第六話「みとせの孤独」
道中で色々あったが無事、家にたどり着くことができた。
この神経質な性格なんとかならんかなあ。
ため息をつきながらドアノブを回し、家の中に入る。
「ただいまー」
玄関で靴を脱いでいると、キッチンからパタパタと軽い足取りが俺のもとに近づいてくる。
「おかえりなさいっ」
柔らかい笑顔で迎えてくれたのは、制服の上からエプロンを纏ったみとせだった。
料理中なのにわざわざ迎えに来てくれたのだろう。
格好と相まった健気さにすごく心が和んでしまった。
どこか新妻さんっぽくて、心もむず痒くなっちゃって……にやけてしまいそうな顔を無理やり引き締める。
「遅かったね」
「いつもより多い買い物だったから」
「あ、そうだったんだ……なんかごめんね」
「いいよ。女の子に持たせる量じゃないし」
「そ、そうじゃなくて……」
いったん言葉を切ったみとせは胸の前で指を絡ませてもじもじさせながら口を開く。
「一緒に、行ってあげたほうが良かったかな……って」
じっ、と上目遣いに見上げてくる。
目が合った瞬間、みとせに聞こえてしまうんじゃないかってくらい心臓が高く跳ね上がった。
「い、いやぁ……みとせはお母さんの料理を手伝いたかったんだろ? だったら大丈夫だよ」
「あ……そっか……」
視線を落とし、しぼんだ花のように元気をなくしてしまう。
これ、まさか来なくていいって感じに伝わっちゃったか!?
ま、まずいッ、フォロー入れないと!
「俺はみとせの作った料理を食べたかったから、むしろ作ってくれて嬉しいよ」
「ほ、ほんと? なら、よかったな……えへへ」
安心したのか頬を緩めて柔らかい笑みをこぼしていた。
「それで、どうかな? 私の……その……この格好……」
軽く握った拳を口元に当て、恥ずかしそうにもじもじと尋ねてくるみとせ。
たまにちらっちらっと視線を向けてくる姿も可愛い。
でもエプロン姿は普段からちょくちょく見ているわけだし感想なんて今さらだと思うけど、みとせの質問だからまじめに答えてあげることにした。
「すごく似合ってるよ。新妻さんみたいで」
「にっ……新妻!?」
衝撃的な言葉だったようで、顔をあっという間に真っ赤にさせてあたふたし始める。
「新妻って、あの、奥さんのことだよねっ。それって尊の……というわけじゃなく? それとも普通に尽くしてる奥さんって感じ? ああぁああっ……」
混乱しているみたいで、早口になり目も回してしまっていた。
「落ち着いて。似合ってる、似合ってるから」
「そ、そうなんだ……ありがと」
俺の言葉でようやく平静さを取り戻してくれたようだ。
深呼吸で心を落ち着けた後、先ほどまでの態度とは一転して意を決したように真っ直ぐ向き直ってくる。
「私……尊が喜んでくれるなら、何でもがんばるからっ……料理とか、お洗濯とか、掃除とか、色々……尊のために、がんばるからっ」
そこでいったん言葉を切り、自分の赤い髪をいじり始めた。
鬼灯色の赤い髪。
小さい頃、周りの子たちから化け物みたいだといじめの原因になった赤い髪。
周りが彼女の赤い髪を批判する中、俺は素直に綺麗な髪だと思った。
だから素直に『みとせの髪は綺麗で、僕は好きだよ』と伝えた。
するとみとせはありがとう、って泣き崩れちゃったんだっけ。
みんなに自分の身体のことを責められて、反論もできなくてすごく悔しかったと思う。
誰にも助けてもらえなくて、つらい孤独を強いられて苦しかったはずだ。
だから俺は今後、何があってもみとせを独りにはしない。
ずっと味方だ、ずっと一緒にいてやる。
決して、独りにはさせない。