1話 英雄と黒姫
大幅に書き直しました。
リュウトのリザードマン強襲事件から、二週間が経った。
リザードマン達の今後については、国が動いてくれるので僕達の役目は終わった。
アロン王国は、人間の国なのでその辺りを心配したが、リリアンさんが言うにはこの国の王様は亜人に偏見がないから安心とのことだった。
確かに、鬼族の時も人間を優遇することもなく、ちゃんと平等に動いてくれたので信用できるだろう。
僕達と言えば、いつきさんが加入して、拠点を冒険者ギルドの宿舎から、いつきさんのお店に移すことになった。
今までの宿舎では、防犯用の結界のようなモノが張られているとはいえ、何処で聞かれているのかがわからず、緊急クエストの話し合いをしにくいのは事実だった。
事実、リザードマンの時も、何処から情報が漏れていたのかがわからなかったのだ。
僕達パーティは緊急クエストの割合が多いことや、今後のことを考えて、いつきさんが部屋を用意してくれたのだ。
その結果、ゲンさん夫婦は別邸に隠居することになった。そこは申し訳なく思っているんだけど、ゲンさんは「これからは夫婦水入らずで仲良くするさ」と笑っていた。
ただ、いつきさんのお店を拠点にするために、僕達も週に一回、それぞれが店番をすることを約束させられた。お給金まで出るから、僕としてはありがたいのだけどね。
ただ、それも最初の一回で僕一人でやることが固定された。僕としては、元々、勇者なんてやりたくはなかったから問題はないのだが、他の二人は嫌だったらしく、よいやみは気に入らない客が来ると殴るし、ゆーちゃんは基本寝るから、いつきさんが二人に店番をさせることを諦めたのだ。
しかし、いつきさんも人気なのだが、この店で一番人気の店番はよいやみだ。最近は殴られてお礼を言う変態さんまで増えている。いつきさんとしてはお金になればそれでいいので、よいやみにも店に立たせている。もちろん一人じゃなく、僕がセットになってだ。
パーティとしての活動だが、主な戦闘クエストは僕とよいやみで行い、緊急クエストとなると四人で行くことになっている。
ゆーちゃんは基本お店でお留守番だ。一緒に行きたいのだが、確実に問題を起こすので、いつきさんが止めている。
クエスト報酬の交渉はいつきさんが担当してくれている。おかげで最近は収入が多い。ギルドから恨まれていないと良いけど……。
いつきさんが僕達に向き不向きな仕事を選んでくれるので、僕達パーティはクエスト達成率百パーセントだそうだ。
これが凄いのかどうかは分からないけど、僕達パーティは随分と有名になってしまった。
僕はクエストがあろうとなかろうと、一度は冒険者ギルドに顔を出すことにしている。
いつも決まった時間にギルドに行き、無料のコーヒーを飲みながら、慌ただしくクエストを奪い合う冒険者を見るのが日課だ。
趣味が悪い? 失礼な。
僕があの騒ぎの中に入って、良いクエストを受けようとしても、もっと難しいのをやってくれと言われ、却下されるのだ。
だから、僕としては、こうやって眺める以外にすることが無いのだ。
じゃあ、何故ここにいるのかって?
僕が依頼を受ける時は、冒険者のみんながいなくなってから、ラビさんが、直接依頼書を持ってくることが多い。
そうだ、だからここで待っているんだよ。これでいいや。
僕は、今日も冒険者ギルドに向かっていた。
今日はパーティ活動自体もオフなので、いつきさんはお店のお仕事に、よいやみとゆーちゃんもふらっと何処かへと言ってしまった。
僕は暇なので、ギルドで一日時間を潰そうと考えたのだ。また、ラビさんとお喋りでもしてよう。
「おや? 黒姫ちゃんじゃないかい?」
だーかーらー、僕を黒姫と呼ぶな。
僕は声をかけてきた人物を睨む。
ん?
「あの時の婆ちゃん!」
「久しぶりだねぇ。今から冒険者ギルドへ行くのかい? もし行くのなら、一緒に行かないかい?」
え?
こんな婆ちゃんが、荒くれ者が多い冒険者ギルドに何の用だろう?
もしかして、依頼かな?
「婆ちゃん、依頼を出しに行くんなら、僕が格安でやってあげるよ? あんな荒くれ者が多いギルドに行ったら、寿命が縮むよ?」
「軽く失礼な事を言うねぇ。わたしゃ、こう見えても冒険者じゃよ」
「えぇええええ!! ば、婆ちゃん、冒険者だったの!?」
こ、こんな、婆ちゃんが冒険者なんて……。クエストを受けられるの?
でも、伊達に歳喰ってないだろうから、もしかして、有名なのかな?
まぁ、いいや。
「じゃあ、一緒に行く?」
「あぁ」
僕は、お婆ちゃんと色々話をしながら、冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドの入り口でお婆ちゃんと別れ、勇者専用受付の近くにある、無料コーヒーを淹れに行く。
すると、そこにはよいやみとゆーちゃんがいた。
「みつき、やっと来たっすか?」
「え? どうしてよいやみがギルドにいるの? 今日はオフだよ?」
「どうしてって、いつきから聞いてないんすか?」
え? 何を?
「いつきから、今日はギルドで話があるから、集まってくれと言われてたんすよ」
「僕、聞いてないよ?」
え? 何? 虐め? 何それ酷い。
「みつきさんは、わざわざ言わなくても、この時間は確実にここにいるでしょう?」
「いつきさん!」
いつきさんが受付カウンターの奥にいる。どうして?
もしかして、冒険者ギルドまで牛耳ろうとしているの?
「何やら失礼な事を考えているみたいですが、違いますよ。皆さん、奥の応接間に相手様方が待っています。行きますよ」
「応接間? また、緊急クエスト?」
「今日は違いますよ。ギルドマスターが私達とこの国の英雄を会わせたいそうです」
英雄?
あぁ、確か二大勇者と言われている英雄バトスさんか。
そう言えば、会ったことないな。
それに、ギルマスもリュウトを力ずくで連れて行った時に、チラッと見ただけだ。
僕達が応接間に入ると、リリアンさんとギルマスと思われる老人、それに四人の冒険者の人が座って……え?
「婆ちゃん!?」
「また会ったねぇ。黒姫ちゃん」
どうして、冒険者の婆ちゃんがここに?
「なんだ? すでに知り合いだったのか? まぁいい。黒姫一行も座ってくれ」
え? どういうこと?
僕が困惑していると、いつきさんから座るように言われた。
リリアンさんが全員分のお茶を出してくれ、ギルマスが話を始めた。
「まず、私を知らない者もいるだろう。私が冒険者ギルドのギルドマスター『オルテガ』だ」
そして、それぞれの紹介をしてくれた。
まず、身体の大きな人がよしおさん。顔は優しそうに見えるが、とても強い戦士だそうだ。
次に、ピンク色のウエーブがかかった、長い髪の僧侶のお姉さんがルルさん。ちなみに巨乳の美人さんだ。
そして、僕のことを黒姫と言いふらしたお婆ちゃんが、賢者はるさん。あの嫌味っぽく笑っているのが何か腹立つ。
最後に金髪をオールバックにした強そうなおじさん。この人が英雄、勇者バトスさんだそうだ。
この人を見て、僕は首を傾げた。
この人……会ったことがあるのかなぁ? どこかで見た記憶があるんだけど?
そう思っていたのだが、バトスさんの言葉で僕の疑問は晴れた。
「久しぶりだな。人身売買をしようとしたお嬢ちゃん」
あ!!? 思い出した。
この人は、よいやみを売ろうとしたときに注意してきたおじさんだ!!
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