2話 ヒヒイロカネの勇者
「まさか、人身売買をしようとしていたお嬢ちゃんが、黒姫だったとはな」
バトスさんが笑いながらそう話す。なにもこんな所でそんなことを言わなくてもいいのに。それにあれはちゃんと理由があったんだ。
しかし、その売られかけていた張本人が思いもよらない事を言い出した。
「みつき、そんな恐ろしいことを考えてたっすか?」
いや、売られかけていた張本人が何を言っているのか。こいつ、もう忘れているのか?
僕はよいやみをジト目で睨む。よいやみは僕が何故睨んでいるのかが分からないのか、首を傾げている。
「しかし、はるから聞いていたが、この子が俺より強いとはな。とても信じられんが、とても面白くもある」
え? 今なんて言ったの? 誰が誰より強いって?
今の一言で、僧侶のルルさんが物凄い目で僕を見ているんだけど?
いや、戦士であるよしおさんも僕をガン見しているんだけど!?
「あははー。ただの村娘がひょんなことから勇者になっただけなのに、英雄であるバトスさんよりも強いわけがないじゃない」
僕は誤魔化すが、はる婆ちゃんは不敵な笑みを浮かべている。そして、さらなる爆弾を落としてくれた。
「オリハルコン以上のパーティが何を言いよるかねぇ。しかし、黒姫ちゃん一人ではなく全員が恐ろしいのぉ……」
な、なんでそんなこと言うのかな!?
僕達はいたって普通のパーティだよ!!
「何故そう思う?」
オルテガさんが、とても面倒くさそうにはる婆ちゃんに聞く。
この反応は、聞くまでもなく分かっていると、言っているようなモノなんだけど。
「なんだい? ギルマスとサブマスのお前達なら知っているだろう? この子達のランクと称号は調べてあるんだろう?」
「いや、それは調べているが……」
「ならば、もう隠す必要もあるまいよ。ゆづきの嬢ちゃんも、ようやく懐く相手を見つけたようじゃしな」
隠す? それにゆーちゃんがどうしたって?
まさかと思うけど、僕達の中に犯罪者がいるとか!?
「みつきの人身売買はそんなに酷かったんすね。あしらは犯罪の片棒を担がされるところだったっすか!?」
「そんなことしとらんわ!! 大体、僕が人身売買の事を注意されたのは、あんたを売ろうとしたときだからね?」
「え? あしを?」
よいやみは少し考えた後、僕達が出会った日の事を漸く思い出したらしく「あぁ!! あの時っすか!? ってか、あの時、あしを売ろうとしてたんすか!!? なんて酷い奴なんすか!!」「そうだねぇ~。僕のお財布が空になるまで食い尽くした人が何をほざくんだろうね~」と僕達が言いあうのをいつきさんが止めた。
「はい、じゃれ合うのはそこまでにしてくださいね。はるさん、私達はこのようなパーティですよ? 恐ろしいとはどういう事ですか?」
はる婆ちゃんの目が不思議な色に変わる。その目を見たいつきさんが「魔法の眼? いえ、少し違いますね」と呟いた。
魔法の眼は聞いたことがある。確か、その眼で見ると対象の強さを測る事の出来るらしい。そう考えたら、この婆ちゃんは凄いんだな。
「魔法の眼は、訓練次第で使用可能とは聞いていましたけど、はるさんの眼は少し違うようですね」
「そうだよ。わしの眼は魔法の眼を昇華させた『魔導の眼』というモノでねぇ、女神の魔宝玉と同じモノを見ることが出来る。その結果がねぇ……」
そう言って、はる婆ちゃんはオルテガさんを見る。オルテガさんも何か諦めたような顔をして、軽く頷いた。
「まずは、この国で英雄と呼ばれたバトス率いる『パリオット』の女神ランクを言わせてもらうとねぇ……」
ルルさんとよしおさんはミスリル。はる婆ちゃんとバトスさんがオリハルコンということだった。
「婆ちゃん、そんなに凄かったんだね」
僕がそう言うと、はる婆ちゃんは少し呆れた顔になった。ボク、何か変な事言ったかな?
