8話 強化魔法
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ゴブリンは、強化された自分の体を確認しているようだ。
この威圧感は、弱い魔物が出す威圧感じゃない。これはどうしようか……。
しかし、ゆーちゃんには驚かされる。
他人への強化魔法というのは、対象となる人の魔力波長が完全に一致しないと、成功しないと聞いたことがある。
しかもそれは人間の場合だ。魔物相手では話が違ってくる。
魔物の場合は、魔力波長がランダムに変わるから、強化出来ないと聞いた。
ゆーちゃんがかけた魔法は魔物を強化した。
きっと魔法を研究している人達からすれば「在り得ない!!」と言うだろうが、目の前のゴブリンは実際に強化されている。
……と、今はそんなことを考えている場合じゃない。
目の前のゴブリンがいつ襲ってくるか分からないから、警戒を解くわけにはいかない。
ゴブリンは右手を上にあげる。
何をするつもりだ?
「ゆーちゃん!! 下がってて!!」
僕が叫ぶとゆーちゃんはゆっくり木の後ろに隠れる。
もっと遠くに逃げていて欲しいが、ゆーちゃんの足では仕方ないかもしれない。
僕は嫌な予感がして、ゴブリンの首を斬りに行く……が、ゴブリンの首は予想以上に硬く、剣が弾かれた。
硬っ!?
嘘でしょ? この皮膚って鉄以上の硬さなの?
何度も同じ場所を斬るけど、全て弾かれる。
ゴブリンは僕の攻撃を気にせず、大斧をどこかから取り出した。
あ、あれはヤバい!!
僕は一瞬でゴブリンの攻撃範囲から抜ける。……が、ゴブリンの動きも速い!!
避けられるか? いや、避けなくては死んでしまう。
ゴブリンが大斧を振り下ろす!! 僕はこれを避けるが、大斧が地面に激突した時の衝撃で吹き飛ばされそうになる。
これは不味いなぁ。手加減している場合じゃない。
僕は、全速力で腕を斬りに行く。
『パワーが無くて硬いものが切れない場合、超高速で斬りつければ斬れる場合があるわ。それと関節を狙いなさい。皮膚や外皮が硬くても、関節はそこまで硬くない場合が多いわ』
僕に剣を教えてくれたハインさんの言葉だ。
僕は、ゴブリンの関節部を狙い自身の出せる最高速で斬りつける。
ゴブリンもこの動きには反応できなかったらしく、腕は宙を舞う。
斬れた!!
「ギャガアアアアアアアア!!」
ゴブリンにも痛みがあるのか、斬れてなくなった部分を押さえている。
斬り口からは血が噴き出していたのだが、筋肉で血を止めたのか今は血が止まっている。
本当に出鱈目なゴブリンだ。
ゴブリンは僕を見て口角を釣り上げる。
こいつ……僕に勝てると思っているな?
今度は腕じゃなくて首を落とす。
僕は、さっき腕を斬り落とした速度で首を狙うが弾かれる。
なんで? と思ったけど、ゴブリンは筋肉を硬化させて防御していることに気付く。
これはアレだ。
村の近くの森にいるイノシシと同じくらいの強さだ……。
まともに戦ったら、僕の方が分が悪いかもしれない。
僕はゴブリンの攻撃を避けているうちにゆーちゃんの傍に来ていたらしく、ゆーちゃんが僕のズボンを引っ張る。
「え? ゆーちゃん、危ないよ!!」
僕は焦るが、ゆーちゃんは焦りもなく僕をジッと見る。
「みーちゃんはどうしてまりょくをつかわないの?」
「僕には魔力が無いんだよ」
「んー?」
ゆーちゃんは僕をジッと見る。
もしかして、疑っている? 確か魔眼の特性って……。
人の隠している力を見破る……。
そうか……ゆーちゃんには隠していても仕方ないか。
陰で隠れている、あの人にもバレるけど、ここで死ぬよりかはマシだ。
僕は生まれながら魔力が無い。だから魔法はもちろん、魔力を使う生活用の魔法具すらも使えない。
僕はそれが悔しくて、魔力の代わりに何かできないかをじいちゃんに相談した。
じいちゃんは魔力を使わない、『闘気』という力の使い方を教えてくれた。
本来、闘気は衝撃波として使うのが普通らしいが、僕は闘気を体の中に押し込めることで身体能力の強化を実現した。
魔力による身体強化は、魔力を持つ者ならば息を吐くようにできるらしいが、僕は意識しないとそれが出来ない。
その代わりと言っては何だが、この闘気を纏う力は武器にも反映させることができる。
僕はそれを使うことによって、僕よりも格上のイノシシを倒すことができていたのだ。
武器に闘気を纏わせることは、村でも僕にしかできなかったことだ。
ゴブリンは僕の攻撃が効かないことをいいことに、大斧を拾い上げ襲いかかってくる。
流石にこのままじゃ負けてしまう。
全身に闘気を巡らせることで、僕の動きは数倍は速くなる。
身体能力も高まっているので、ゴブリンの様な巨体でもぶん殴れる。
僕はゴブリンの頬を思いっきり殴る。ゴブリンは殴られた反動で無防備に吹っ飛び倒れている。
ゴブリンが倒れているのを見過ごす僕じゃない。
一瞬で倒れているゴブリンの真上に移動する。そして、剣をゴブリンの核部分に突き刺す。
僕の知る限りゴブリン……小鬼族の核は胸の中心部分のはずだ。
僕が剣を突き立てると、ゴブリンが苦しみだす。
しかし、死にはしないみたいだ。
ゴブリンは苦しみながら立ち上がろうとする。
僕も一度剣を抜き、剣に闘気を込めそのままゴブリンを縦に斬る。
流石の強化ゴブリンも両断されれば絶命するらしい。
ゴブリンはピクリとも動かなり、何とか倒せたようだ……。




