15話 勇者黒姫
緊急クエストから一カ月が経った。鬼族の介入であの村も少しずつだが良くなっていくだろう、とリリアンさんが話してくれた。どうやら、国も介入してくれたらしくて、村の経営に詳しい人があの村に派遣されたそうだ。
僕としては、その人が亜人に偏見を持っていないか心配だったのだが、リリアンさんが言うには、この国の中枢の人達は亜人に偏見を持っていないということだ。それなら安心かな?
僕達は、よいやみが正式加入したことにより、三人パーティになった。今も冒険者ギルドに住んでいるのだが、よいやみがバカ騒ぎを起こしたせいで、いつ追い出されるかと冷や冷やしている。
まぁ、よいやみは黙っていればどこかのお姫様みたいに綺麗だからね。勝手にトラブルに巻き込まれていたりする。その結果よいやみが暴れるのだ。正直な話、他の冒険者に注意しろよ、と言いたくなる。
それと、実はパーティに勧誘している人がいるのだが、いつも断られている。
「という訳で、いつきさん。パーティに加わってください」
「嫌です」
……即答された。
僕が勧誘しているのはいつきさん。一ヵ月もこのパーティでクエストをしていると、治療代でクエスト報酬が消えていってしまうのだ。
その一番の原因が、よいやみとゆーちゃんだ。まぁ、僕も良く使うけどね。
よいやみは、どんな魔物だろうと突っ込んでいってしまう。とはいえ、よいやみの強さがあれば、このあたりの魔物に傷を負うことはそうそうない。
だけど、それで納得するゆーちゃんではない。
よいやみに心配する振りをして、難癖付けて『ひーる』を使うのだ。
ひーるによって引き起こされる、状態異常の治療に使う薬草や毒消し草のお金がかかってしまう。
それでも二人が楽しそうだから良しとしているのだが、流石に蓄えが無いのも悲しい。
そこで考えたのが、いつきさんを仲間にすることで、薬草代を浮かせようとしたのだ。
だけど甘かった……。毎日勧誘しているけど、日に日に断り方が雑になっている。
最初の頃は「時期が来れば」と言っていたのに……時期というのはいつ来るんだろう……。今でしょう? え? 違う?
いつきさんのお店を出て、とぼとぼ歩いていると変な婆ちゃんが一人で話していた。
「嬢ちゃんが今話題の黒姫かい?」
何か一人でしゃべっているけど、無視でいいだろう。ボケているのならお家に帰してあげないといけないんだけど……。
「無視するでない。黒姫よ」
そもそも黒姫って誰のことだよ。うるさいなぁ……。
「そこの黒髪のちんちくりん!!」
「あぁ!?」
今のはまさかと思うが僕に言ったのか? 僕をちんちくりんと言うなんて、いい度胸だ。
僕は基本、大人しいが体形のことを言われると、なぜかムカついてしまう。
「婆ちゃん。僕に喧嘩売ってんの?」
「お主が無視するからじゃわい」
無視って、婆ちゃんが呼んでいたのは黒姫って人でしょ? 僕はそんな名前じゃない。
「お主が勇者みつき、別名、勇者黒姫じゃろう?」
「はぁ?」
何その恥ずかしい名前は……。聞いたことも呼ばれたことも無いんだけど?
婆ちゃんに詳しい話を聞くと、この一ヵ月で僕達のパーティはアロン王国内では有名になったらしい。
でも、僕達は割と楽なクエストしか受けていないんだけど? たまに、ゆーちゃんの強化魔法で狂った強さになる魔物は討伐してくるけど……。それはあくまで内緒のはずだ。素材もいつきさんに卸しているしね。
「僕が黒姫ってどういうこと? 聞いたこともないし、何より恥ずかしいんだけど……」
「あぁ、通り名の様なモノじゃよ。一年ぶりの勇者で、しかも黒髪の可愛い女の子がじゃ、クエスト成功率100%ならば注目されてもおかしくはあるまい」
そ、そうだったのか……しかし、かわいいとか初めて言われたなぁ。酔っぱらった近所のおっちゃんからは茶化す意味で言われたことがあるけど……、なぜか虚しくなってきた。
それにしても黒姫って何? ……恥ずかしい。
「どっちみち、そんな恥ずかしい名前は嫌なんだけど?」
「ワシが決めたわけじゃないから知らんわい」
そりゃそうだけどさぁ……。
まぁいいや、今度リリアンさんに相談してみよう。
「で? 用があったから話しかけてきたんでしょ? 何?」
「いや、有名な黒姫と少し話したかっただけじゃよ」
は? 一体何なんだよぉ……。
僕は婆ちゃんと軽く世間話をして、ギルドの宿舎へと帰った。
≪はる視点≫
ワシは賢者はる。この国の英雄である『勇者バトス』とパーティを組んでおる。
リーダーであるバトスは仲間のワシが言うのもなんじゃが、漢気の溢れた素晴らしい勇者じゃ。
まぁ、うちの勇者の自慢はこれくらいにしておくとしよう。
最近、妙な噂が流れた。勇者みつきの話じゃ。
なんでもオリハルコンの勇者ということで、バトスと同等だというのだ。
バトスが女神の魔宝玉にオリハルコンの勇者と認めてもらうまで、十数年かかった。そんなバトスとあの小さな女の子が同等? 普段ならば鼻で笑ってやるのじゃが、詳しいクエスト内容は知らんが、わずか三日で緊急クエストを解決してしまったらしい。
そこで、ワシは彼女のクエストに同行することにした。
同行と言っても変化の魔法で、小さな虫に変化してついて行っただけじゃ。
そこで在り得ないモノを見た。
ゆづきの嬢ちゃんの危険性は聞いたことがある。彼女に強化された魔物の後始末という、緊急クエストを何度か受けた記憶がある。
ワシらのパーティは、強いと自負しておる。そのワシらでも苦戦するほどの魔物じゃった。アレが王種というモノじゃろう。
勇者みつきは、ゆづきの嬢ちゃんが強化した魔物を単独で倒しておった。それだけでも驚いたのだが、同じパーティにいる、よいやみという子も単独で倒しておった。
彼女達は規格外なのじゃろうか?
実はワシは特別な目を持っておる。
その名も『魔法の眼』じゃ。
これは訓練で誰にでも使えるモノなのじゃが、ワシはこの眼を昇華させ、『魔導の眼』に進化させた。
魔導の眼には、女神の魔宝玉と同じ能力が備わっておる。要は、ランクと職業、それに称号というモノを見ることが出来るのじゃ……。
そこで勇者みつきを見てみたところ……『ランク・ヒヒイロカネ、女神に選ばれた真なる勇者、勇者黒姫』と見えてしまった。
ヒヒイロカネに関しては噂では聞いたことがある。
王族とギルドの幹部にしか認知されてないランクじゃ。こんな小娘が? とも思ったが、強化された魔物と戦う姿を見て納得してしまったのじゃ。
彼女はバトスよりも遥かに強いと……。
長生きするモノじゃな。まさか、あれ程の勇者を見つけてしまうとはな……、じゃがな、勇者としての格はバトスの方が上じゃてな……。
ワシはバトスの待つ拠点へと戻ることにした。
さぁ、最近たるみ気味のうちの英雄のケツでも蹴り飛ばしてくるかいのぉ……。