「今から『黒姫一行』の女神ランクを言うけど、あんたらこれを聞いてもそう思うのかい? その前に二つ名の事を教えておこうかね」
二つ名とは、冒険者の栄誉ともいえるものだそうだ。
冒険者や勇者が二つ名を得るには、二つの方法があるらしい。
一つは人々によって広まるということ。
例えば、よしおさんは『不屈の重戦士』という二つ名を持っているが、これは、よしおさんが、今の奥さんにアタックし続けて、断られ続けたが、諦める事無く何度もアタックし続ける姿を見た冒険者達が、からかい半分で呼び始めて広まったらしい。しかし、その後よしおさんに根負けして、結婚した事から、からかいが憧れに変わってしまったそうだ。この話の時、よしおさんの顔が赤かった。
二つ目は、女神の魔宝玉に称号として書かれているモノが広まる場合だ。
バトスさんの場合がそれらしく、称号が『アロン王国の英雄』だそうだ。
それで、僕の場合なのだが、『黒姫』も称号から広まったらしい。広めたのは、はる婆ちゃんらしいけど。
で、はる婆ちゃんが僕達を調べてくれた結果。
みつき ランク:ヒヒイロカネ 称号『黒姫』『いまだに悪あがきをする真なる勇者』
ゆづき ランク:ヒヒイロカネ 称号『無慈悲な救世主』『無邪気な最終兵器』
よいやみ ランク:オリハルコン 称号『破壊姫』
いつき ランク:オリハルコン 称号『強欲の聖女』
ということらしい。
いや、突っ込みどころが満載なんだけど?
前にも言われた事があるけど、そもそもヒヒイロカネって何?
称号にしてもおかしなものばかりだ。
ゆーちゃんの無邪気は分かるけど、最終兵器って何!? それによいやみの破壊姫って!? 女の子なら姫なの!? いや、見た目はお姫様みたいに美人さんだけどさ……。僕がよいやみを見ると、よいやみは目を逸らす。なんで?
いつきさんの強欲の聖女は……納得だね。
僕に至っては、ただの悪口じゃないか!?
「はる婆さんがハッキリ言った以上、ちゃんと説明しておいた方が良いな。みつき、ゆづきの二人のヒヒイロカネというランクだが……」
ヒヒイロカネというのは、オリハルコン以上のランクだそうで、王族と一部のギルマスやサブマスにしか知らされていない秘匿の情報だそうだ。
ってか、秘匿の情報を、人の称号を言いふらした婆ちゃんが持ってていいのだろうか?
しかしだ、そんな大層なランクが何故、平凡な僕や可愛いゆーちゃんについたのだろうか?
僕が、いろいろ考えているといつきさんが話を進めだした。
「まぁ、称号については言いたいこともありますが、今は良いでしょう。ギルドマスターであるオルテガさんが、わざわざ私達とバトスさん達を呼んだのには、顔合わせよりも理由があるでしょう? その事を話して欲しいのですが……時は金なりとも言いますしね」
いつきさんがそう静かに言うと、オルテガさんにが頭を掻き始める。
「そうだな。顔合わせの意味もあったのだが、ようやくバトスと同等以上の勇者が現れた。人魔王との戦いだが、これを機に一気に終わらせたいと考えている。今まではどうしても防戦一方になってしまっていたからな」
「人魔王?」
初めて聞く名だ。
アリ姉も魔王だけど、人魔王とは呼ばれていない。
そう思っていたのだが、ここでよいやみが余計な事を言い出した。
「人魔王っすか? それはみつきの知っている魔王とは違うんすか?」
本当にこいつは余計な事を言うなぁ……。
よいやみのせいで、オルテガさん達が凄い顔になっているじゃないか……。
僕は、深く溜息を吐いた。
感想やアドバイスなどがあればぜひよろしくお願いします。
新作始めました。
『どうか命だけはお助け下さい!! 勇者様!!』というタイトルです。
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