22話 変貌
≪リュウト視点≫
クソっ!! 何なんだ、この魔物は!?
魔物の分際で、武器を使うというだけでも気に入らないのに、あろう事か俺の剣を捌ききってやがる!!
これでも剣技には自信があった。勇者になって十数年、魔法の才能は無かったが、剣を扱うことだけは他の勇者や冒険者よりも長けていた。
だからこそ、冒険者達も俺に何も言えなかったんだ。何か言えば、剣で黙らせてきたからな。
それなのに、この魔物は俺の剣を捌きやがる。ふざけんじゃねぇ!!
「てめぇ!! 魔物なら素直に俺に殺されろ!!」
「ふんっ!! 我々は魔物ではないく、亜人だ。貴様こそ、そろそろ剣を納めたらどうだ? 私に貴様の剣は通用せん。それに……」
「黙れ!!」
通用しないだと? そんな訳あるか!!
俺はこの剣ですべてを黙らせてきた!! 両親もマリナも冒険者共もだ!!
ふざけんな!! ふざけんなぁあああ!!
横に振った剣が、トカゲの魔物の肩を切り裂く。
手応えアリだ!! なんだ、当たるじゃねぇか!?
これでてめぇは痛みで正常な動きは出来ないは……。
アレ? なんで血が出ねぇんだ?
俺が不思議そうに魔物の肩を見ていると、魔物は槍で俺を突いてくる。
俺は何とか避けることが出来たが、何故攻撃が通用していないんだ? まさか、こいつ不死系の魔物か!!?
マジかよ!!? 不死系には聖水などを使わねぇと殺しきれねぇ!!
「私を斬れたと思ったか? 甘いな。私の皮膚は他のリザードマンよりも硬い。貴様のような脆弱な剣では私を傷つけることは出来んわ!!」
な!!? 単純に皮膚が硬いだと!!?
それに俺の剣が脆弱な剣だと?
俺の剣が……脆弱だとぉおおおおおお!!
俺の中で何かが弾けた気がした。
何だ? 体が熱い!!? 焼けるようだ!!
「がぁああああああああ!!!」
な、なんだ!!? 体が!!? あぁあああああああああ!!
「な、何が起きている!?」
≪リザードマン族長視点≫
目の前の勇者と名乗った男が急に苦しみだす。一体なんだ? 私は魔力を感じ取る力はそこまで強くない。だが、勇者の体から禍々しい魔力に似たモノを感じる。
っ!!?
呆けている場合ではない。何とか生かして捕らえて罪を償わせる予定だったが、こいつをここで殺しておかねば仲間が喰い殺される。
え……?
……ちょっと待て。
何故私はこいつに『喰い殺される』と思った?
相手が猛獣の類ならば、喰い殺される恐怖を感じるのも分かる。だが、こいつは勇者のはずだ。喰い殺してくることは無い。
しかし、今感じたモノは喰い殺される恐怖だ。
頭ではそんな筈は無いと思えるのだが、ならば、この言い知れぬ不安は何だ!?
私は勇者を殺す為に、槍を構えるが、足が前に進まない。どういうことだ? 足が小刻みに震えている?
動け!! そう思っても動けない!? 何故だ!!?
気付けば奴の体が、一回り大きくなっている。目も金色に光っている!?
そういえば聞いたことがある。
人間には身体能力を強化する魔法があると……。これがそうなのか? それにしては、奴が意識的にやっているとは思えない。それどころか苦しんでいるようにも見える。
勇者の服が裂けた……ちょっと待て!!? アレ・・はどういうことだ!?
奴の皮膚が……アレは龍鱗ではないのか!?
私の皮膚は龍鱗だ。だからこそ、奴の斬撃も効かなかったのだ。奴は人間だろう? 何故、龍鱗を!!?
