17話 北の山
誤字報告、いつもありがとうございます。
グレンさんの依頼を受けて三日経った。
僕達は三日間の間、沼地でゲゴゴドンを狩り続けた。
僕達の強さを見るだけで解放してくれる予定だったんだけど、結局特訓が始まった。
まぁ、こんな予感はしていたよ。
正直な話、ゲゴゴドンを一撃で倒すのならばそこまで苦労はしない。
だけどグレンさんの特訓がそんなに優しいわけがなく、最初の一日以外はわざとゲゴゴドンを挑発して怒らせたゲゴゴドンの攻撃を避けながらの狩りとなった。
さらにグレンさんは別の場所から数匹のゲゴゴドンを連れてきて僕達と戦わせていた。
動きが遅く、攻撃手段も舌を伸ばしてくるだけなので苦戦はしないが、数が多いと結構キツかった。
そのおかげか、この三日間でゼロの魔力の使い方が少しうまくなった気がする。
ゲゴゴドンの沼はヴァイス魔国から近いので、日が沈めば帰り朝になれば戻っていた。
毎日お土産と言い、ゲゴゴドンを持って帰っていたら、今日の夕食の時に「これだけゲゴゴドンがあるのなら、カイト食堂で新作料理として出していいかもしれない」とカレンが言っていた。カイト食堂で人気料理になれば、ゲゴゴドンの狩りが日常化しそうだ。
グレンさんとの修行四日目。
今日も僕達はゲゴゴドンの沼にいた。
そういえば、ゲガガドンも狩ると言っていたのに、もう半分過ぎちゃったけどどうするんだろう?
と思っていたら、グレンさんが「よし。ゲゴゴドン退治はここまでだ。次の場所に行くぞ」と言い出す。
次の場所?
次の場所はゲガガドンの巣がある北の山だ。
ここからだとかなり遠いからヴァイス魔国で話してくれたらいいのに。
「さて、ここから走っていけば一日で到着する。残りの三日間は北の山に泊まり込む。お前達も着替えなどは持ってきているだろう?」
確かに便利な道具袋があるので、着替えなどはちゃんと入れてある。それはよいやみも同じで泊りになっても問題はない。
その事を確認すると、グレンさんが走り出す。
うわ……この人本気だ……。
僕達は走りながらグレンさんに「ヴァイス魔国まで転移すればいいのに……」と言うと「馬鹿者! 走るという行為は大事だ。行くぞ!」と聞いてくれなかった。
グレンさんはかなりの速さで走るので、よいやみは【全開魔力】、僕は【ゼロの魔力】と闘気を使って必死についていった。
目的地である北の山の中腹にある山小屋に着いたのは、周りは暗くなり始めていた時間だった。
よいやみが連絡用の魔宝玉でいつきさんに今日から帰れない事を伝えた後、朝から走っていて疲れ切っていたので寝袋を出して寝ようとしたのだが、グレンさんに止められる。
グレンさんは意外と優しくて、夜の見張りはグレンさんがしてくれる。
グレンさんにいつ寝るのか聞くと、一カ月くらいは寝なくても問題ないらしい。
そんなグレンさんが僕達を止めるのは何で?
「何すか? あし等は熊と違って普通の人間っす。めちゃくちゃ疲れたっす。もう寝たいんすけど?」
「ぼ、僕も同じかな……」
「お前等が良いんならいいが、お前達も一応女だろう? 体を拭くか水浴びなんかは良いのか?」
「へ?」
「何すか? あし等の裸でも見たいんすか?」
「アホか。お前等の裸なんぞに興味などないわ。とはいえ、お前等は女の子だからな。その辺に気を使ってやっただけだ。もし、水浴びでもしたいのなら、あの崖の上に温泉がある。行ってみろ」
そう言ってグレンさんはかなり高い岩山を指差す。
え?
かなり高くない?
