3話 僕と魔王
よいやみの言葉に応接間が静まり返る。とは言っても、静まり返っているのはオルテガさんとパリオットの皆さんだけで、いつきさんも初めて聞くはずなのに気にもしていないし、ゆーちゃんは寝ているので聞いてもいない。よいやみは聞きたくてしょうがないみたいだ。
そんな中、オルテガさんが重く口を開く。
「みつき……、お前の知る魔王とはどういう事だ? お前は魔王と通じているのか?」
まぁ、聞かれるよね。
何とか誤魔化そうとリリアンさんを見るけど、リリアンさんもどうしていいのか分からないみたいだ。
僕がリリアンさんを見た事で、はる婆ちゃんは何かに気付いたみたいで「リリアン、何か知っているのかい?」と聞いていた。
リリアンさんには、アリ姉の事も話していたが、リリアンさんには隠してもらっている。しかし、こうなってはもう隠しようがない。
「はぁ……。リリアンさん、僕がちゃんと話すよ。僕の知っている魔王は、魔大陸に君臨している魔王だよ。多分だけど、その人魔王というのとは根本的に違うと思う」
「根本的に?」
「うん、オルテガさん達が言っている人魔王という人の性別は?」
「……男だ」
「そうだと思った。僕の知っているのは女性。まず性別が違うね。名前はアリス=ヴァイス。絶望の村のすぐそばにあるヴァイス魔国の女王。僕との関係は、僕を妹のように可愛がってくれているんだよ」
「その魔王に危険はないのか?」
「危険ってのは、どういう事を言うの? それによって答えが変わるね。例えば、強さで危険度を示すのであれば、僕達ではどうにもならないくらい危険だと思うよ。僕はアリ姉より強い人を見た事が無いからね」
「ヒヒイロカネであるお前達よりもか!?」
僕は静かに頷く。
オルテガさんは驚いているが、これは事実だ。
アリ姉は僕の前ではいつも優しいし、ぽわぽわしているけど、魔法の腕に関しては、武闘派が多いヴァイス魔国内でも右に出る者はいない。魔法だけが強い人はたまにいるけど、アリ姉の場合、得意な魔法の一つに身体強化の魔法もある。つまり接近戦も出来るという事だ。
だから、強さで危険度を見るのなら、危険極まりないだろう。
「逆に、強さではなく、支配欲で危険度を図るのならば、危険度は極端に低いよ。ヴァイス魔国は魔族の国ではあるけど、亜人や人間も数多く暮らしているからね。僕のお母さんも、幼馴染の女の子も、ヴァイス魔国で仕事をしているからね。聞いた話だと、幼馴染はヴァイス城でアイドルのような扱いを受けているらしいし」
「話を聞いているだけでは、信じられない話なのだが、敵に回らないのなら、今は放置でも良さそうだな」
そうだね、これで疑われるのなら、僕はどうしようもないからね。捕まるのは嫌だから、僕は何としてでも魔大陸に帰らせてもらうよ。
ここまで話すとよいやみが何かを納得するような顔になった。
「魔王に可愛がられて、立派な王を知っているから、リュウトが魔王を名乗った時にあれ程怒ったんすね」
「リュウト? 誰だ?」
そう言えば、オルテガさんとリリアンさんにはリュウトの事を説明したけど、バトスさん達の記憶からはリュウトは消えてしまっているんだったね。
これはバトスさん達にも説明した方が良いかな? 僕はオルテガさんに確認だけを取っておく。
「説明する?」
「いや、バトス達にはわしから後で話しておく。それよりもだ。こうやって二組の優秀な勇者が出来た以上、やってもらいたい事がある。緊急クエストと思ってくれ」
緊急クエストか。いつきさんが腕を組み考え出した。いつきさんの頭の中では、報酬の計算を始めているんだろうな。
オルテガさんは報告書を二つ取り出し僕達に配る。
報告書には、突如現れた謎の塔の調査、人魔王城の調査、と書かれていた。
「まず、お前達は知らないかもしれないが、ここから北西に行ったところに大きな森がある。そこは低級の魔物しかいない長閑な森だ。その森に突如、謎の塔が建った。その調査をして欲しい」
「北西と言えば、森の近くに『カーム』という村がありましたね。何度か商談の為にお邪魔した記憶があります」
「え? そんな長閑な村にいつきさんが商談に行くって、何かいい儲け話でもあったの?」
そうでもなきゃ、いつきさんがそんな何もない村に、わざわざ自ら出向いてまで行くとは思えない。
「当然、あの村の住民にも確認を取ってみたのだが、村人の誰もが、突如現れたと言っていた。ギルドからも何組かの冒険者に調査を依頼しているが、そこでも奇妙な報告が上がってきている」
「奇妙……ですか?」
「あぁ、ギルドから送った冒険者では、一階部分も攻略できなかったそうだが、その塔の一階には、スケルトンが多いらしいのだ。が、浄化の灰を使っても、ドロップ品が何もないらしい。それどころか、倒した瞬間に砂になるそうだ」
ん? その現象、見た事がある。
えっと……、あ!! リュウトの時だ!!
アレは魔物変化症の症状だったけど……そこのスケルトンも魔物変化症にかかった人間……なの? と、言う事は、リュウトに魔物変化症の薬を与えた何かがいるって事?
僕と同じ疑問をいつきさんも持ったらしく、僕の顔をジッと見ていたので、僕も頷く。
「で? 僕達がこの塔の調査に行けばいいんだね」
この緊急クエストの横に『黒姫一行』と書かれている。
「あぁ、頼めるか? ここから馬車で一週間はかかる道のりだが、その分の報酬を払う」
僕がいつきさんに視線を移すと、軽く頷いてくれる。
「分かったよ。明日にでも出発するよ」
「頼んだぞ」
オルテガさんは書類をめくり、バトスさん達への依頼を説明する。
バトスさん達は、人魔王がいると言われている城へと、調査に行くらしい。
はる婆ちゃんは、「ヒヒイロカネの勇者に行かせなくていいのかい?」と聞いていたが、オルテガさんは「ヒヒイロカネの勇者とはいえ、こいつ等はまだ新人の類だ。こういう危険な任務は経験豊富なパリオットの方が安心できるんだ」と言っていた。
さすがに、数か月の僕達よりも、バトスさん達の方が信頼はあるだろう。それは仕方が無い。
話し合いの終わった僕達は、拠点に帰った。
そう言えば、帰る前にバトスさんにいつきさんが何かを渡していたけど、あれは何だったんだろう?
「いつきさん、バトスさんに何を渡していたの?」
「あぁ、通信用の魔宝玉ですよ。もしもの事があったのなら、連絡手段は必要でしょう?」
「そうだね」
いつきさんは、いろいろな事を想定して動いているんだな。僕も見習わないと。
次の日の朝、馬車を手配していないので、いつきさんに聞いてみた所、とんでもない事を言い出した。
「馬車で移動するのは面倒なので、転移魔法で行きますよ」
え? 転移魔法!?
だ、誰が使うの?




