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オロチの子種  作者: 雛鳥めっせ
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第二話「大事な幼馴染」

 昼時の学生食堂は言わずもがな、大盛況だった。

 俺とみとせは何とか二人分の席を見つけ、空いた椅子に腰かける。

「何とか座れたな」

「空いてなかったら中庭とか屋上とかだからね」

「教室は?」

「その選択肢は……ちょっと」

「……ん?」

 理由がわからず聞き返すとみとせは顔を赤くし、眉根を寄せてムスッとしていた。

「だ、だって二人一緒に食べるところ他のみんなに見られたくないし……恥ずかしくないのっ?」

「いや、別に……」

「何なのよもう……っ、これじゃ私一人が慌ててるみたいじゃない」

「わかったよ。じゃあ学生食堂が空いてなかったら教室以外の人気がないところで食べよう。それでいいよね」

「ひっ、人気がないって……!?」

「見られたくないんでしょ?」

「言葉を選んでよッ! 人気がないなんて……変じゃないっ」

「うーん……それなら全部みとせに任せるよ。俺が選ぶとなんかみとせにとって不都合があるみたいだし」

「そっ、そうねっ。それがいいと思うっ。次からはぜんぶ私が選ぶっ」

「う、うん……」

 念を押すように強めの口調で言われてしまった。

「よしっ、じゃあ……そろそろ食べようか、いただきます」

「い、いただきます」

 俺とみとせは両手を合わせてから弁当箱のふたを取る。

 中にはお母さんが作ってくれたおかずと、真っ白に光る白飯が入っていた。

 毎朝作ってくれるから昼代も浮いてすごく助かっている。

 まずはウィンナーから……。

「もぐもぐ……うん、うまいっ」

「ふふ、そうね」

 みとせも俺に倣ってウィンナーを口にし、美味しそうに微笑んでいた。

 塩分を取ったのでそのまま白飯を箸ですくい、口の中へと運ぶ。

 みとせも白飯をすくって食し、味わうように黙々と口を動かしていた。

 っと、来週のこと確認しておかないと。

「確か来週の月曜日だったよな、身体検査」

「んー……うん、そうね」

 身体検査とは身長・体重・視力などの一般的な検査のほか運動神経、そして血力の詳細を調べる行事のことだ。

 そしてこの身体検査で取得されたデータは国の機関に送られ、そのまま管理される。

 血力は使い方によっては凶器にもなるし、犯罪の引き金にもなってしまう。

 国としては、国内にどのような血力者がいるかをきちんと把握しておきたいのだろう。

 だからこの身体検査は義務教育の間はもちろん、大学生や社会人になってからもずっと行われる必須の行事といってもいい、大規模な検査だった。

「去年からどう変わってるかなあ、一年ぶりだ」

「尊ならいい線いくんじゃないかな。去年は学年トップだったし」

 身体能力の面からいっても周囲より好成績を収めていたし、血力もかなり精度が高いって学内でも評判だった。

「やっぱり小さい頃から武道習ってたのは大きいかな」

「かもね」

 俺とみとせは小さい頃から同じ道場に通ってきており、頻度は少なくなったが今でも習いに行っている。

 最初はお父さんに勧められて俺だけ道場に行ってたんだけど、みとせも俺の後を追うように習い始めたんだよな。

 学校の部活動には入っていないけど、道場には通ってるって感じ。

「尊はやっぱりすごいよね。私なんかより頭いいし、運動能力だってバツグンだし、血力も私のなんかより強くてかっこいいし……」

 みとせは視線を落とし、ため息をついていた。

「いやっ、そんなことないって。みとせの血力だって破壊力があってすごくかっこいいよ」

「女の子なのに破壊力があってかっこいいって……どうなんだろう」

 あははと苦笑いされた……。

「もしかして……イヤ、だった?」

 遠慮がちに、声のトーンを落として尋ねてみる。

「ううん、ぜんぜんいやじゃなかったよ。尊らしいっていうか、不器用な褒め方だなぁって思っただけ」

 可愛いものでも見るような目でくすくすと小さく笑っていた。

 つい先ほどまで暗い表情だったのが一転して明るい面持ちに変わる。

 その何気ない仕草が愛らしくて思わずドキドキしてしまう。

 みとせの優しさがじんわりと伝わってきて、その感触が心臓をポンプにして全身に行き渡ってる感じ。

 すごく心地いい、ずっと一緒にいたい。

 そして……必ずみとせを何者からでも守ってみせる。

 例え世界を敵に回してでも、俺はずっとみとせの味方だ。

「……なぁに? じっと見てるけど……」

「あ……」

 考え事をしていたら固まっていたようだ。

「何でもないよ、ちょっと考え事、あはは……」

「そ、そう? 何でもないなら、別にいいけど」

 重い話になってもいけないので、この場は適当に流すことにした。

 そこでみとせがはっと気づいたように声を上げた。

「身体検査もあるけど、その後にも続いて行事があったよね。血力をみんなに披露するっていう……」

「あーそんなのもあったね。名前忘れちゃったけど」

「身体検査でトップの成績を取った人は表彰されて、その行事で紹介されるんだって」

「トップって、学年トップとか?」

「うん。学年から男女のトップを一人ずつ、三学年あるから計六人を後の行事で紹介するらしいよ」

「へえー……」

 もしトップを取ったとしても大々的に紹介されるのは恥ずかしいな。

 みんなが見てるってことだし。

「みとせなら学年女子一位も狙えるんじゃないかな、がんばって」

「えっ……? な、なんでっ」

「運動もできるし、血力の精度も少しずつ上がってきてるからさ」

 そう褒めるとみとせは視線を横にずらし、恥ずかしそうに頬を掻いた。

「そ、そうかな? あはは……じゃあ、がんばるね」

 みとせは小学校の頃からすごく頭が良かったけど、年が経つにつれて少しずつ学力が落ちていった……今でもそうだ。

 そのことで悩んでたみたいだけど、学力に反比例して血力の質はかなり上がってきている。

 これを機に少しは自分に自信を持ってほしいな。

 自分はダメな子なんだって思ってほしくない。

「みとせ一人だけに頑張らせるのも何だし、俺もトップを狙ってみるよ。一緒に一位になろうっ」

「一緒に……、うんっ!」

 一人じゃ寂しいから、二人で……そう思って、みとせのことを想って提案してみたけどこれで良かったみたいだ。

 不安を抱えていたみとせの表情が笑顔で満ちていくにつれて、俺の心にも明るい光が灯っていくのを感じる。

 俺は心の中で密かにガッツポーズを決めていた。

 彼女の笑顔が、俺の生き甲斐だ。

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