16話 勇者リュウト
あの緊急クエストから二カ月ほど経ったある日、僕達はリリアンさんに呼び出されて、欠伸をしながら冒険者ギルドへと向かった。
「いらっしゃい、みつきちゃん」
僕達の担当のラビさんとも随分仲良くなったものだ。前はよそよそしかったが、今では普通に接してくれる。
「で? 今日の呼び出しって何? ついに追い出される日が来た?」
「ははは……」
あれからも、よいやみの顔のせいでいちいちトラブルを起こしているので、ギルマスが怒っているらしい。
とはいえ、よいやみは勿論のこと、僕達にはどうしようもないと思うんだけどな……。そういえばギルマスに会ったことはないな。
僕とラビさんが談笑をしていると、後ろから目が痛くなるような色が見える。眩い限りの金だ。
僕が嫌々振り返ると、頭の先からつま先まですべて金色の爽やか系の馬鹿が立っていた。クレイザーである。
クレイザーの年齢は22歳と聞いたが、こんなに頭が少なそうなのに僕より年上というのには驚いた。
「やぁ!! みつきちゃん達!! クエストかい?」
目に優しくないクレイザーが現れたことで、よいやみが一気に不機嫌になる。
「怪人煌めき馬鹿が現れたっす」
「よいやみちゃん、相変わらず辛らつだね!!」
この二か月で、よいやみに結構酷いことを言われているのだが、クレイザーは折れない。ウザい。
こいつがここにいるということは、まさかと思うけど、こいつと一緒に仕事じゃないよね? え? 嫌なんだけど……。
「そんなに露骨に嫌な顔しないでくれるかなぁ」
あ、顔に出てたみたいだ。
クレイザーは少し気まずそうな顔をした後、首を振る。
「残念ながら、僕達は別の仕事だよ。ラビちゃん!! クーガさんいるかな? 今日の打ち合わせに来たんだ」
「あ、ちょっとお持ちくださいね」
ラビさんが受付の奥に行ってしまう。クーガという人が、クレイザーの担当だそうだ。元々は若い女の子だったのだんだけど、クレイザーがしつこくナンパしてくるので屈強なクーガさんになったらしい。
「で? みつきちゃん達も仕事かい? 僕はクーガさんに呼び出されたんだ」
「僕達もそうだよ。ただ、リリアンさんに呼び出されたんだけど……」
「サブマスかい? また厄介なクエストじゃないのかい?」
「多分ね……」
冒険者ギルドのサブマスターのリリアンさんが指名してくるということは、大体が緊急クエストだ。
一応勇者なので、優先的にこういう仕事を受けなきゃいけないらしい。クレイザーも呼び出しを喰らってるみたいだから、クレイザーも同じような立場なのだろう。
僕達が、勇者専用の受付前で話し込んでいると、背後から怒声で「おらぁ!! だべってんならどけや!!」と怒鳴られる。
流石にカチンときたので、言い返すことにした。
声に少し驚いたが、その声の方を見ると、ガラの悪そうな男が喚いていた。
年齢はクレイザーよりも上といったところだろうか。緑の髪の毛をオールバックにした、いかにも厳つそうな男だった。
こういう感じの奴って、大体が口だけなんだよね。
「僕の番で取り込んでるんだよ。いい大人なんだから、黙って待ってなよ」
「あぁ!!? 勇者である俺に意見するってか!!?」
勇者専用の受付に並んでいるんだから、勇者なのはわかるけど、それって僕達も同じ勇者なんだから、通用しないんだけどなぁ……。
「僕もクレイザーも勇者だけど? 何か文句でもあるの?」
「あぁ!!? てめえみたいなクソガキが勇者だぁ!!? なめてんのか!!」
こいつムカつくなぁ……。クレイザーがやけにおとなしいけど、って、顔が真っ青だ。
「何の騒ぎ!?」
怒鳴る勇者の声を聞いて、奥の部屋から筋肉の鎧を着たような、大柄のお爺さんと、リリアンさんが慌てて出て来た。
「またお前か!! 勇者リュウト!!」
勇者リュウト? あぁ、こいつが冒険者の中でも評判が最悪な、勇者リュウトか……。
この二か月間、冒険者ギルドで仕事をしていると、冒険者達から様々な話を聞くことが出来た。
その中の一つに、冒険者達は勇者を嫌っているという話を聞いた。
その中でもクレイザーのような性格の明るい馬鹿や、この国の英雄、勇者バトス、いつ勇者になったかもわからないけど、冒険者達の妹的存在、勇者ユフィーナ、そして新人の僕は比較的嫌われていないのだが、それ以外の勇者は結構嫌われているらしい。
勇者が嫌われる要因は、大体が横暴な性格が原因らしい。
クジ引きで連れてこられたのだから、特別視されているというのも問題で、この国で犯罪を犯す者も多いそうだ。
クジ引きで選ばれた勇者の3割が一度は逮捕されるらしい。
だからか知らないが、捕まっていない勇者の殆どが、二、三カ月で故郷に帰るか、無謀なクエストを受けて死んでしまうらしい。
まぁ、嫌われている勇者の中でも一番嫌われているのが勇者リュウト。
こいつは、女神の魔宝玉に『ミスリル』と評価されたらしく、この国でもミスリルは勇者バトス以来の勇者だと言われていた。
しかし、勇者リュウトは、勇者の地位を理由に女性冒険者と無理矢理、関係を持ったり、弱い冒険者に手を上げたりとすこぶる評判が悪い。
鬼の郷のボタンさんが知っていた勇者もこいつだ。
ボタンさんは鬼族であるという以外は、男の人なら一度は振り返るような美貌とプロポーションの持ち主だ。
勇者リュウトは、この国に取引で来ていた時にボタンさんを襲おうとしたらしい。ボタンさんは強いので返り討ちにしたそうだが、その時も「俺は勇者だぞ!! 殺してやる!!」と叫んでいたそうだ……。
勇者リュウトは、お爺さんに掴まれて、奥の部屋に連れていかれた。
「みつきちゃん。何もされていない?」
「あぁ、大丈夫だよ。あいつ一人で騒いでただけだからね」
リリアンさんに、リュウトのことを聞くと、心底面倒くさそうな顔をしていた。
話を聞く限り、王都でも様々な問題を起こし、城からも注意人物としてマークされているそうだ。
何故、そんな奴を野放しにしているのか? と聞くと、ギリギリ犯罪行為は犯していないらしい。
女性冒険者と無理やり関係を持ったと聞いたけど、それは罪じゃないのだろうか? それを聞いたところ、両者が納得の上でのことなのでということで、罪にはならなかったそうだ。
僕達はリリアンさんから緊急クエストの書類を貰い、いつきさんの店で必要な物を買いに行こうとすると、リュウトが道の真ん中に立っていた。
僕は関わりたくもないので無視をしようとしたのだが、どうやらリュウトは僕達に用事があるようだった。




