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オロチの子種  作者: 雛鳥めっせ
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第一話「オロチの子種、血力者」

 午前十二時の四時限目。

 教室内に先生の声とチョークを立てる音が静かに響き渡っていた。

 今日の獣塚市は晴れ、いい天気だ。

 梅雨前の太陽は眠気を誘う温かい光を教室に送ってくれていた。

 歴史の先生のしわがれ声も子守唄代わりになり、より一層眠気が強くなっていく。

(うわ、眠……でも眠ったらみとせに怒られる……おじいちゃんだからトーンが低いんだよなあ……)

 頭をこくこくと揺らしながら、今にも眠りに落ちてしまいそうな半目で先生を見る。

八岐大蛇(ヤマタノオロチ)討伐を名乗り出た素戔嗚尊(スサノオノミコト)が尾を切ると、切断面に一本の剣の柄が見えました。柄を引き抜くと神々しい光とともに刀身が現れ、素戔嗚尊はその剣を使って八岐大蛇を退治したのです」

 今回の授業の範囲は、有名な八岐大蛇討伐だった。

 草薙剣(クサナギノツルギ)を手にした素戔嗚尊が八岐大蛇を退治し、その際、世界に災厄がばら撒かれてしまった……という内容だ。

「剣の一撃を受けた八岐大蛇は、大量の血しぶきをあげながら絶命しました。そして空高くにまで噴き上がった血は雲と混ざり合い、雨として人々の住む大地に降り注ぎます。八岐大蛇の血液はとてつもない猛毒で、その禍々しい雨に打たれた人々は一人、また一人と亡くなってしまいます。ところが……中には何とか生き延びた人もいました。一命を取り留めた人たちはみな、人間の力とは思えない不思議な力を手に入れたのです。皆さんがすでに使っているのと同じ力をね」

 そこでいったん区切りを入れ、教室の生徒たちを一人ひとりゆったりと眺める。

「こうしてオロチの猛毒から生き延びた人たちは再興し、今の今まで繁栄を続けてきたわけです。不思議な力を操る八岐大蛇の血を受け継いできていることから、私たちはみな“オロチの子種”とも言われています」

 神話時代にいた八岐大蛇の血を受け継いでいるなんて言われてもピンとこなかった。

 でも確かに、俺たちはみな特別な力を使える。

 火を噴いたり、姿を消したり、刀を出したり、人間離れの運動神経を持つ人もいるし、空を飛ぶ人だっている。

 外の国からは超能力者の国とか言われているけど、俺たちにとってはごく普通のあたりまえの出来事だ。

「そしてこの力……今さら言われなくてもすでに知っていると思いますが、オロチの“血”を受けた者が扱える“力”であることから“血力(けつりょく)”と呼ばれています。この血力には個人差があり、一人ひとり能力の現れ方やスケールが異なります」

 そしてこのちょうどいいタイミングで、休憩の鐘が鳴った。

 座りっぱなしで退屈だった五十分の授業。

 その苦行から解放された気の緩みから、手を上に伸ばしてストレッチしたり背筋を伸ばしてリラックスするクラスメイトが何人もいた。

「じゃあちょうどいいので終わりましょうか」

「起立、礼」

 ありがとうございましたー、と挨拶が終わると静かだった教室が途端に賑やかになる。

 クラスメイトの何人かが財布を手にし、互いに声を掛け合っていた。

「よーしっ、昼飯行こうぜー」

「あっ、お前! 外からいくのずりーぞ!」

 窓から出たクラスメイトは、カエルのようにぺたぺたと壁に手足を付けながら一階へ降りて行った。

「教室あちー……冷やすかあ」

 その生徒が手をかざすと、手の周辺に白い霧のようなものが現れあたりの空気に溶け込むように消えていった。

 すると教室内の気温が下がり、まるでクーラーを入れたかのように涼しい環境が整っていた。

 太陽の光で室温が上がっていたところにちょうどいいタイミングで血力を発動させたため、周りのクラスメイトから声が上がる。

「ナイス! クーラー男」

「ちょっとー……あたしはちょうどいいから下げてほしくないんだけど?」

「ちょっとだけ! ちょっとの間だけでいいからっ」

 クラスメイトはみな、血力を使って思い思いの昼休みを過ごしていた。

「はは……相変わらずだなあ」

 俺はいつも通りの穏やかな光景に思わず頬を緩ませた。

「ねぇ、(たける)……」

 控えめな声で名前を呼ばれた俺は、声をかけられた背後に向き直る。

「ああ、みとせ。なに?」

 赤霧みとせは俺と同じ一年生でクラスメイト、そして幼馴染だ。

 鬼灯(ほおずき)のような赤い髪が印象的で、長い髪を後ろで結んでいる――いわゆるポニーテール。

 少し吊り目のキリっとした顔つきも個人的に好み。

「お昼、一緒にいこ? 予定とかないよね」

「ああ、ないよ。すぐ行こっか」

「うんっ……よかった」

 ほっとした様子で優しい笑みを漏らす。

「……嬉しそうだけど、何かあった?」

「へっ? そ、そんなことない……し、いつも通りよっ……だいたいいつも一緒にご飯食べてるからむしろ普通っていうか……いつも通りだし……うん……」

 顔を真っ赤にさせて必死に言い訳というか反論をしてくる。

「あはは……確かにいつも通りだったね、ごめん。じゃあ行こっか」

「ぁ……うんっ」

 俺たちは家から持ってきた弁当を片手に、学生食堂へと向かった。

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