「みつき、知っていたっすか?」
「いや、知らない。そもそも、この山に来たのも初めてなのに」
「入るなら早く行ってこい。帰ってきたら明日の話をする」
僕とよいやみは、崖の上の温泉に向かう。
グレンさんの話では、傷や疲労感が取れる結構いい温泉だそうだ。
僕とよいやみはお風呂で癒された後、山小屋に戻ってくる。
山小屋ではグレンさんが料理を作ってくれる。グレンさんは料理も上手でかなり美味しい。
聞けば、病気で亡くなった奥さんがあまりものを食べれない人だったらしく、グレンさんが少食でも美味しく食べられるようにと工夫していたそうだ。
グレンさんって奥さんいたんだ……。
「そうだ。みつき、ゲガガドンの事を説明できるか?」
「え? うん。と言っても僕も実際に見たわけじゃないから魔物図鑑の知識と聞いた話くらいしか説明できないよ」
「あぁ。それでいい」
竜王ゲガガドン。
翼が無く、黒い龍鱗で一本しか無い牙が特徴のドラゴンだ。
性格は凶暴で、赤い光のブレスを吐くそうだ。
この竜の最大の強みは防御力で、龍鱗が硬いのは当たり前なのだが、肉も硬く食用には向かない。
「あまり狩っても恩恵の無い魔物っすね」
「お前の言う恩恵は食用だけなのか? 巨大な体の全ての鱗が龍鱗ならばそれだけでも充分な価値だろう? 牙も強そうだ」
「僕もそう思うよ」
「肉は食えないんすよね」
「そう書いてあるけど、変な噂は聞いた事があるよ」
「何すか?」
「ゲガガドンの肉は噛み切れない程硬いけど物凄く美味しいって。ただ、そのまま焼くと苦みが酷くて食べられた物じゃないって」
「言っている事が無茶苦茶っす。意味が分からんっす」
「うん。僕も言ってて意味が分からないよ」
この話をしてくれた人も、色々な話を聞いて混乱したって言っていたな。
「それで、ゲガガドンは発生型なのか?」
「うーん。そこは分からないんだよね。ただ、卵は発見された事は無いらしいけど」
「それなら発生型なのだろうな」
確かに発生型かもしれない。
でも、北の山には正体不明の卵も見つかっている。
その卵はゲガガドンとは関係なさそうだけど、結局何の卵かは分からなかったそうだ。
「みつき、お前は魔物の知識が凄いな。将来は魔物博士にでもなる予定だったのか?」
「え? そんな予定はないよ」
確かに魔物の事を調べたりするのは楽しいけど、僕が魔物に詳しいのは死にたくないからだ。
魔物の事を知っておけば、襲われたときに対処ができるし、倒す事だってできる。
そう考えて研究していただけだ。
「そうか。まぁ、いい。お前の知識は武器になる。大事にしろよ」
「うん」
正直なところ、褒められるのはとても嬉しい。
その日は僕とよいやみは一日走っていた事もあり疲れていたので、早めに寝た。
次の日。
僕達三人はゲガガドンを探して歩いていた。
グレンさんの言う通り発生型ならば、もっと頻繁に出てくるはずなのに一匹も見ていない。
発生型じゃなかったのかな?
卵が無いのも自分の生まれた殻を食べる魔物もいるので不思議ではない。
そう思っていたのだが、急に地鳴りが響く。
なに?
そう思っていると、目の前に黒い龍鱗を光らせたドラゴンが現れた。
ゲガガドンだ。
やっぱり発生型だったんだ。
僕とよいやみは戦闘態勢に入ったのだが、グレンさんが前に出る。
「さて、まずはお前達に手本を見せてやる」
「手本っすか?」
「あぁ。お前達は防御面だけを気にしていたが、例え龍鱗に覆われても倒す方法はある。よく見ておけよ」
グレンさんはそう言ってゲガガドンに突撃していく。
戦闘は殆ど一瞬で終わった。
グレンさんはゲガガドンの急所を狙って攻撃していた。
急所を打ち抜かれたゲガガドンはアッサリと絶命していた。
「どうだ? 参考になっただろう?」
「「あ……はい」」
グレンさんは、ものすごくいい笑顔で僕達にそう話す。余程自信があったのだろう。
ただ、急所を打ち抜く時に龍鱗を砕いていたので何も参考にならなかった……。




