7話 初めてのクエスト
「んんぅ……」
僕は窓から入る朝日で目を覚ます。昨日は一緒のベッドで寝たので、僕のすぐ横にゆーちゃんが寝ている。
うん。朝早くから可愛い寝顔を見れるのは良いね。これからも一緒に寝よう。
ゆーちゃんはもう少し寝かせてあげるとして、僕は昨日買った服に着替えて、クエストを受ける為に冒険者ギルドの受付まで下りて来た。
冒険者ギルド内は混みあっていた。
朝は良いクエストを受ける為に、冒険者達は朝早くにギルドに来るようだ。
冒険者達は受付をして貰う為に長い列を作っている。でも、勇者専用の受付には一人もいない。
本当に僕以外の勇者がいるのだろうか……?
勇者専用の受付にはラビさんではなく、リリアンさんが座っていた。
「おはよう、リリアンさん。今日はラビさんはお休み?」
「おはよう、みつきちゃん。そうよ。だから今日は私が勇者担当。それにしても随分と軽装になったわね」
軽装か……。重い鎧を着ると動きが鈍くなってダメージを負ってしまうかもしれないし、軽装ならば相手の攻撃を避けやすくなるんだよね。
今の僕の格好は、膝までの短パンと、袖の無い服を着ているだけだ。小手だけは軽い鉄製の物を付けている。
これで敵の攻撃を受け流すのだ。受け止めると腕にダメージを受けるので注意が必要だけど……。
「リリアンさん、今日は僕とゆーちゃんの初クエストだから、簡単なクエストを用意して欲しいんだけど」
「簡単なクエストねぇ……。みつきちゃんとゆづきちゃんの実力ならば、このギルドでも最上級のクエストでも受けられそうなんだけど? ……って、そんなに睨まないで。初心者用のクエストを用意するから」
リリアンさんは、渋々、初心者用のクエストの依頼書を僕に見せてくれる。
えっと、ケダマの毛皮が欲しい? 意味が分からない。
ケダマって何? 魔物の名前? 見たことも聞いた事も無いんだけど……。
しかも五匹か……魔物の毛皮ってことは、魔物の解体をしなきゃいけないかな。
「この魔物、強いの?」
「ケダマは魔獣系統の最下級の魔物よ。みつきちゃんは魔獣系の魔物を倒したことがあるの?」
「あるよ。村の近くの森にいた大きいイノシシ。あれを倒したことがある」
「え?」
名前は知らないけど、あのイノシシのお肉は美味しいんだよね。
魔物は単純だから、倒し方を覚えれば僕みたいなただの村娘にも倒せるんだよね。
ケダマはどうなんだろう?
「そ、そう。みつきちゃん。魔物を倒したら、これを振りかけてね」
「これは?」
リリアンさんに渡されたのは小さな袋で中には細かい粉が入っている。
「それは浄化の灰。死んだ魔物に振りかけると、魔石と素材が残して燃え尽きる便利な粉よ。ただし、浄化の灰を振りかけない方が良い素材になる場合もあるんだけどね。ケダマの場合は浄化の灰をかけても毛皮が残るから問題はないわ」
なにそれ、凄く便利じゃないか。
これが村にあれば、ゴブリンの解体なんて覚えなくて良かったのに……。
「便利な粉だね。でもどうしてこんなものが存在するの?」
「クジ引きで選ばれた勇者や新人冒険者は、解体なんてできないのよ。だから、女神様が作り出したと言われているわ」
何それ、怪しい……。
まぁ、便利なものがあるのならそれでいいや。
僕はリリアンさんに挨拶をして、ゆーちゃんを起した後、初クエストに出かけた。
依頼書に書かれているケダマの生息地は、アロン王国の南にあるそうだ。
南門から王都の外に出ると、すぐに森が見える。
目視できる程近いから、徒歩での往復も可能と書いてあったのか。
ゆーちゃんと仲良く手をつないで、森へと向かう。
森に入り口付近に何かがいる。冒険者? にしては小さい……? ということはゴブリンか?
僕はじっくり小さい人? を見る。
緑の肌に大きな鼻。それにとがった耳。
間違いなくゴブリンだ。
僕がゴブリンを見つけたのと同じように、ゴブリンも僕達を見つけたようだ。
ゴブリンは奇声を発して、僕達に襲いかかってくる。
え? 遅い?
絶望の村周辺にいたゴブリンの速さは、今襲いかかろうとしているゴブリンの数十倍の速さはあったよ?
こんなの楽勝じゃないか。
もしかしたら、冒険者が取り逃がした死にかけのゴブリンだったのかな?
僕はゴブリンの首を簡単に落とす。
残酷だが、魔物というのは本能だけで生きているので、こちらが躊躇っても無駄だ。
たまに本能で人間と敵対しない魔物もいるけど、魔物は魔物だ。
「みーちゃん。つよい」
ゆーちゃんに褒められたけど、こんな死にかけのゴブリンを一撃で倒したところで、強さは示せないよ。
僕はゆーちゃんに「そんなことないよ」と笑いかけてから、ゴブリンの死体に浄化の灰をかける。
浄化の灰をかけられたゴブリンの死体が燃え上がる。
そして炎が消えると、そこにはゴブリンの骨と灰色の魔石が落ちていた。
これが魔石か。近所の魔法具屋さんで見た魔石よりも色が悪いね。あの時の見た魔石は綺麗な銀色だったし……。
しかし、本当に便利な灰だ。
ゴブリンの素材は、ゴブリンの骨か。ゴブリンの骨は砕いて乾燥させると、良い肥料になるんだよね。
これも買い取ってもらえるのかな?
僕は道具袋にゴブリンの骨と魔石を入れて森の奥へと進んだ。
森の奥には魔物の気配が多くある。
ケダマはどれかな? あ、あの茂みに魔物がいる。
僕は、茂みに剣を突き刺す。茂みの中の魔物は小さく呻き声を上げて絶命したようだ。
僕が剣を持ち上げると、剣に刺さっていたのは、全身毛だらけの魔物だった。これがケダマか?
本当に弱いみたいだ。
「ねー。みーちゃんはどうしてまもののばしょがわかったの?」
「ん? 生体感知だよ。ゆーちゃんにだって使えるでしょ?」
「ゆーちゃんつかえない。というか、そんなのつかってるひとみたことない」
え? こんな便利な技術なのに?
今度、リリアンさんに聞いてみよう。
ケダマに浄化の灰をかけると激しく燃え上がる。
おいおい……これは、本当に素材が残るのか?
僕の心配をよそに、燃え尽きた後には、綺麗な毛皮と魔石が残っていた。
これはアレだね。
僕が解体するよりも綺麗な毛皮が手に入りそうだね。
残りのケダマを4匹狩って、ギルドに帰ろうとゆーちゃんを探すと、死にかけのゴブリンをつついている。
あぁ、殺しきれてなかったか。
ちゃっちゃと片付けて帰ろう。
僕がそう思い、ゆーちゃんとゴブリンに近付こうとしたとき、何か嫌な予感がした。
なに? 今の……。
僕が周りを見ていると、ゆーちゃんがゴブリンにひーるをかけ始めた。
まぁ、死にかけているから大丈夫かな? と思った僕が馬鹿だった……。
ゴブリンは、ひーるをかけられた後、苦しみだしたと思ったら、急に立ち上がり5倍近く大きくなった。
こ、これは……?
「しっぱいしっぱい。きょうかしちゃった」
「……え?」
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