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クジ引きで勇者に選ばれた村娘。後に女神となる。  作者: ふるか162号
一章 勇者編

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25話 勇者黒姫一行


 勇者リュウトの死によって、リザードマンへの脅威は無くなった。

 だけど、魔物変化症にかかっていたとはいえ、王国所属の勇者を殺してしまったのだ。

 僕はともかくよいやみには何かの罰が下るんだろうか。その場合はゆーちゃんとよいやみを連れて魔大陸に帰ろうかと思っていたのだが、いつきさんが大丈夫だというので、僕達は王都へと帰ってきた。

 さすがにその日はもう暗かったので、宿舎に帰らず、いつきさんの家に泊まることになった。 


 次の日、今回の緊急クエストの報告をするために、僕達はリリアンさんを訪ねる。

 受付にいたラビさんにリリアンさんを呼んで貰う。

 暫くすると、リリアンさんが奥の部屋から出て来た。


「リリアンさん、戻りました……」

「お帰りなさい。って、どうしていつきちゃんもいるの?」


 あ、リリアンさんはいつきさんが聖女って知らないんだ。

 僕がそのことを伝えようとするといつきさんに止められる。


「そのことで、少し込み入った話があります。奥の応接間で話をしませんか?」


 いつきさんがそう話したことにリリアンさんも少し驚いたみたいで、すぐに真面目な顔になり「何かあったのね」といつきさんに聞き返す。


「はい。私がみつきさん達と一緒にいることも含めての話です。リリアンさんには初耳(・・)のこともあると思いますので」


 初耳か……いつきさんが聖女ってことを知らなそうだからね。そのことだろう。


 リリアンさんに連れられ、冒険者ギルド受付奥にある応接間へと通される。そこには60歳くらいの男性が座っていた。


 この人は誰だろう? というか、僕の知っているじいちゃんくらいの歳の人は、どうしてガタイが良いじいちゃんばかりなのだろう?

 この男性も髪の毛は白髪なのだが、筋肉の鎧を着ているかのように大きかった。正直、外にいる冒険者なんかよりも遥かに強そうだ。

 リリアンさんがこの男性を紹介してくれる。


「この人が冒険者ギルド、アロン王国首都ナイトハルト支部、ギルドマスターのオルテガさんよ」


 この人がギルマスなんだ。

 そういえばこの人、あの時リュウトを連れて行ったお爺さんだ。


「何度か目にはしているが、話をするのは初めてだな、ヒヒイロカネ(・・・・・・)の勇者よ」


 は? ヒヒイロカネ? なんのこっちゃ?


「ちょっ!? ギルマス!! そのことをみつきちゃんに話していいんですか!?」

「ん? もはや知っていると思っておったが、知らなんだのか? そちらも久しぶりだな、聖女いつき様」


 ヒヒイロカネとかいう意味の分からないことは、今は良いとして、ギルマスであるオルテガさんは、いつきさんが聖女ということを知っていたんだ。


「様はつけなくても良いですよ。私個人は只の商人です」


 やっぱりリリアンさんは。いつきさんが聖女だということを知らなかったんだね。物凄く驚いている。


「リリアン。驚いているところ悪いが、始めてくれ」

「あ、はい」


 ギルマスが、いつきさんの正体をあっさりバラすから、話が始まらなかったのに……酷い言いがかりだ。

 リリアンさんが、僕達以外の冒険者が調べた『リザードマンに関する報告書』を見せてくる。

 そこには『人語を話すリザードマンがいた』という報告だったり、『あちらから襲ってくることはなく、言葉が通じる』と様々な報告があった。

 そこにはシーグルさんさんの報告もあった。

 ただ、不思議なことに『正体不明の男がリザードマンを殺していた。だが、勇者黒姫一行の活躍のおかげで、リザードマン達は救われた』と書いてあった。

 はて? シーグルさん達もリュウトのことを知っているはずだ。なんで、正体不明としているんだろう?


「で? リザードマンの存在は確認できたの?」


 僕が答えようとすると、いつきさんに肩を叩かれ止められる。


「私が説明します。そうじゃないと、話がややこしくなってしまいますので……」


 どういうことだろう?

 あがり症の僕でも、知った顔のリリアンさんにならまともに話すことが出来る。それなのに……ややこしくなるとは失礼だ。


「ちょっと説明が複雑になるので、よいやみさんとゆづきちゃんも、口出ししないようにお願いしますね」

「分かったっす」「りょ!!」


 二人共、素直に聞く。

 いつきさんには反抗ばっかりしていたゆーちゃんですら素直に従っている。なんで?


「実は……」


 いつきさんは、まるで最初っから見ていたように、リザードマンの集落で起こったことを説明する。

 その説明事態は正確だったのだが、一つだけ腑に落ちないことがある。

 というよりも、いつきさんもリュウトの名前を出していない。リュウトのことを『勇者』と呼ぶのに徹している。

 リリアンさんとオルテガさんはリュウトを知っているはずだし、リュウトを庇う理由もないはず、どうして名前を出さないの?

