかって来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