「ぎゃあああああああああああ!!!」
な……な……。
私は心の底から怯えてしまった。逃げるのなら今しかなかった。
だが逃げられなかった。私は……アイツから見て、餌にしか見えないのだろう。
そこからは一瞬だった……。今、元勇者は私の肩に噛り付いている。人間の顎の力では、リザードマンの肉は噛み切れないはずだが、奴は私の肉を喰い始めている。
すでにそこに恐怖は無い……私は喰われるのだろう……。
抵抗は意味がないと思ってしまった。もうすでに四肢の全てを引き千切られている。痛みは何故か無い。
意味が分からない……これは一体何なんだ? 誰か……リザードマンを……助け……てくれ……。
≪みつき視点≫
族長とリュウトが戦っている場所は、リザードマンの集落があった湿地帯の西側に位置するそうだ。
リザードマン達の話では、その場所に滅多に人が寄り付くことは無いらく、族長はこれ以上の被害が出ないようにリュウトをそこへと誘導したようだ。
話を聞く限り、族長が負けると思えないが……。
だけど、なぜか嫌な予感がする
具体的に何が起こるかは僕には分からない。根拠もない。ただ、そう思うだけだ。
「みつき!! あそこを見るっす!!」
よいやみの指差す方向を見る。そこにはリザードマンの族長を喰う、勇者とは思えないモノがいた。
「みつき……アレは何すか?」
「多分リュウト。恐らくだけど、魔物変化症にかかっている」
魔物変化症。
ヴァイス城で読んだ本に書いてあった。
はるか昔に実際に行われた禁断の研究の結果生まれた病だそうだ。
しかし、この病は自然発症するモノではなく、人為的に作られた薬によって引き起こされると書いてあった。
この薬を飲んでしまうと、身体が魔物化して理性を無くすらしく、目の前にいるのは既にリュウトではなく魔物だということだ。
誰かに飲まされたのか? 勇者に拘っていたリュウトが自ら飲んだ?
そもそも魔物変化症の薬は、はるか昔に禁止されているはずだ。一体誰が用意した?
「みつき、どうするっすか?」
よいやみが聞いてくる。
おそらく僕かよいやみ、どっちが戦ったとしても負けることはないだろう。
「よいやみ、ここは僕がやるよ」
「ん? そうっすか? 無理ならお姉さんが変わってあげるっすよ?」
お姉さん? もしかして僕を幼く見ているのか? それなら失礼だ。僕はこう見えて十六歳だ。
僕がそのことを抗議するとよいやみは「あしは十九歳っす。だからお姉さんっす」と言って来た。ま、まさか本当にお姉さんだったとは!?
「そのことは後で詳しく聞くとして、リュウトは勇者である僕が倒すよ。もしかしたら、元の姿に戻せるかもしれない」
はるか昔の研究だ。もしかしたら今は治療方法があるかもしれない。
嫌いな奴だが、族長を喰い殺した罪をちゃんと受けさせる必要がある。殺してしまえば、そこで終わりなのだから……。
「よいやみは、もしもの時に備えておいて……」
「分かったっす」
僕は族長を喰らうリュウトの前に立つ。
見た目はまだリュウトだと分かるが、やっている行動は魔物そのものだ。知性があるのかは、今は分からない。
「リュウト。そうやって亜人を貪り食う姿は……魔物そのものだね」
僕がそう挑発してみると、族長を喰らうのを止め睨みつけてきた。もしかして言葉は理解できるのか?
今のリュウトは、赤い色の肌で皮膚に鱗がある。これは龍鱗か?
龍鱗とは、竜系の魔物の皮膚を覆う鎧のような鱗のことだ。確か色で強度が変わると聞いたことがある。
赤色と言えば、大体真ん中ぐらいの硬さのはずだ。
リザードマンの龍鱗は緑なので一番弱い龍鱗となる。しかし弱いと言っても簡単に傷つけられるものではない。
ちなみに、龍鱗の硬さにも個人差があるようで、戦闘が出来るリザードマンということは、族長の龍鱗は硬いのだろう。
地面に食い散らかした跡なのか、何枚かの鱗が落ちている。僕はそれを拾い上げる。
「自分が勇者であることに拘ってたみたいだけど、今は立派な魔物なんだね。欲望のまま動くあんたには相応しいんじゃない?」
さらなる挑発だ。どう来る?
「オ、オレハユウシャダ……マモノジャナイ」
ぎこちないが、まだ話すことは出来るみたいで、言っていることもリュウトのままだ……。
意識があるんだろうか?
「オ、オンナ……、オレノジャマヲスルナ。オレハイマショクジチュウダ」
……。
これは、元に戻らないかもしれないね。
魔物変化症について、前クジ引きでの原因では無理があると思ったので大幅に変えました。
感想などあればお願いします。あと、ここをこうした方が良いよ、というのがあればぜひよろしくお願いします。




