第二十五話「恐怖」
代わりの痛々女と他の鑑査員数名がやってきて、鉄格子に絡まっていた痛々女を引き剥がしていた。
ひどい重傷で人間であれば即死している容体だが、このまま鑑査員を続けることはできない。
「凄まじい威力ですね」
代理の痛々女がみとせに目をやる。
「あと二、三発は打ちたかったのだけれど、駄目ね……一発で終わってしまうわ」
まだ血力発動の興奮が残ったままのようで、いつもとは違う態度のみとせが答えた。
「あのように私達痛々女の体を失敗した卵焼きのようにぐちゃぐちゃに出来るとは驚きです。もし欲求不満でしたらどうぞ続きを私の体にお願い致します」
「あー……すみません。後の組も待ってるのでまたの機会ということにしてくれませんか」
鉄格子の外で待っている別のクラスを指さす。
「残念です。では血力を使いたくなったら是非とも次回は私にお願い致します。必ずですよ」
みとせの目をじっと見て約束を取り付けた後、鑑査員としての所定位置に移動し外で待っているクラスを手招きする。
ホント、変わった妖怪だ。
「……………………、はぁ」
みとせが自分の手の平を見つめて落胆したようにため息をつく。
「どうしたの?」
「私、また霊力が上がってきてるみたい」
「ああ……」
すごいよ、とは言わない……気にしているからだ。
「小学校の時はここまでじゃなかった。空になったジュースの缶を倒すくらいしかできなかった」
みとせの端正な顔つきが悲しみに歪む。
「中学校になったら、コンクリートの壁も……壊せるようになってた……っ」
瞼に力を込め、涙をこらえようとしていた。
「そして今日、高校生になったら……っ、と……とうとう、あの痛々女もッ……ボロボロにできた……っ!」
俺を向いたみとせの目じりに、今にもこぼれそうな雫が溜まっていた。
「私……っ、どんどん人間離れしてる……っ、これでもまだ、通常血力者なのよッ……どうして……っ、私、怖い……ッ!」
「…………」
俺はみとせの背中に手を回し、優しく自分のほうへ引き寄せる。
「みとせが何者なのかはわからない。でも――」
魂を込めて、自分の全てを込めて、みとせにハッキリと告げた。
「俺はいつでもみとせの味方だ。一人じゃない。世界中を敵に回してでも、俺は決してみとせを独りにしない!」
「っ……ぐすっ、う……うんっ……」
全てを委ねるように、額を俺の胸に押し当ててくる。
心優しいみとせが、他者を傷つけられる血力を扱えてしまう。
しかも年々、その力が強まっていく。
自分は何者なのか、化け物じゃないのか、そして……人間扱いされなくなることで、周りのみんなから拒絶されるのでは、独りになるのでは……みとせは、それを一番恐れていた。
でも心配はいらない。
どんな時でも傍にいる。
俺はみとせの味方だ……これからずっと、永遠に。




