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オロチの子種  作者: 雛鳥めっせ
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第五話「忍び寄る陰」

「あービックリした……っ」

 俺と同じ学校の制服を着た男子生徒だった。

 背は俺よりも頭一つ分高い長身で、クラスメイトの真直と同じくらいだ。

 しかし顔つきはまだ子供っぽさが抜けておらず、すごく若い。

 ひょっとすると俺と同じ一年生かもしれない。

「……誰ですか? 商店街からずっと付いてきていたようですが」

「あれっ、ひょっとして気付かれちゃってたか。さすがだなー」

 人懐っこい笑顔を浮かべ、リラックスした様子で話しかけてくる。

「初対面ですよね」

「うん、初対面っ……で、同じ一年生っ」

「……………………」

「何で刀、構えてんの?」

「最近物騒な事件が続いているので、次の犠牲者は俺かなと思って警戒してました」

「あーそっかー……そうだよなー……そりゃあ悪かった、ゴメン!」

 こちらの事情を察してくれたようで、男は両手を合わせ、頭まで下げてきて謝ってくれた。

 どうやら悪い人でもない、普通の学校の生徒のようだ。

 俺も刀身を出した右手を下げ、素直に頭を下げる。

「いや、いいよ……俺も早とちりしてゴメン…………で、誰? どうして付いてきたの?」

 同学年の男子生徒は自信満々そうに自分を親指で指し、元気に語った。

「オレは御堂健一〈みどうけんいち〉! 瀧真クンと同じ『獣塚市立山吹学園』の一年生だ。瀧真クンが今度の身体検査で学年トップの候補らしいからどんな奴かなーって思って観察してた」

「あー……なるほど」

 つまりアレか、『俺が学年トップになってやる!』的な熱い人なんだろうか?

「でもどうして俺の名前を? 初対面なのに」

「担任の先生に聞いたんだっ。誰が一番強そうかって」

 ということは先生たちの間でも俺のことは評判になってるってことか。

 確かに推薦入学だったから話題に上るだろうけど……なんか恥ずかしいな。

「オレも一位を狙ってるからな! 瀧真クンには負けないぞっ」

 やっぱり熱い人だった。

「ところで、そのー……」

 今までとは打って変わって歯切れの悪い言葉に切り替わる。

「その刀……どうしてまだ引っ込めないのかな? もしかしてまだオレ信用されてない的な……?」

「これは一度出したら時間が経たないと消えない仕組みになってるんだ」

 正確には出した刀身の長さや大きさや精度に比例するといった細かい制約がいくつかあるが、初対面相手にそこまで詳しく説明するのも何なので大まかに説明するに留める。

「ちなみに御堂君はどんな血力なの?」

「オレ? オレは『葉刃』だ」

「ようじん?」

「葉っぱの刃って書いて葉刃。周囲一〇メートル以内の葉っぱを刃みたいに鋭くできるんだ。飛ばしたりみたいな操ることはできないけどね。今はまだ通常血力者だからだけど、もし昇華(しょうか)血力者になれたら操れるかもしれない……確証はないけどね」

 残念そうにため息をつきながら両掌を上に向けて肩をすくめる。

 葉っぱならその辺に無数にあるから用意は簡単そうだ。

 もし操られてしまったら……俺のほうが不利かな。

「どんな奴かわかったし、俺も帰るわっ。悪かったな」

「いや、いいよ。またね」

 お互いに手を振って別れる。

 粘着しないあっさりとした性格が好感を持てた人だった。

「じゃあ俺も帰――、ん?」

 袋を持ち上げようとしたところで気付いた。

 真っ赤に熟れたリンゴを二個買っていたはずだが、一個なくなっている。

 生成した刀身を地面に置き、袋の中を漁って下側に移動していないか確認してみたがそれでも見つからない。

「どこかで落としたかなあ……」

 商店街からこの場所に来るまで落とした音もしなかったし、あるとしたらこの辺りにあるはず。

 しかしどれだけ周囲を見渡してもリンゴは見つからなかった。

「……仕方ない、ひとまず家に帰るか」

 刀身を手にし、小さく息を吐いて曲がり角から本道に出る。

 出たところで俺は、思わず一歩後ずさってしまった。

 視線が地面の一点に集中する。

 周りの音が聞こえない、肌を焼く夕陽の熱さも感じない、先ほどまで届いていた青い葉っぱの香りも匂わない。

 それだけ、我が目を疑った。

「俺が……買って来たリンゴ」

 果肉をかじられて種部分しか残っていないリンゴが、地面に置いてあった。

 無造作に転がされているのではなく、待っていましたと言わんばかりにわざわざ縦向きに置かれている。

「…………」

 生成した刀身がまだ残っている。

 棒立ちの状態から半身に身を構え、極限にまで聴覚を研ぎ澄ませた。

 今なら水滴の落ちる音すら聞き逃さない。

 ……………………。

 身構えて数十秒、全く進展がないまま時間だけが過ぎていく。

 創り出した刀も時間経過で消えてしまったが、それからしばらく待っても襲われる気配すらない。

 リンゴは不審な点が多かったが、周りには怪しい人はいないようだ。

「……帰ろう」

 無駄ではなかったけど、いつも以上に神経を使いすぎて疲れた。

 置かれたリンゴは帰り道の公園のゴミ箱にでも捨てていこう。


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