 僕が疑問に思っているのと同じように、よいやみも不思議そうな顔でいつきさんを見ていた。


「……で、その魔物に変化した勇者を、みつきさんが追い詰め、よいやみさんが討ったと、いう訳です」


 説明事態は、起こったことをそのまま説明しているだけなので、問題は無い。

 しかし、リリアンさんもオルテガさんも、やはり勇者の存在に疑問に思っている様だ。


「で? その勇者とは誰のことだ?」

「えぇ、そこまで素行の悪い勇者ならば、冒険者ギルドの方でも把握はしているはず。誰なの?」


 誰って、ここまで素行が悪いのはリュウトしかいないのに、なんでそこに辿り着かないの?


「勇者リュウトです」

「え?」「誰だ、それは?」


 え? どういうこと?

 ギルドにいる二人は知っているはずだ。でも二人は知らないと言う。

 リュウトという勇者の汚点の存在を消してしまいたいということ?


「ねーねー。りゅうとってだれ?」


 ゆーちゃんまで!? どうなっているの!?

 僕とよいやみが戸惑っているのを、リリアンさんが怪訝な目で見ている。

 な、なんで!?


「みつきさん、よいやみさん。今のこの状況に戸惑っていると思いますが、これが神罰の結果です」

「「え!?」」


 いつきさんが、リュウトに下された神罰のことを説明してくれた。


 本来、魔物変化症にかかった者は肉体が崩壊するだけで、魂までの崩壊はしないとのことだ。

 しかし、リュウトは女神セリティア様の大事な巫女である少女を強姦し殺した。

 怒り狂ったセリティア様が、リュウトの魂に、ある仕掛けを施したそうだ。

 その仕掛けとは『肉体が死に至った時に、魂を一緒に崩壊させる』だったそうだ。

 これが神罰。神というのはこんな恐ろしいことが出来るのか……。


「セリティア様はたいした力を持っていませんが、神なので神の呪法というのを使ったらしいですよ」


 ただ、女神セリティア様からはこのことは誰にも言うなと口止めされたらしい。

 

 今、言ってるよね……。


「この神罰の神に恐ろしいところは、魂が砕けて消えてしまうと、生まれ変わることもなく、ただ消えてしまいます。そして、消えるというのは人々の()()からも消え去ってしまうのです。ただ一つの例外を除いて……」

「例外?」

「はい、崩壊を目にした者の記憶には残ります。記憶に残すこと。これがあの場にいた本当の理由になります。セリティア様のしでかしたこと(・・・・・・・)を記憶にとどめておく必要がありますから」


 そうだったのか……。だから僕とよいやみの記憶に、リュウトが残っていたんだ……。

 となると、リュウトの被害に遭った人達はどうなるんだろう? 生き返るのかな?


「いつきさん、リュウトに色々な目に遭わされた人、例えば殺された人なんかはどうなるの?」

「あくまで消えたのはリュウトの存在のみです。彼の犯した罪、それの被害者が消えることはありません」


 それなら、生きている被害者はどうなるんだろう?

 今の話だと、犯人に心当たりもないのに、リュウトにされたことだけが現実として残る。それって、思っている以上に苦痛なんじゃ……。

 僕がそう呟くと、いつきさんはリリアンさんの方を向き。


「だからこそ、ギルドの協力が必要だと思い、こうしてリリアンさんに別の部屋で話を聞いて貰おうと思ったのですよ。もしあの場でこの話をした場合、たまたま被害に遭った冒険者がいた場合、発狂しかねませんからね」

「確かに、いつきちゃんの話を聞く限りじゃ、その被害に遭った冒険者達の心のケアが必要だものね。そこは任せておいて」

「ありがとうございます」


 リザードマンについては、国の方に報告をするそうだ。

 この国の国王様は、亜人に偏見を持たない人だそうだから、安心だとリリアンさんもオルテガさんも言っていた。


 話が一段落したところで、いつきさんがリリアンさんにこんなことを言い始めた。


「リリアンさん、私も冒険者登録をしようと思っているのですが」

「え!? 聖女であるいつきちゃんが冒険者に!? どうして!?」

「約束しましたからね」


 冒険者登録……? 約束?

 って……。


「えぇええええええ!!」

「どうしたの!? みつきちゃん!!」


 僕が驚くのも無理はないよね。だった、毎日のようにいつきさんを勧誘していたんだから。

 もし、冒険者をやるなら僕達のパーティに入って貰わないと!?

 それに僕の思っている通りの約束だとしたら……。


「い、いつきさん!!」

「はい。言っていたでしょう? 時期が来ればと」

「じゃあ!」

「はい。みつきさんのパーティに加入させてもらいますよ」

「やったぁああああ!!」「えぇええええ!?」「きょひ」


 アレ?

 僕以外の二人から、否定的な言葉が出てきた気がしたんだけど……?


 あ、いつきさんがニコニコとよいやみをジッと見ている。よいやみの顔が青くなっている? こいつ、いつきさんに弱みでも握られているな……。

 

「二人ほど納得していないようですけど、知ったことじゃありません」


 いつきさんがそう言うと、ゆーちゃんは不満そうに、よいやみは青褪めていた。どれだけの弱みを握られているんだ?


 この日、僕達のパーティ『勇者黒姫一行』が本格的に結成された。

 そう言えば、ヒヒイロカネのことを聞くのを忘れていた。

今回で一章は終わりです。

次から二章『人魔王編』です。

感想やアドバイスなどがあればぜひよろしくお願いします。

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