4話 女神に選ばれた勇者
いきなり、前・クジ引きとは違う話になってきてますが、気にしません。
リリアンさんは、僕が冒険者としてやっていける証拠を見せてあげると言い、部屋を出て行ってしまった。
証拠って何だろうか……。
ま、まさか……、凶悪な魔物とでも戦わせるつもりなのだろうか……。
だ、ダメだ。殺されてしまう。
嫌な予感に襲われた僕は、この部屋から脱出しようと、立ち上がる……が、逃げたとしても、村には帰れない。
昔、行商人のおっちゃんに地図を見せてもらった記憶があるが、確か僕の村と王都は凄く離れていたはずだ。
そもそも方向音痴の僕が、まっすぐ帰れるとも思えない。
しかもだ。
この部屋は、冒険者ギルドの一番奥にある。絶対気付かれる。
「どうやって帰ろう。何か目印でもあれば帰れるけど……。そもそも、どうやって脱出しよう」
脱出経路を考えていると、ふと、自分の村がある魔大陸の事を思い出す。
……!!
……絶対に無理だ……。
余計な事を思い出してしまった。
僕の村がある魔大陸は海に囲まれている。
結界とやらは、どうにか出来たとしても、一番の問題が残っている。
……僕は泳げない。
というよりも水が怖いのだ。
「どうしよう……。こんな事になるのなら、泳ぐ練習を……、いや、そもそも水が怖くなったのは、じいちゃんの特訓のせいだ。どうしよう……」
僕は座ってじっくり考える事にする。
リリアンさんが帰ってくる前に逃げ出したい。
でも、そんな時間はあるのかな?
いや、あると信じよう。
でも、どうしようかな……。
そう言えば、リリアンさんは証拠がどうとか言っていた。
その証拠とやらで、僕は大した事がないと気付いてくれれば、解放されるはず。
それに、お母さんがじいちゃんを叱って、僕を迎えにくる方法をアリ姉に相談してくれているはず。
アリ姉は、僕の知る限り一番強い人だ。僕をかわいがってくれていたから、きっと助けに来てくれるはず!!
僕がそんな事を考えていると、リリアンさんが、綺麗な桜色をした魔宝玉を持ってきた。
いや、戻ってきてしまった……。
しかし、あの魔宝玉は何だろう……? とても綺麗な色なのに、僕はその魔宝玉が不安で恐ろしい色に見えた。
「みつきちゃん。この魔宝玉に手を置いてみてくれない?」
「これは?」
「これは女神の魔宝玉と言ってね、これに手を乗せるとね、その人の職業と女神ランクが表示されるのよ」
職業に女神ランクか。
いくら何でも、女神セリティア様なら、僕がただの村人と肯定してくれるはず。
これで帰れるかな? いや、帰れるはずだよね。
いや、ちょっと待てよ? 僕としては、あのうるさいじいちゃんと一緒に暮らすよりも、この王都で、のんびり暮らした方が幸せじゃないんだろうか。
となれば、ちゃっちゃと魔宝玉に手を乗せて、無能をアピールしよう。
「これを使えば、僕が勇者じゃないと認められるわけだね?」
これは……、この魔宝玉は、僕を自由にしてくれるはずだ。
その証拠に綺麗な……、なんだろう……。これに手を乗せちゃいけないと言われている気がする。
僕の直感を信じるのならば、乗せずに逃げる方法を考えるべきだけど、僕はクジに当たるほど、運が悪い。
嫌な予感しかしない。
しかし、リリアンさんは涼しげな顔で、僕に手を乗せるように言う。
むぅ……。
ま、まぁ。乗せてみて、僕が勇者に選ばれなければ、諦めてくれるだろう。
僕が嫌がっていると、リリアンさんが残念そうに僕を見る。
「みつきちゃんは、勇者は嫌なの?」
そんな分かりきった事を、なんで聞くかな。
「嫌だよ。僕はあくまで村人だよ? クジ引きみたいな無意味な方法で選ばれただけだよ」
皮肉攻撃だ。
僕の言葉に、リリアンさんは黙ってしまう。
し、しまったぁあああ!!
これで、怒らせて牢屋にでも入れられたら……ど、どうしよう!?
僕は恐る恐るリリアンさんの顔を見る。
しかし、リリアンさんは笑っていた。
笑顔で怒るタイプの人なのかなぁ?
「みつきちゃん。辛辣ね~。まぁ、一度手を乗せてみて」
よ、よかった……。
怒っていないようだ。
よし!! こうなったら覚悟を決めよう!!
「うん」
あれ? 一瞬背中が寒くなったぞ?
どうして?
僕は、魔宝玉にそっと手を乗せる。
みつき(16) 性別:女 職業:女神に選ばれた勇者 称号:村娘とごねる勇者 ランク:オリハルコン
「……え?」
僕は目を擦る。
い、今なんて書いてあった?
僕は、リリアンさんに視線を移す。
リリアンさんも、魔宝玉に釘付けになっている。
「ほ、ほらね? みつきちゃん!! 証拠が出たでしょ!?」
リリアンさんは、若干ひくついているが、嬉しそうにする。
そ、そんな馬鹿な……。
僕はもう一度手を乗せる。
みつき(16) 性別:女 職業:女神に選ばれた勇者 称号:無駄にごねる勇者 ランク:オリハルコン
ちょっと待て……。
さっきから、この称号という項目……。僕に喧嘩を売っているのか?
「リリアンさん。この魔宝玉を割っていい?」
僕は魔宝玉を投げようとする。
「良いわよ。ただし、弁償はしてもらうから……。そうね、五十年はタダ働きかしら?」
僕はそっと魔宝玉を戻す。
さて、気を取り直してっと。
「リリアンさん。このランク:オリハルコンって何?」
ランクというのがあるのは聞いた事があるけど、ミスリルランクが最高と聞いた事がある。
確か、実在する金属の名前じゃなかったかな?
「オリハルコンランクはね。冒険者ギルドでは、最高ランクなのよ」
ん? リリアンさんが、眼鏡をかけているぞ?
美人さんは、何をしても美人さんだ……。
「リリアンさん。眼鏡……」
「あぁ。ごめんなさい。ギルド幹部の場合は眼鏡を着用して見なきゃいけないのよ」
ん? なんで眼鏡を?
「まぁ、いいや。これ壊れているよ。僕みたいな小娘が勇者なわけないじゃん」
「そうは言っても、もう証拠は出てるからねぇ……」
リリアンさんが僕の手を握る。
「逃がさないわよ~」
リリアンさんの目が怪しく光る。
僕はこの先どうなってしまうのだろう……。
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