12話 オーガ襲撃の真実
「何の真似だ?」
僕とよいやみの二人で、男を帰すまいと回り込む。
男は少し警戒をしているようだが、焦っているといった様子はない。僕達二人を相手にしても勝てるというあらわれか?
僕はともかくよいやみは戦闘態勢に入っている。となると、僕は周りが襲ってきてもいい様に警戒でもしておくかな。
「譲ってくれるんすか?」
「そうだね。でも、鬼族は亜人だから殺さないでね。亜人を殺すと少し厄介だからね」
亜人というのは、部族ごと結束が強く、殺しには殺しで報復を部族全体でしてくることがある。
それ以前に、僕は亜人をあまり殺したくはない。魔大陸にも様々な種族の亜人達がいるからだ。
僕の「殺さないでね」という言葉に、男は眉を少しだけ上げる。
魔大陸にいる亜人達は良い人達だ。そして目の前の亜人……鬼族の男も悪い人には見えない。だが、話を聞いてくれないことにはどうにもならない。
「というわけっす。あしが相手になるっすよ。あしが勝ったら話を聞くっす」
「何? 人間が鬼族である俺に勝つ? お前の様な貧相な人間がか? 笑わせてくれるな」
「むっ。失礼なっす。みつきよりは胸があるっす。貧相じゃないっす」
オイ、イマナンテイッタ?
っと、今はそんなことはどうでも良い。よいやみは後で〆るとして、確かに普通の鬼族と人間を比べるのなら、人間に勝ち目はないだろう。
しかし、よいやみはオリハルコン。もしかしたら、強いかもしれない。そこに賭けようと思う。もしもの時は僕もいるしね。
よいやみと男の戦闘が始まった。
しかし、決着は割とアッサリついた。
結果だけ言うと、よいやみは強かった。恐らく闘気を全開に使った僕と同等か、僕よりも少し強いくらいだ。
鬼族の男も強かったが、よいやみのスピードにはついていけてなかった。
自慢の鬼族の筋力も当たらなければ意味がない。
よいやみは鬼族の男の攻撃を全てギリギリで避けて、自分の攻撃をカウンターとして鬼族の男に当てていた。しかも明らかに本気ではないのにだ。
これには鬼族の男も勝てないと思ったらしく、早々に降参していた。
囲んでいる鬼族? が集団で襲いかかってこなかったことを考えると、元々こうなることを予想していた?
「いやぁ。久しぶりにいい汗かいたっす」
よいやみはそう言って笑うが、汗一つかいていない気がするのだが……。よいやみは最小限の魔力で最低限の動き分しか強化していなかったようだ。
これは……本当に強いね。
「人間の……こんな少女に負けるとは我ながら情けないな。しかも一撃も入れることが出来ないとは……」
鬼族の男が、残念そうに僕達の元に歩いてくるが、この男も本気を出していなかったのだろう。
鬼族の男は『ハグロ』と名乗った。まだ若そうなのだが、鬼族の族長だそうだ。
僕達の馬車を囲んでいたのは、あくまで牽制の為であり、集団で襲おうと思ったわけではないと言っていた。
「で? 俺に聞きたいこととは?」
「そうだね。この先の村でオーガに襲われている村があると聞いたんだけど」
僕がそう聞くと、ハグロの顔が厳しくなる。
もしかして、僕の予想通り襲っているのはハグロ達鬼族? そう思ったのだが、ハグロの口からは意外な言葉が出て来た。
「俺を最初っから鬼族と断定していたお嬢ちゃんならば、オーガの習性も知っていると思う」
「縄張り意識のこと? それくらいは知っているよ。でも、直接見たり接したことが無いからそこまで詳しくはないけど」
「そこまで知っていればいいさ。で、この先のオーガ達は、特にその傾向が強くてな、よっぽどのことがない限りは人を襲ったことはなかったが、ある日村長が縄張りに入ってな……」
ハグロの話では、あの村の村長は大人しいオーガからならば縄張りを奪えると思ったらしく、村民が止めるのを無視して縄張りに入ったらしい。
普通ならば、この時点で村長は殺されていてもおかしくなかったそうなのだが、オーガは追い返すだけで済ませたらしい。
村長は殺されないことをいいことに盗賊を雇ったらしい。
ここで冒険者じゃなく盗賊を雇った理由は、冒険者ギルドに依頼を出すと村に調査が入るのを恐れたからだと僕は思う。
ここで冒険者ギルドが介入していれば、村長を止めただろう。わざわざ魔物を怒らせる理由はないからだ。
ここからが更に問題で、盗賊はオーガの縄張りで幼体のオーガを殺して回ったそうだ。その結果、オーガが怒り狂い村を襲撃したとのことだ。
ただ、オーガ本来の気性のせいか、人間には被害は出ていないという。
僕はこの話を聞いて思った。
本当に助けなきゃいけないのはどっちだ? と……。
今回の緊急クエストは蓋を開けてみれば、村長の自業自得だ。
しかし、ハグロの話では、この問題もあと数日で収まると思っているらしい。その根拠は勇者が村に向かったという話を聞いたからだ。
一瞬、僕のことか? と思ったが、時系列的には僕なわけがない。
ハグロが聞いた勇者というのは、金色の全身鎧を着て、金色の盾を持ち、金色の剣を持った目に優しくない勇者だということを鬼族の青年が話していたらしい。
話を聞いているだけで『流れ星の流星』並みに馬鹿な奴を想像してしまうんだけど……。
まぁ、勇者のことはリリアンさんに聞くとして、僕はハグロに一つだけお願いをすることにした。
お願いを聞いてハグロは快く了承してくれた。
これでもしもの時の保険になる。僕達はハグロと別れ馬車に帰る。
馬車に帰ると、リリアンさんが心配そうにゆーちゃんを膝枕していた。
「みつきちゃん、よいやみちゃん。何かあったの?」
リリアンさんにはちゃんと説明した方が良いと思ったので、ハグロとの会話内容、勇者の存在を話しておいた。
村の自業自得だと聞いて、リリアンさんは額に手を当てていたが、リリアンさんの心配事は勇者にもあるそうだ。
勇者の名前は『クレイザー』
ゴールドランクの将来有望なのは有望なのだが、思い込みが激しく、暴走しがちだそうだ。
今回のことも、恐らくクレイザーの担当から聞き出したのだろうとのことだ。
勇者がかかわるのならば、問題は解決に向かうのではないか? と聞いたところ、リリアンさんの表情が曇る。
「あの子は……人の話を聞かないのよ……」
僕はその言葉を聞いて、嫌な予感しかしなかった。
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